19 - おもしろかったアメコミを10作挙げてく

 最近、アメコミというものをちゃんと読み始めた。

 きっかけはもちろんアメリカの連続ドラマ『ARROW』。ARROWのスピンオフコミックがデジタル先行で販売されていて、インターネットに国境線はないから電子版で即買える…と知ってしまったのが運の尽きで、ここ最近は日本の漫画よりアメリカの漫画をよく読むようになってしまった。

 これがちゃんと読んでみると面白い。

 ぶっちゃけた話、アメコミなんてヒーローが飛んできて適当な悪役を適当に倒すだけ、ヒロインはHelp me!!とThanksとI love youしか言わない装置なんだろうと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。ダークナイトは傑作だが、急に出てきたわけではない。どんなものにも伝統と歴史があるのだ。

 

 と、いうわけで、時流に乗っておすすめのアメコミを紹介しようと思う。映像作品を入り口にアメコミに触ろうとする私のような人々の一助となれば幸いです。イェーイにわか最高~✌('ω')✌

 

・紹介の指針(=私が読む漫画)は映画やドラマありきです

・なので入門向けのオリジンストーリーが中心になります

・マーベルよりDC派です

・必死こいて原語で読んでますが、知性が足りないのでしばしば誤読します

・迷ったら日本語訳があるものをご紹介します

・好きなアメコミ原作映画はバットマン ビギンズです

・二度と見たくないアメコミ原作映画は下画像です

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1.DAREDEVIL: The Man Without Fear


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 MARVEL最高~~~!!!!!!!

 フランク・ミラーというライターはデアデビルが出世作だったらしく、彼が関わるようになってから、デアデビルはハードボイルドでより現実に即した世界観へ方向転換し、低迷気味だった人気がV字回復したのだとか。そんな自身の成功の原点ともいえるデアデビルのオリジン・ストーリーをフランク・ミラー自ら語り直したのが本作。ありていに言って

 ニューヨークの掃き溜めで貧困にあえぎ、母もなく、幼い日に視力まで失った男。世の不幸を一身に背負い、信じた師にも愛した女にも裏切られた彼はなぜ犯罪に走らず、むしろ弱きを助け悪を挫く孤高のクライム・ファイターとなったのか。高潔な魂が発火するさまを綴る抑制的で煮え切った筆致がもう最高であたまおかしなるよ。

 初読時は最終盤でのレーダーセンスの扱いにぐっと来た。レーダーセンスはただ盲目の男が悪党と渡り合うための技術だけではなく、助けを求める誰かの声を決して聞き逃さない高潔な魂の顕現なのだ!

 NETFLIXで配信中のドラマ版には、この作品での黒ずくめコスチュームが活動初期のコスチュームとして登場するとか。

 幸いにして2015年9月末に日本語訳が出た。神。

 


2.Batman: Zero Year-Secret City


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 DCコミックでは2011年に大規模な仕切りなおしイベントがあり、以降のDCがコミック世界は52個のアースに別れたThe New 52!と呼ばれるようになった(阿呆か何かか)のですが、この新世界におけるバットマン、そしてジョーカーのオリジンが語られる作品です。

 時系列がややこしく、(確か)ジャスティス・リーグが本編(バットマンとかスーパーマンとかフラッシュとかの本誌)の5年前という設定で、その1年前の、各地でスーパーヒーローと呼ばれる存在が生まれ始めた頃の話が本作、つまりオンゴーイングシリーズの6年前ということになります。わかんねえよDCEUコケろ。

 その頃ブルース・ウェインバットマンですらなく、グラップルケーブルに試行錯誤しているような描写から始まる。彼は犯罪と戦う決意を胸にゴッサムへ帰還したが、赤いマスクで顔を隠す匿名の集団『レッドフード・ギャング』の台頭を目の前にして、自分の無力を悟る。そしてある嵐の夜に、コウモリの啓示を受けてバットマンとなり、自分もまた匿名の存在となって街を牛耳るレッドフード・ギャングに挑む……という筋書きです。

 レッドフードといえば、かