25 - 尾頭ヒロミ(『シン・ゴジラ』)のノートPC

 シン・ゴジラ、おもしろいですね。特に市川実日子さん演じる尾頭ヒロミがよかった。お言葉ですが既に自重を支えている状態と考えます。

 よかったので、彼女の使っていたノートPCを探した。

 

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 そのため(だけじゃないが)に4回観て、確認できた特徴は以下の通り。

 

Panasonic

・天面の形はLet's Noteに典型的なそれだが、色は黒

・左側面に青色のD-Sub

・右側面にSDXCスロット、DC-in

・テプラなし

 

 では、Panasonic公式サイトからこれらに当てはまるモデルを探してみよう。

http://panasonic.jp/pc/

 

 上位から見ていくと、LXは側面の仕様が合わない、SZは(私の見間違いでなければ)右側面に通風口があるため違う、MXはD-Subが右側面にあるため違う。

 すると、残ったのは10.1型のRZ5である。外観写真を見ても、左側面にD-Subがあり、右側面にSDXCスロットとDC-inが配されている。

 だが、これで決まり!と思いきや、大問題がある。

 レッツノートRZシリーズは、これまで黒のラインナップがなかったらしい。元来黒はメーカ直販の上位機種の証だったようだ。そして、RZに黒が追加されたのは2016年夏モデルから。以下の記事によれば、出荷日は7/28である。

 

レッツノート2016年夏モデル。20周年記念の特別モデルが登場 - PC Watch

レッツノート20周年記念モデル特設サイト | パナソニック公式通販サイト - Panasonic Store

 

 これでは撮影時期に全く合わないのだ。

 さて、これはどういうことなのだろう。

 

1. 見間違い

2. Panasonicが自社商品PRのため一般販売に先行して貸し出した

3. 調べきれない別モデル

 

 大変申し訳ないが1.の可能性が高い気がする。特に左側面はSZシリーズくらいシンプルだったようにも思う。2.だったらロマンがある。3.だったらレッツノートオタクの登場を乞うしかない。

 それにしても、税込みで35万円にもなるノートPC。テプラがどこにもないということは恐らく私物という設定である。コンプライアンス、セキュリティ上の問題はさておくとして、35万のノートPCを平然と使う課長補佐。うーん、金持ってやがんな国家公務員。

24 - シン・ゴジラとシネマスコープ

 中身に触りたくないので予告編に出ているカットを用いてシン・ゴジラの素晴らしいところを伝道することにした。中身の話をしたくないので画面の話をする。

 そこでこのTVCMだ。

www.youtube.com

 よろしいか、YoutubeやTVで観ていてもすさまじいワンカットだが、劇場で見るとこのカットは更に凄い。なぜか。

 

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 車窓から撮影されたような映像。まず最初、ゴジラはフレームの左側にいる。この時、車は右から左へ走っている。

 

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 撮影者がゴジラの真下へと潜り込んでいく。するとゴジラはフレームの真ん中に移動する。ここで、人間の視点を用いるモキュメンタリー的な演出は見せかけに過ぎず、実はさらに巧妙な演出が潜んでいることに気づく。もしもモキュメンタリー調を徹底するならばカメラは揺れるはずだし、また、撮影対象であるゴジラが次第に右へ動いていくのはおかしいのだ。

 

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 最後。ゴジラは完全にフレーム右端へと移動している。身を乗り出して撮影しているかのような臨場感。それだけではない。

 このとき、観客の目線はシネマスコープの横に広い画面を左から右へと見事に横断させられるのだ。これによって初めて、作中世界への没入感が得られる。Youtubeではこれは無理だ。映画館へ行って、巨大なスクリーンを見上げて初めて、この演出は力を持つ。きっと誰しも、画面の主役たるゴジラに目を奪われ、左から右へと、まるでこの映像を撮影したのが自分であるかのように目線を動かすことだろう。映画館の狭い座席に座ったままで! これぞ体感だ!

 シネマスコープシネマスコープである意義を存分に活かしている邦画など数えるほどしかない。洋画に目を移してもその数は少ない。対してシン・ゴジラは、このカットだけでなく、常にスクリーンの四方八方へ観客の目線を誘導する仕掛けが施されている。

 

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 空撮では奥へ。そしてテロップで手前へ。*1縦方向への視線の誘導に気を配っていた最近の映画というと、真っ先にスター・ウォーズ/フォースの覚醒が思い浮かぶ。ちとCGで負けるがあれとタイマン張れるレベルである。

 

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 シネスコサイズは!全部使え!!とばかりのショットだ。

 

 思えば予告第一弾では東宝スコープのロゴが使われていた。知らなかったのでGoogle先生に訊いてみたところ、あれは「シネマスコープ」という名称が商標だった時代に同じアスペクト比を使っていることを示すためにあったのだとか。

 ここからは半分憶測である。

 シン・ゴジラは、映画館で映画を観ることに特有の快楽に極めて誠実な映画であると感じた。大きな画面で観客の視線を巧みに誘導することによる、ただ画面を眺めている以上の没入感、シネマスコープの快楽である。そして、その快楽は、世代をたやすく越えるのだ。東宝スコープロゴが出ていた時代も今も、姿形は違えど同じゴジラを見上げている。

 私は、映画館で冒頭のカットを目撃した時、予告編のロゴや自分がかつて出会ったゴジラ庵野秀明が以前に岡本喜八との対談で語っていたシネマスコープの良さ、日本を代表する娯楽が銀幕への帰還を果たした実感などが一斉にこみ上げてきて、思わず落涙してしまったんですね。

 いや本当にね、何が3Dだという話なわけですよ。フィルムメーカーの誇りを見せつけられるようなシン・ゴジラでした。

 ✌('ω')✌最高~!

*1:力技すぎると思わんことはない。

23 - ソーシャルゲームやめた

 ソーシャルゲームをやめました。

 きっかけは特にありません。理由はうまく説明できません。ただ、アンインストールした瞬間から、どうしてあんなにも熱中していたのかがわからなくなりました。

 インストールしたのは、確か出張先のホテルでした。あまりにも激しく理不尽な労働に疲れ果て、少しでも労働以外の世界に触れなければ頭がおかしくなるという危機感があった気がします。耐え続けるだけの日々。成長ではなく慣れ。両肩にのしかかる停滞感の中で、このままではダメだという抗いがたい衝動が生まれました。そして、この世で風俗と競馬の次に愚かしいと定義づけていた遊びに手を出してしまったのです。いえ、嘘です。スクストのイベント限定コスチュームの大正ロマン服に脳を破壊されました。

 別に世間の多数が知らない遊びなら何でもよかったように思います。映画であろうと競馬であろうと、車でもバイクでも、読書でもアルコールでも、薬物でも何でもいい。ただ、Twitterでつきあいがある人たちが楽しそうに遊んでいたのがスクストだったので、スクストに行き着きました。

 ここははっきりさせたいのですが、スクストは本当に楽しいゲームです。着せ替えは最高だし、資材管理は要らないし、イベント時期の拘束時間が長いのは嫌だけど、センスや技術を問われないのが本当に快適だった。命かけずに気楽にやりたいんですよ、ゲームって。何より掌の中に別世界があって、プレイヤーを無条件に慕う女の子たちが画面の向こうで息づいているかのような演出がたまらなかった。だいぶクズっぽい言い方になりますが、若い女にチヤホヤされてダメになることほど楽しいことってこの世にないんですよね。

 累計すれば10万円近く課金もしたし、自分の生活に合わせてパートナーの服を着替えさせるような、わざわざ没入感を深める遊びもしていました。イベントを走ることもそう苦ではありませんでした。上位報酬を手に入れることもあり、戦力が整わない、かけたお金や時間が報われないという苛立ちも、他のプレイヤーに比べれば少なかったように思います。でも、毎月のイベントともにやってくる見せかけの幸福の下には次第に虚無の埃が積もり、やりたくてやっていたそれを、いつの間にかやらなければならないと感じるようになりました。

 事ここに至り、ふと気付きました。私は依存している。これは病である。病であるならば、その原因を取り除かなければならない。

 依存して、病んだままでも別にいいじゃないかとも思いました。でも、病であるという意識からは逃れられませんでした。ある意味それは、別の病であるのかもしれません。正常であるべしという欲求もまた、病に他なりません。

 スクストは楽しかったです。アンインストールする10分ほど前に、着せ替え試行のスクリーンショットTwitterに投稿するくらい、私はスクストを楽しんでいました。やらなければならないという義務感はときどきあれど、やらされているという強迫観念に至ることはありませんでした。

 でも、愛したものを捨てることほど心地よいことはないのです。

 今、スクストを始めてから失った多くのものが自分を手招きしているように感じています。PS4を買おう。PC向けADVゲーム(婉曲表現)をやろう。積んでるKindle本を崩そう。シン・ゴジラの公開も近い。いつか作るつもりで買ったプラモデルの箱も積み上がっている。

 ああ、でも、あのチャンネルは頼れる隊長さんを失ってしまったのだなあ、という悲しみや自責の念が、全くないといえば嘘になります。

 ま、いっか! どうせソーシャルゲームだし!

22 - アメコミ映画の色味について雑感

 色って結構大事で、赤っぽいか青っぽいかで画面が語るものがまるで変わったりする。フルカラーコミックを念頭に置いてる(だろう)アメコミ映画では、全体の色調が結構大事にされている気がしたので、色々実例を探してみた。

 

 まず、何よりも「バットマン ビギンズ」(2005)。

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 たとえ夜のシーンであろうとも、必ず暖色がメインになっている。霧烟る摩天楼の街ゴッサムというイメージがあれば寒色にするだろうところ、これを観た時はだいぶ感動してしまった。冷たい氷のような戦いをするバットマンが温かい色味の中に立っているとは、リアル路線でありながらも、スーパーヒーローを信じている、という主張のように見える。内容もそんな感じだし。修行してたチベットは寒色メインだけどあのシーンにも炎がつきまとっているんだよな。

 

 これから一変するのが、続編「ダークナイト」(2008)。

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 すごいアス比最高。ともかく、とにかく寒色。これがジョーカーの狂気・恐怖、それに同一化していくバットマンという映画のストーリーが投影されていくのがすごいところだった。ヒーローを信じていたように見えた前作からは全く違う画面だし、この画面の力が数多くのフォロワーを産んでしまった、らしい。

 

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 お前ーーーーーーーーッ!!!!!

 

 良心回路を破壊してダークナイトに戻る。この色味の関係を踏まえると、冒頭のジョーカー登場カットでしれっと寒色と暖色が同居しているスゴみにも気付かされる。

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 前作では暖色だった世界が道化王子の登場で寒色の狂気に染まっていく、という読み方もできる。バケモノのような映画である。

 

 さて、近年のアメコミ映画のはやりを決定づけたといわれる「スパイダーマン」(2002)は、やはり暖色だった。

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 ガラスと鉄の寒色ではなくレンガっぽい茶色のビルがたくさんあるニューヨーク、というビジュアルがすごくよかった。というか、当時中学生か高校生だった私としては、タイムズスクエア以外のニューヨークがどうなっているかを、スパイダーマンのビジュアルで初めて知ったように思う。

 キービジュアルからして真っ黄色だし。

 

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 これは「スパイダーマン2」(2004)。やはり暖色である。ドクター・オクトパスと対決する夜のシーンでも、暖色の照明が印象的だった。「スパイダーマン3」(2007)ではサンドマンが出てきて画面を暖色に染めている。すべて、映画の明るい雰囲気をもり立てる役割を果たしている。これが冷たい色味だったり、あるいは色味に気を使わない画面だったら嫌だよなあ。

 

 これが「アメイジングスパイダーマン」(2012)ではこうなる。

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 作風は変わらず明るいが、画面は一転して寒色系に。なーんかサム・ライミ版から変えなければならないという意図だけが先行して、内容との結びつきまで至っていないような印象でした。

 

 「アメイジングスパイダーマン2」(2014)でも傾向は変わらず。

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 エレクトロが青基本だからといってこんなにも青いとは。ただ、アメイジング2ではグウェンとのラブロマンスシーンでこれみよがしに暖色だったりする。

 

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 とはいえ、ラストシーンでは、ビルの影から飛び出したスパイダーマンが寒色の呪縛から解き放たれて色彩豊かに躍動しており、大変によい。終わりよければすべてよし。

 

 では、最近のメインストリーム、マーベル・シネマティック・ユニバースはどうか。

 「アベンジャーズ」(2012)の、かの有名なアッセンブル(性的な意味ではない)シーンがこれ。

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 どちらかというと暖色だが、素の色味の方が尊重されているような。正直にいえばあんまりちゃんと観てないんだけど、色味は周囲の明るさに左右されてあまり統一されていなかったような記憶がある…。

 

 「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015)の方が色味としては考え方がはっきりしていた。

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 オープニングアクトは寒色。最後にロキの杖を取るシーンまでは暖色の方がいいように思うが、周辺が雪が積もって寒いから寒色。そして仲間同士が激突するハルクバスターのシーンでは、暗い内容にも関わらず、南アフリカの温かい地域だから暖色。

 つまり内容はどうでもいいのである。さすがだなてめえ。娯楽か。娯楽だ。

 

 一方、同じMCUでも「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016)はどうか。

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 IMAXで、フラットな色彩を、右も左もないチーム内対決で使うセンス。白っぽいけど決して寒色寄りではなく、ありのままの色なんだよなあ。

 

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 アイアンマンがリパルサーを撃つとまるで友情の絆が最後に一層の輝きを放つかのように寒色だった画面が暖色に(絶頂)。神か。リパルサー照射をキャップの盾が受け、寒色の画面の中心から太陽のように暖色の火花が散る印象的なカットもあった。しかもあれはスリットの向こう側から撮った画になっているんだよね。

 MCU、娯楽大作としてドンパチ賑やかな作品と、ちゃんと映画を撮ろうとしている作品の落差が結構大きくて、蓋を開けてみるまでどちらなのかわからないオモシロコンテンツになってきたなーと感じます。CAWSからは特に。

 

 ではでは、俺たちのザック・スナイダー監督、「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」(2016)はどうか!

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 寒色!!(これなんだよな、という顔)

 

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 暖色!!(そうそう、これでいいんだよ、という顔)

 

 で、ぬか喜びしているとこれが出てくる。

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 見たくない悪夢だけど、暖色!!!(絶望に打ちひしがれる顔)

 ありがとうザック・スナイダー、ありがとうDawn of Justice。

 

 せっかくなので最後に我が国も見ておく。

 お前は誰だ、俺の中の俺!「仮面ライダーアマゾンズ」(2016)だ!

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 う~んダークな色調。物語がやや露悪趣味だから、このくらい暗くてもいいかなって思います。あまりにもわざとらしいといえばそのとおりだし何も言えねえ。TV放送で叩かれないことを願うばかり。

 

 現行ライダー、「仮面ライダーゴースト」はどうか。

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 明るいし色がおもちゃっぽくはっきりしている。あんまり全体の色味どうこうではないところはアベンジャーズ路線ではある。正直中身云々でなしに朝からこのドぎつい色を見ると目が辛い。

 

 ライダーはともかく、急に色味が気になったのは、今年のE3で発表されたというスパイダーマンのゲームが、どうみてもサム・ライミ版の暖色だったからなんです。

youtu.be

 全体に暖色。明るく楽しいけどカッコいいスパイディアクションが楽しめるゲームだといいなあ。PS4買うまである。

 

 以上、昨今のアメコミ映画と色味について。PS4がほしい。

21 - 話を聴けないコミュ強者(東北発☆未来塾 2016年1月 『聴くチカラ』第3週)

 掲題の通り。ちょくちょく視聴している番組であまりにもヤバい光景が放送されていたのでご紹介する。

 

東北発☆未来塾 - Wikipedia

東北発☆未来塾』(とうほくはつみらいじゅく)は、NHK教育テレビジョンNHK Eテレ)で2012年4月6日から放送されている東日本大震災復興支援のための教養番組である。

 東日本大震災で多大な被害を被った東北出身の若者たちが、毎回講師として招かれる各界の著名人らから『未来を創るチカラ』を学ぶという触れ込みの番組です。内容が特に震災とつながらないことも多い。若者が学ぶ系番組の八割がゴミであることはオタクならみんな承知だろうし、カタカナ書きのチカラに気味の悪さを覚えないようなやつは信用できねえ。つまり、毎週正座して観るような番組ではない。

 

第1週「ガンジー和尚の聴くチカラ~傾聴への道は寺から発す~」

新年最初の未来塾は「聴くチカラ」。講師は、宮城県栗原市にあるお寺の住職・金田諦應(かねたたいおう)さんです。震災直後から、延べ2万人以上の被災し た人たちの声に耳を傾け、心のケアをしてきました。まもなく5年、被災者の悩みや不安は尽きません。なぜ、悩みを“聴くこと”が心のケアになるのか?金田 さんの経験からひもといていきます。 

 今月はこんな内容。このところ、受講者が東北出身というだけで、そんなに(ぶっちゃけほとんど)東北と関係ない特集が続いていた。それもあって、これは新年早々『あの日 わたしは』を多少カジュアルにしたような話が見られるかな~?と期待を高めていた。そして、3週目にして、斜め上方向へ裏切られた。

 

第3週「ガンジー和尚の聴くチカラ~言うは易(やす)く “聴く”は難し~」

 1月第3週は、傾聴ボランティアを続けてきた金田諦應さんから、助っ人講師にスイッチしての講義。最終目標は塾生(東北出身の若者たち)だけで仮設住宅に暮らす人たちから話を聞くことであり、そのために必要な傾聴のツボを学ぶため、一同は東北大学の准教授を務める僧侶・谷山洋三さん(43)のもとを訪れる。

 谷山さんは、人々の悩みを『聴く』ことで癒やす、〈傾聴〉のスペシャリスト。『実践宗教学 寄附講座』を担当する彼のもとには、震災以降、宗教を問わず100名以上の宗教者が、彼の持つ理論・ノウハウを学びにやってきたのだという。

 彼が塾生たちに示したスライドには、こんなことが書かれていた。

 

 基本姿勢

・全身を耳にして、あるがままに聴く

・学ばせていただく

・先回りせず、相手のペースに合わせる(伴走者)

・相手の様子だけでなく、相手の発言やその場の雰囲気に対する、自分自身の反応を感じながら、話を聴く

宗教的ケアはリクエストがあってから

 

 誘導したりしないで、相手が話したいことを話してもらうこと。相手に合わせること。相手の本心を感じ取ること。その基本を一通り説明した後、四人の塾生は二人一組に分けられる。一対一での、傾聴の実践演習である。

 まず一組目は、【被災者役】前田ひかりさん(東北福祉大学4年)、【聴き役】坂口歩夢さん(東北学院大学1年)のペア。被災者は津波で家族を亡くし、仮設住宅で暮らしているという設定で、話を聴く。

被「私もね、次、決まったんだよ」

聴「あっ、公営住宅ですか?」

被「うん。そうそう」

聴「すぐ近くのですか?」

被「んー、ちょっとこことはまた違うんだけどね」

聴「あそこの高台のですか?」

被「そうそうそう」

聴「あそこだと……ひとりでも、順序とか」

被「そうそう。いろんなとこから来るからね。抽選だから。私は決まって……でも決まんない人もたくさんいるからね」

聴「そうですね……ラッキーだったのかな」

被「ちょっとね。決まったら落ち着いたところはあるけどね」

聴「安心感はありますよね」

 このあたりで、講師・谷山さんの表情が厳しくなる。そして制限時間の5分を待たずして、話を止めてしまう。

 坂口さん(聴き手役)の言葉が相手に被っていること、相手が話すまで待たないことが問題なのだと谷山さんは指摘した。あなたのそばにずっといる、話を聴くよ、という安心感が相手に伝わらないというのが、その理由だった。

 相手の言葉に被せて合いの手を入れる坂口さんの話し方は、被災者役・前田さんが自分のペースで話すことを妨げている。

 視聴者として見ている分には、坂口さんの話し方に、特に問題があるようには思えない。ごく普通の、どちらかというと内気な若者が、必死になって、相手に安心してもらおうと頑張っている様子が見て取れる。

 言うなれば、純粋だが理論のない善意の否定である。

 これだけでも充分衝撃的な内容だが、本番はここからだ。

 

 続いては、【被災者役】伊藤健人さん(東北福祉大学4年)、【聴き役】久保田紗代さん(早稲田大学4年)のペア。聴き役の久保田さんは、テレビ局への就職が内定している。

 まさに、世間に言う「コミュニケーション能力」の権化である。

聴「こんにちは~。おじいさん、ここの仮設何年くらい住んでるの?」

被「え~」

聴「うん」

被「ここは~」

聴「うん」

被「四年くらいかなあ」

聴「じゃあ被災してからずっと?」

被「ん。津波来てから」

聴「うん」

被「ね」

聴「うん」

被「避難所回って仮設さ来て」

聴「う~ん」

被「四年も経つのかな。四年も経ってしまったんだ、本当に」

聴「結構避難所回ってから来るのかな?」

被「避難所に半月くらいいて」

聴「あ~!」

被「だからそっから、あの」

聴「うんうんうん」

被「仮設住宅作ってもらってね、本当にたくさん」

聴「う~んうんうん」

被「そこさ作ってもらって住んでっからさ」

聴「うんうん」

被「でも一人だからさ」

聴「でもこうして、ね、人もいっぱいいるから。ちょっと、ね、どうなの? 仲良くなった?

被「うん、でも……」

 ここで講師・谷山さんのストップが入った。

谷山「はじめから誘導している。あなたが今やったことはインタビュー。違うからね。はじめっから誘導しているよ。それでは、絶対に辛い話できないから」

谷山「黙って聴いて。とにかく。一生懸命、黙って、本気で聴いて

 イエローカードは開始一分だった。

 本人も半ば無意識なのだろう。久保田さんは、「仮設住宅で長く暮らしているが、新しい場所での新しい絆を得て、辛いことがあっても明るく頑張っている被災地のおじいさん」という久保田さん自身が思い描いた物語へと、伊藤さんの話を誘導してしまっていたのだ。

 はたから見ていると、和気あいあいと言葉を交わしているように見える。だが、久保田さんの高いコミュニケーション能力は、辛かった体験を語りたかっただろう相手の言葉を封じてしまった。癒やされる機会を奪ってしまった。

 コミュニケーション能力の高い人が、そうでない人を善意で傷つける構図はどこでも目にする。言いたいことを言えずに丸め込まれてしまった経験を持つ人も多いだろう。コミュ強者による、相手を黙らせるコミュニケーションは、罪悪にすら転じ得る。震災を題材に取り、被災者と聴き手を模擬的に再現した空間で、社会が陥っている、コミュニケーション能力の信奉という病を浮き彫りにしてみせたことが、驚きだった。

 困惑した様子の久保田さんをよそに、演習は再開される。(ここから老人設定はなくなったらしい)

被「なんだかなーって本当にね。ま避難所さ 比べれば、あれだけど、なかなかね。避難所のこともなかなか思い出せなくなってきてさ」

聴「……」

被「家もどっか行ってしまって」

聴「……」

被「何でこんなことすんのかってね。神も仏もいねえって、あん時だけは思った」

聴「……」

被「だけども、おらだけ生きたっでのは、生ぎろって神様さ言われだんだなっで。今だったら思える」

聴「……生まれできたからね。最後まで生ぎること、それが使命なんだから、うん

被「そうだなー。五十、六十。もっどもっど、んだと思うよ」

聴「ここ来て何年くらい経つんですか?

被「もう四年だよ。震災直後……二ヶ月くらいかな」

 ここで谷山さんから二度目のストップが入った。

 谷山「言ったよね。黙ってって言ったよね。喋るの我慢できないかな」

久保田「私は相槌を……」

谷山「言わなきゃならないか!?

 カットされたがさらにかなり強い言葉があったらしい。次のカットでは、久保田さんの目に涙があった。

 今回は、神様に生かされた、と語る被災者役を慰めるつもりで、まだまだ語ることがあっただろう被災者役の言葉を遮ってしまったことに問題があった。そして、もう満足とばかりに別の話題にシフトしてしまっていた。

久保田「同じ境遇になった時どうしよっかなってのをすごく考えちゃって。その時に、何言われたらいいかな~、と思うと……」

谷山「あなたが思ってんでしょ」

久保田「同じ立場になった時に……

谷山「あなたが思ってんだよ、それ! 同じ立場にはな、れ、な、い! 勘違い!

谷山「その場で話をすることのテーマを決めるのはこっち(被災者役)なの。だから逃げてるってことよ。あなたが逃げてるんだよ。聴く側が」

谷山「言いたいことも言わしてくれない。しかも、もしかしたら本当に聴くべきことも、聴けないかもしれないじゃん。相手に話してもらうんだよ。相手のペースを考えるの。自分のペースじゃない! こうかなーって、全部自分の想像じゃないか! そんなものは。想像で人をコントロールしちゃいけないの

 相手のペースで、相手の話したいことを話したいように話してもらうことは、とても難しい。頭で理解していてもこれが難しいのは、谷山さんの考えでは、人それぞれの生い立ちに原因があるのだという。

 そこで谷山さんは、塾生らに、「自分の生い立ちをできるだけ詳しく書き出せ」という課題を出していた。物心ついてから今に至るまでの出来事を覚えている限りすべて箇条書きにさせたのである。

 傾聴の訓練の後、谷山さんは塾生らに、書きだした生い立ちを見ながらその中に上手くいかなかった原因を探すよう指示する。

 

 坂口さんは、中学時代の人間関係に原因があるのではないかと分析した。コミュニケーションが苦手。自分のことばかり考えているから、いざ聴くことに向かい合うと、何かしゃべらないといけないと焦ってしまう。

 久保田さんは、小学校から中学生にかけての環境の大きな変化が、深刻な話に耐えられない自分の性格を作ったと分析した。小学生のころはクラスの中心人物だったが、中学校に入って僻まれるようになった。だから、相手を嫌な気持ちにさせたくないと思うようになった。一緒にいる時だけ楽しくいられればいいなというベースができてしまったと。

 

 自分への厳しい目を持ち、人々の息遣いを感じ取れ、というメッセージを掲げて番組は終わった。

 テレビ局に内定が決まっている女子大生が、「想像で人をコントロールしてはいけない」と言われて涙目になる光景は衝撃的だった。久保田さんの問題ではない。メディアは、想像で人をコントロールしているのではないか。取材者・番組製作者が頭の中で描いた物語を相手に当てはめ、黙らせてはいないか。

 誰も、同じ立場にはなれないにも関わらず、勘違いの同情で、その場だけを笑顔で収めて逃げていないか。

 広く一般化しうる強いメッセージ性、だけではない。ともすれば、番組を通じて、社会的弱者を取材対象とするときの報道の倫理を問おうとしているのではないか。製作者らの意図を邪推したくなる、気迫にあふれた一本だった。

20 - 2015年買ってよかったもの10選

 読んで字のごとく、今年の生活を捗らせてくれたものを食料品から夜のお供まで幅広く紹介する。

 


1.草汁


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 草の味がする謎の液体。うますぎて箱買いした。

 冗談はともかく、緑茶とハーブティの間の子のような清涼飲料水で、ただの緑茶には飽きたけど、本格的なハーブティの独特のクセがどうも苦手……という人にうってつけだった。ただ、緑茶の代わりにはならない。晴れ茶は、晴れ茶だ。

 前向きな 気持ちになれる ゼラニウム(クスリ)

 

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2.壁から生えるBD収納棚


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 壁からどんどんBD収納棚が生えてくる魔法のアイテム。

 BDを買い集めているとどうしても収納場所が問題になる。何かいい棚はないか、でも部屋のスペースには限りがあるし……と困っていたときに見つけた。

 壁に樹脂のブラケットのようなものを4つ釘打ちし、棚側に取り付ける同様のものとオスメスで固定する方式でした。壁に貼るガイドのような紙が付属しているので、作業は非常に簡単。洋画BDで25~30枚くらい置けます。買って半年くらい経つけど、脱落してくる気配はない。

 場所を食わないことと、価格の安さと、天面にフィギュアとか置けるのが強みか。私はアメコミヒーロー映画を全部ここに収めて上にキャプテン・アメリカのSHFとかヨーダのフィギュアとか置いてます。

 

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3.FLOWERS -Le volume sur ete-


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好きな人の為に、何かしてあげたいと思ったことはありますか――

 祈り。学園の花、アングレカム花言葉を思う。私の好きな彼女は、この言葉を厭うでしょう。でも、早く学院を去りたいと思っていた私が、今は貴女とずっと一緒にいたいと、そう祈っていると伝えたら――孤独を花言葉に持つ貴女は、何と言うのかしら? 幻想を嫌い、静けさを愛する人。私はただ、あの人を想う。

 "あなたと共に歩むアミティエ"――百合系ミステリィADV FLOWERS シリーズ第二季[夏篇]、好評発売中。

 

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4.電気ケトル


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 人類史に残る発明が3つある。火と、車輪と、電気ケトルである。

 いや、マジで、一瞬でお湯が沸く。電気ケトルに水を入れてスイッチを入れて、ドリップコーヒーのパックを切ってカップに乗せたらお湯が沸騰している。マジでありえねえ。電気ポットややかんとは一体何だったのか。これまでに自宅でコーヒーを淹れた回数を覚えているか? その毎回に費やした時間はどれほどだった? 電気ケトルを持たない者は幸いである。己の愚かしさを知らないから。

 

Amazon.co.jp: DeLonghi 【True】 電気ケトル 0.75L ホワイト JKP240J: ホーム&キッチン

 



5.血界戦線のサントラ


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 TVアニメの最終回は少し残念だったが、サウンドトラックは最高だった。2枚組で発売されている1枚はボーカル曲、1枚は純粋なインスト曲。どの曲も流行りのクラブ・ジャズのフィーリングを感じて非常に満足度が高い。原作の暑苦しさをやや控えめにしてオシャレでスカした作風に振ってたアニメともよくマッチしていたと思います。雑誌の中のニューヨークみたいっすよね。特にメインテーマのCatch Me If You Canと、バーガー回の切なくも心温まる物語を盛り上げたOn My Ownが最高。今年はtofubeatsのPOSITIVEとBaseBallBearのC2の次くらいにこれを聴いてた。

 

Amazon.co.jp: 岩崎太整 : TVアニメ「血界戦線」オリジナル・サウンドトラック - ミュージック

 



6.金属外装のUSBフラッシュメモリ


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 本当に些細なことなんだけど、USBフラッシュメモリのちゃちさがどうも嫌いで、こんなものにデータを預けて大丈夫なのか? という不安が常につきまとってしまう。見た目が金属だと、単純に高級感があることと、ノートPCのデザインにマッチしやすいことが非常に嬉しい。あと、これはPCにも依存するけど、USBポートに挿しておくと、穴がペン立てとして機能して非常に便利。

 

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7.EDWIN WILD FIRE


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 機能性ジーンズ。二輪に乗る人間には必需品だが、これがマジで温かい。体感ですが、時速70kmまでで気温7度なら、WILDFIREがあればオーバーパンツ不要です。今年は暖冬なことも手伝って、12月になっても軽装で走れています。今年も一本買ってしまった。

 503もいいけど、ストレッチが効いてて、スリムフィットでウエストも絞れているけどケツ周りだけゆとりがある、406XVってののWILD FIREモデルが最高にいいです。二輪にまたがってもきつくないんですよ。もっと広まって欲しいけど、あんまし売ってない。

 56designとかで売ってるもろバイク用カットのデニムって買ったことないんだけど着用感どうなんでしょう。来年は買ってみようか。

 



8.バットマンのゲーム


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 PS3向けのバットマン アーカム・アサイラムアーカム・シティが同梱されているやつを買い、大いに楽しみました。ゲームといえばエロゲかスパロボ、子供の頃にスト2で波動拳すら出せなかった私でも、簡単操作でかっこいいアクションができ、バットマン気分に浸れてしまえます。1作目のアーカムアサイラムでストレスなくバットマンごっこができる喜びに浸っていたら、2作目のアーカム・シティでさらに仰天。今度は漫画や映画、アニメで慣れ親しんだゴッサム・シティの中を大冒険できるのです。街の中に仕込まれたイースターエッグの数々や、遠くに見えるウェイン・エンタープライズのビルにいちいち感激。サブクエストを攻略していたら劇場裏のクライムアレイにたどり着いたときは感動のあまりしばし呆然としてしまいました。こんなゲームが3000円とかで買えていいのか? 本当にいいのか?

 

Amazon.co.jp: WARNER THE BEST バットマン:アーカム・ツインパック: ゲーム

 



 

■□■□■□!!!ここから18禁注意!!!■□■□■□

 


9.少女惨華(エンジェルコミックス)/藤味


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 買ってよかったものの話として、成人コミックスを避けて通ることはできなかった。チンポは真実だから、チンポから目を背ければ、それは嘘になるんだよな。

 2015年の成コミ単行本で、1冊選ぶなら間違いなくこれ。レイプは悪辣、近親相姦は狂気、都合よく現れるセックス相手にはセックスしか選べない事情があり、絵に描いたような純愛は打ち破られる!最高!

 私が思うに、一番最高なのは不妊治療のやつです。診察からのレイプに留まらない鬼畜っぷり……愛する人との子供がほしいという思いを千々に引き裂く狡猾な獣欲、最高……

警告:アダルトコンテンツ



 10.円交少女~陸上部ゆっきーの場合~


円交少女 ~陸上部ゆっきーの場合~

  「聖娼女」「痴漢専用車両」などで知られ、私を含め根強いファンを持つ美少女ゲームメーカー『Frill』が放った虚無の爆弾、「円交少女~陸上部ゆっきーの場合~」なくして2015年は語れない。そのストーリーは、青春とは虚無である、という一言に凝縮される。誰かに必要とされたいとか、誰にも真似できない自分だけの特別がほしいとか、形にならない欲求を、援助交際というレールの上に乗せてしまえば、恋愛なんか知らなかった陸上一筋の少女でさえ、見知らぬおじさんチンポとの中出し乱交修学旅行へと転がり落ちていくのである。もしかしたら、あなたの隣にいる彼女も学生時代に過ちを犯しているのかもしれない。誰でも、青春という虚無の中に放り捨ててきた過去の中には、大人になった今の自分が、どんなに頭を捻っても説明できない衝動があったと思う。その体験や記憶は、不思議なことに、制服や指定鞄と一緒に綺麗さっぱり失われてしまう。あんなにも切実だった気持ちは、時が流れるにつれて、飲み会で聴いた話やテレビの安い体験談のように、現実味を失っていく。少女たちは、なぜ幾ばくかのお金で見知らぬ男たちとセックスをしてしまうのか。その答えを真に知り、理解する者は、どこにもいない。彼女たち自身も知らないし、もはや青春の中にいない大人には、絶対にわからない。ゆえに、その意味不明な虚無は、我々を惹きつけてやまない輝きを放つのである。

 ひとつまみのリアリズムを持ち、人を共感させうるポルノは、調教や完落ち、性奴隷といった要素を扱うよりも遥かに難易度が高い。Frillにとっては挑戦だっただろうし、これがちゃんと抜けるというのが、何よりも恐ろしい。傑作との誉れに相応しいだろう。

 円交少女はシリーズ化を想定しているとのこと。ゆっきーでない誰かの場合への想像と期待が高まるばかりだ。2016年も円交少女、だな!

円交少女 ~陸上部ゆっきーの場合~|Frill official website

 

本当にいい2015年だった。

 

 



(選外)

11.スクールガールストライカーズ 沙島悠水 URifロックオン!

 いくら使ったかは秘密だが、無事URifを手に入れられて本当によかった。正直、まさか自分がソーシャルゲームのガチャにじゃぶじゃぶ現金を溶かすようになるとは思ってもみなかった。デカダンの美学というか、愚かなことをする自分への酔いが恐ろしい。別にかっこよくもなんともないし、傍から見ればただの軽蔑すべき馬鹿でしかないのだが。つまり「火花」の先輩を見る主人公のような気持ちだ。助けてくれ澁澤龍彦……



19 - おもしろかったアメコミを10作挙げてく

 最近、アメコミというものをちゃんと読み始めた。

 きっかけはもちろんアメリカの連続ドラマ『ARROW』。ARROWのスピンオフコミックがデジタル先行で販売されていて、インターネットに国境線はないから電子版で即買える…と知ってしまったのが運の尽きで、ここ最近は日本の漫画よりアメリカの漫画をよく読むようになってしまった。

 これがちゃんと読んでみると面白い。

 ぶっちゃけた話、アメコミなんてヒーローが飛んできて適当な悪役を適当に倒すだけ、ヒロインはHelp me!!とThanksとI love youしか言わない装置なんだろうと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。ダークナイトは傑作だが、急に出てきたわけではない。どんなものにも伝統と歴史があるのだ。

 

 と、いうわけで、時流に乗っておすすめのアメコミを紹介しようと思う。映像作品を入り口にアメコミに触ろうとする私のような人々の一助となれば幸いです。イェーイにわか最高~✌('ω')✌

 

・紹介の指針(=私が読む漫画)は映画やドラマありきです

・なので入門向けのオリジンストーリーが中心になります

・マーベルよりDC派です

・必死こいて原語で読んでますが、知性が足りないのでしばしば誤読します

・迷ったら日本語訳があるものをご紹介します

・好きなアメコミ原作映画はバットマン ビギンズです

・二度と見たくないアメコミ原作映画は下画像です

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1.DAREDEVIL: The Man Without Fear


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 MARVEL最高~~~!!!!!!!

 フランク・ミラーというライターはデアデビルが出世作だったらしく、彼が関わるようになってから、デアデビルはハードボイルドでより現実に即した世界観へ方向転換し、低迷気味だった人気がV字回復したのだとか。そんな自身の成功の原点ともいえるデアデビルのオリジン・ストーリーをフランク・ミラー自ら語り直したのが本作。ありていに言って

 ニューヨークの掃き溜めで貧困にあえぎ、母もなく、幼い日に視力まで失った男。世の不幸を一身に背負い、信じた師にも愛した女にも裏切られた彼はなぜ犯罪に走らず、むしろ弱きを助け悪を挫く孤高のクライム・ファイターとなったのか。高潔な魂が発火するさまを綴る抑制的で煮え切った筆致がもう最高であたまおかしなるよ。

 初読時は最終盤でのレーダーセンスの扱いにぐっと来た。レーダーセンスはただ盲目の男が悪党と渡り合うための技術だけではなく、助けを求める誰かの声を決して聞き逃さない高潔な魂の顕現なのだ!

 NETFLIXで配信中のドラマ版には、この作品での黒ずくめコスチュームが活動初期のコスチュームとして登場するとか。

 幸いにして2015年9月末に日本語訳が出た。神。

 


2.Batman: Zero Year-Secret City


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 DCコミックでは2011年に大規模な仕切りなおしイベントがあり、以降のDCがコミック世界は52個のアースに別れたThe New 52!と呼ばれるようになった(阿呆か何かか)のですが、この新世界におけるバットマン、そしてジョーカーのオリジンが語られる作品です。

 時系列がややこしく、(確か)ジャスティス・リーグが本編(バットマンとかスーパーマンとかフラッシュとかの本誌)の5年前という設定で、その1年前の、各地でスーパーヒーローと呼ばれる存在が生まれ始めた頃の話が本作、つまりオンゴーイングシリーズの6年前ということになります。わかんねえよDCEUコケろ。

 その頃ブルース・ウェインバットマンですらなく、グラップルケーブルに試行錯誤しているような描写から始まる。彼は犯罪と戦う決意を胸にゴッサムへ帰還したが、赤いマスクで顔を隠す匿名の集団『レッドフード・ギャング』の台頭を目の前にして、自分の無力を悟る。そしてある嵐の夜に、コウモリの啓示を受けてバットマンとなり、自分もまた匿名の存在となって街を牛耳るレッドフード・ギャングに挑む……という筋書きです。

 レッドフードといえば、かの傑作『バットマン:キリングジョーク』の中で過去の事件として語られる、ジョーカーのかつての姿です。つまり、ゼロイヤー:陰謀の街は、キリングジョークでは一人の小悪党にすぎなかったレッドフードを再解釈し、新たな伝説の始まりを描く野心作なのです。もちろん啓示のシーンは『イヤーワン』への敬意と対抗心が見え隠れします。匿名の集団なのがいいんすよ…定番のオリジンのようでひと味違うのが、ノーラン三部作さえも内包する最高の新イヤーワンなんすよ…さ、さ、最高…✌('ω')✌

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 薬品タンクに落ちる男、一体何者なんだ……

 ゼロイヤーの後編はそんなにおもしろくないですが、タイイン群はめちゃめちゃおもしろいです。おすすめはのちのレッドフードがレッドフードの名を騙る軍団と戦うRedhood and the outlawsと、誘拐されたママを救うためフードの男としての初仕事をするGreen Arrowと、飲むと加速するイカロスという薬物を追ってゴッサムに来たバリーがゴッサムガゼットの美人インターン、アイリス・ウェストと電撃的に恋に落ちるThe Flashです。

 


 3.Superman:Earth One vol.3


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 アースワンってのは、52個のアース(アホ)のうちのひとつで、手っ取り早く言うと、リアル路線なシリーズです。まだヒーローがいない世界で、駆け出しの弱々しいヒーローとしてアイデンティティを獲得していく若者らの姿を描く作品群であり、まるでリブート映画を見ているかのような雰囲気があります。背景知識ゼロで楽しめるので大正義です。

 とはいえ、バットマンはグラップルケーブルが絡まってゴミ溜めに落ち、スーパーマンは宇宙人カル・エルの恋とセックス*1に踏み込むなど、野心作(?)なところもある憎めない作品です。

 それはさておき、Vol.2までで、スーパーマンは内面に深い葛藤を抱えながらも、世界中に認知される、正真正銘のスーパーヒーローになります。彼はメトロポリスを二度救い、一方で圧政を敷く独裁者を打倒します。しかし彼は、メトロポリスの悩める若者ひとり救うことが出来ませんでした。人生に絶望し、ボブ・ディランを愛し、薬物に溺れ、スーパーマンという存在に希望を見出しながらも自ら命を絶った隣人の、救世主にはなれなかったのです。

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 そしてVol.3では、世界中から支持されながらも、「僕はただ力があるだけの存在だ」と悩む青年クラークの前に、スーパーマンを上回る力の持ち主が現れるのです。待望のゾッド将軍です。

 クリプトン星人である上に訓練された兵士であるゾッドは、民衆のヒーローであるクラークをたやすく打ち倒します。メトロポリス市民が見守る前でボロボロにされていくスーパーマン。「力があるだけ」だったはずの彼がその力さえも奪われていくアイデンティティの物語と、ヒーローとしての真の目覚めがぴったり合致した物語の盛り上がりたるや筆舌に尽くしがたいものがあります。

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 恥ずかしながらこのへん読みながらボロボロ泣いてしまった。

 そのうえ、アース1版レックス・ルーサーのオリジンストーリーでもある本作。Vol.1しか邦訳が出ていないのがあまりにも惜しい。甘えるな早く出せ。The New52!のAction Comicsもいいけど、こっちのスーパーマンも最高。

 スーパーマン2とマン・オブ・スティールのいいとこ取りしたような作品で本当に傑作なんだよ…ゾッド将軍ってのはやっぱりこう、既にヒーローであるクラークを圧倒する存在であってほしいし、だからこそ"Bow down!"が、本当に…最高…✌('ω')✌

 


 4.HAWKEYE:My Life as a Weapon


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 MARVEL NOW!っていう初読者向けのシリーズがマーベルでも最近一斉に始まったらしく、これもその一作だとか。ただ、とりあえず新シリーズ1話というだけで、前までの話を知っていないとちんぷんかんぷんな、事実上のシリーズ継続なものも多いみたいです。*2

 そんな中で、初読者でも入りやすくまた、ホークアイというキャラクターの新たな魅力を掘り出した作品として、えらい高評価だったので読んでみました。

 これがめっぽう面白い。アベンジャーズでも数少ない常人ヒーロー・ホークアイの、ハードボイルドを気取るもいまいち締まらない小規模な戦いと日常が、なんだかサブカルっぽいアートで描かれていて、とてもよい。

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 なにせ敵はマフィアの地上げ屋で、ホークアイが戦う理由は、貧乏人らが集う安アパートを地上げ屋から守るためだったりする。アメコミ!!!という絵柄でもないのであの手の絵が苦手な人にもおすすめ。冴えないおじさんだけど決める時は決めるヒーローというキャラは、映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のホークアイにも通じるところがあります。

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 冒頭で高いところから落ちる is 名作。

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 こんなこと言うのも何だけど、各イシューのカバーが、本当にアメコミとは思えないサブカルですごい。

 TPBのVol.2までは日本語訳が出ていて、私もVol.2は日本語訳で読みました。Vol.3も発刊予定があるみたいでとても嬉しい。母国語で読めるならそれに越したことはないもんなあ。

 


 5.Green Lantern: Secret Origin


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 なんかさぁ~、グリーン・ランタンってのがジャスティス・リーグによく出てくるけどさ~、実際どんな来歴なわけ? いや、ググれば大体出てくるけどそういうんじゃなくてさ~、コレ読め!ってのないの? は? いやパララックスとかどうでもよくてさー、リバースが名作って言われてもハル・ジョーダンが帰ってくるまでじゃなくて最初が見たいの、わかる? 甘えんなすぐ出せや、だーかーらー、グリーンアローと一緒に社会問題とか別にいいの! どういう話なのかって聞いてるんですーーー!! 先生に言いつけますーーーー!!! 帰りの会でいいますーーーー!!!と思って探したら出てきたのがこれ。

 日本では映画に合わせて日本語訳が出ていて、ありがたくそちらで読みました。

 現代のスタンダードな娯楽アメコミはこういう水準なんだなあ、と感じ入りました。第一話の再構築といってもライターのエゴが前面に出るようなタイプではなく、そんなに奇をてらわない作風です。でも人間ドラマは骨太で読ませる。

 青年ハル・ジョーダンの空への渇望と、空の仕事を忌避する彼の家族との衝突があり、フェリス航空の若き女社長キャロル・フェリスとのロマンスがある。グリーン・ランタンは生まれついての宿命でも半ば狂気のような意志の産物でもないから、キャラとして弱くなりがちのようだが、本作のハルは「空を自由に飛びたい」という原始的な欲求によって、ヒーローとしての使命を受け入れると同時に家族の問題を解決する。

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 少年の空への憧れ、いいよね…

 典型的ではあるんだけど、強いも弱いも、彼女と上手くいくもいかないも、家族と喧嘩するもしないも、全部己の心ひとつというまとめ方は、腑に落ちざるをえないし、こういうのがあるならちゃんと教えろよバーカバーカと思ったので、ご紹介します。そもそもリングの力は意志の力だもんな、気持ちが定まるとき力が目覚め問題が解決するのが物語というものなんだよな。

 新・第一話という作品ではあるものの、リングのパワーが黄色に効かない理由やシネストロの行末など、今後の展開への示唆に満ちた作品でした。

 それはともかく、グリーンランタンのロゴは、黒背景に白抜きで円形だとかなりサッカーボールに見える。

 


6.Batman: Earth One vol.1


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 カウルの下にバットマンの眼が描かれている。この一事に象徴されるのは、本作の、バットマンというスーパーヒーローを人間にする、という試みである。化け物じみた身体能力もない。現実離れしたガジェットの数々もない。そんなバットマンが犯罪者を追ってルーフトップを駆け回ったら……

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 こうなる。

 この2コマ即堕ちにピンときたら読みましょう。

 Superman:Earth Oneと同じEarth Oneのシリーズで、世界観もつながっています。*3地に足の着いた作風で、まだヒーローのいない世界でヒーローになるべく奮闘する若者たちの物語……といえば聞こえはいいが、バットマンはザコ。ザコすぎる。Vol.1ではシリアルキラーと対峙するが、クールなアクションなど何一つなく、みっともなく泥臭く勝利を掴んでいる。そういう作風がいいと思う人もいれば、ヒーロー物にそんなん求めないよ、と思う人もいる。だから、上の2コマ即堕ちにピンとくるかこないかが大事なのです。

 それはさておき、バットマンがヒーローになっていく過程の描き方がまた楽しい。上のような体たらくで、とてもヒーローとは呼べないバットマンだが、必死に犯罪者と戦ううちに、彼は次第にただの人以上の存在=伝説になる。要するに口コミだ。口コミで尾ひれがついて、足を滑らせゴミ溜めに落ちるだけの男が、不死身のコウモリ男になってしまうのだ。スーパーヒーローをスーパーヒーローにするのは本人の技術や能力だけではなく、ヒーローの姿を目撃し名を呼び交わす市民なのだ。*4

 ちなみにこのバットマンも徐々に進歩しており、Vol.1ではケーブルが絡まって使えないような有様だったのが、Vol.2のラストでは(ついに!)バットモービルが登場します。走行シーンはVol.3以降になりそうですが…

 Vol.2ではリドラーやキラークロック、キャットウーマンになる前のセリーナ・カイルなども登場し、まだまだEarth Oneの世界は広がりそう。Wonder Womanが刊行予定で、Aquaman、The Flashの企画もあるそうです。*5これはゴミ溜めに落ちるバットマン率いるジャスティス・リーグが見られる日もそう遠くないかもしれない。

 Earth Oneシリーズの出来の良さは、普通のアメコミのようなイシューごと刊行ではなく、TPB描き下ろしであることも影響しているのかなあと思います。

 Vol.1は日本語訳も出ていますね。2は気配がない。

 


7.Amazing Spiderman - No One Dies


 The Amazing Spider-Man #655 & #656

 アメイジングスパイダーマンの、結婚がなかったことになるワン・モア・デイというシリーズを経て始まった、ブランニューデイズというリランチ?シリーズの、続きにあたる、スパイダーマン:ビッグ・タイムというストーリーラインの、3つめの話。ややこしすぎてこれ把握するだけで30分くらいかかった。おすすめのスパイダーマン教えろと言ったらティターンズモビルスーツが教えてくれた。ありがとうティターンズモビルスーツ*6

 いろいろあってスパイダーセンスを失ったスパイダーマンが、悪夢の中でこれまでに自分の力不足のために失った人々のことを思い出し、もう二度と自分の周りの人たちを死なせるものかという決意を固め、人の命をなんとも思わない殺人鬼を圧倒的なメカスーツでぶちのめす話です。

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 あんま作品の中身には関係ないんだけど、こういう描写を見ると、ニューヨークって見晴らしが良くていいなーって思います。 日本だとどっかに山が見えちゃうし。

 スパイダーマンの魅力的なところって、常にお金に困っていることや若者らしい恋や冒険もあるけど、失った人のことに思い悩む人間らしい姿もあるんだなあと思いました。いつもどこかに、大いなる責任に基づく救えなかったことへの後悔を抱えているからこそ、スパイディはみんなの親愛なる隣人でいられるのかもしれないですね。

 


 8.WE STAND ON GUARD


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 スーパーヒーローばかりなのも何なので、変わり種を。

 イメージコミックスのオンゴーイングシリーズです。アメリカに侵略されたカナダでレジスタンス活動をする民兵たちの話なのですが、ただそれだけだったら読まないし勧めない。

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  自然の猛威に逆らうことはできない。アメリカの侵略ロボット兵器が来たら、逃げなければならない。これだ。そう、アメリカが操る兵器は戦車ではなく巨大ロボットなのだ。こんなん読むわ。

 内容は正直どうでもいい……とは言わないが、カナダだからかわりとフランス語の台詞があり、本格的に何言ってるのかわからないのがつらい。話は、幼いころにアメリカに家族を殺された女が復讐のために民兵組織に身を投じるというもので、そんなに驚くべきものでもないので何とかなるのですが。

 パシフィック・リムはこんなものも産んだんですね。

 


 9.HULK:GRAY


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 マーベルにはカラーシリーズという、色をきっかけに一人のヒーローのオリジンを回顧する作品群があるのだとか。デアデビル:イエロー、スパイダーマン:ブルー、ハルク:グレイに続き、現在キャプテン・アメリカ:ホワイトがオンゴーイングです。

 デアデビルは初期スーツが黄色、ハルクも緑ではなく灰色の時期があったそうです。大人の事情により色が変わったものを、回顧という形で再解釈しているんですね。

 このハルク:グレイは、MCU作品『インクレディブル・ハルク』の原案の一つであるそうです。話自体は、やはり第一話です。ただ、実際にハルクのコミックを読んでみると、非英語話者にとてもありがたいことがわかりました。なぜならハルクはろくにしゃべらないからな! ハハハ! ハルク、英語、嫌い!!!

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 上は雷に吠えるらへん、下はラストシーンの原案となったページ。『インクレディブル・ハルク』はオーディオコメンタリーも興味深いものが多いです。エドワード・ノートンの監督シーンもわかりますからね。

 それにしてもMCUでのベティ・ロスの扱いはどうなってしまうのだろう。

 


10.GOTHAM CENTRAL


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 最高。

 ゴッサム・シティの刑事たちを主人公にしたクライム・アクションであり、バットマンはヒーローであっても主人公ではない。本部長・ゴードンの薫陶を受けた刑事たちは正義感に溢れ、犯罪がはびこる街をよくするために全力を尽くしている。しかし、ゴッサム・シティにはスーパーヴィランが跋扈している。彼らは、とてもただの刑事の力では取り締まることができない。だから、公式には認められずまた信条としても認められないバットマンに、頼らなくてはならない。

 そんな常人の無力と、それでも懸命に職務を全うする刑事たちの姿が胸を打つ。シルエットだけ、数コマだけ登場するバットマンの扱いも素晴らしい。バットマンというキャラクターの力がなければ成り立たない手法だが、バットマンという土壌があって初めて生まれた傑作でもあるのでしょう。

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 たとえば刑事たちはミスター・フリーズと対峙すれば即殺害されてしまうし、警備の人員をいくら増やしてもフリーズはたやすく突破してしまうが、バットマンなら戦える。刑事らに感情移入する読者は、この一コマにも、安心感と無力感の入り混じった複雑な感情を呼び起こされるでしょう。*7

 狂人の街を守る常人の葛藤がフィーチャーされるIN THE LINE OF DUTYとMOTIVE。続くHALF A LIFEではレズビアンの女刑事が秘密にしていた自分の性傾向や女性との関係を職場に暴露されるというショッキングな展開が待ち受けている。いずれの事件も、一見するとただの刑事事件のようだが、裏の裏へと捜査を進めていくと、必ずスーパーヴィランたちが現れる。だが、捜査に行き詰まった時は、バットマンが現れる。この頼もしさは、刑事視点ならではだ。

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 もっともこれは、しらを切り続けるトゥーフェイスの部下を、これからバットマンが警察には出来ない手法で尋問するというシーンなんだけど。それにしても、ただの黒い影でそれとわかる、バットマンというキャラの強さよ。

 刑事ものだが、ゴッサム・シティならではの刑事ものとして、「大人向きなものがみたければいくらでも犯罪小説があるでしょ」という批判にも応じるGOTHAM CENTRAL。TVドラマ『GOTHAM/ゴッサム』の原案でもあるそうで、ぜひ多くの人に読んでもらいたい傑作でした。一刻も早く日本語訳を出せ。

 


 そんなわけで、時流に乗ってとりあえず10作持ってきた。アメリカの電子コミックの整備状況は本当にすごい。

 実際にいろいろ読んでみると、アメコミ?普通の漫画でしょ…→ジューシーーーーー!!!!!と仮面ライダーグミ状態になること請け負いなので、この機会にアメコミ沼へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

 正直に申し上げれば、これは傑作!というものでも日本語訳が出ていない、出ていても手に入れにくい、日本語訳の電子版となると壊滅、という現実に向き合う仲間が一人でも増えることを願ってやまない。

 11月のDKIIIが楽しみで仕方ないです。

 



*1:「ねえ僕にもセックスチャンスが来そうなんだけど、僕宇宙人だしセックスできるのかな…」と実家のママに電話するクラーク・ケントは必見。

*2:Amazing Spidermanを読んでみたらいきなりピーターがパーカー・インダストリーとかいう会社の代表で、表向きはスパイダーマンに技術協力しているという設定になっていてわけがわからなかった。何でも直前までドクター・オクトパスがスパイダーマンだったらしい。意味がわからんがそう書いてあった。

*3:Superman:Earth One Vol.2で、デイリープラネットの記事のひとつにゴッサム・シティを賑わす蝙蝠男のことが書かれています。今はまだその程度。でもこれからどうなるかはわからない。わくわくするよね、するよね…

*4:バットマン ビギンズはこの辺の演出がすごく好みです。スケアクロウの薬物の効果で空飛ぶ蝙蝠男は恐怖の象徴になってたわけだし。でも子供は助けていたわけだし。巡り巡ってライジングでのバットサインに繋がるわけだし。

*5:今年のサンディエゴコミコンでストラジンスキーがそんなことを言っていた。

*6:片っ端から電子化されてるから、このエピソードが面白いと聞けば即そのエピソードだけ2ドルで買えるのがアメコミのヤバいところだと思います。

*7:私はこういうのを怪獣酋長のイデ隊員問題と勝手に呼んでます。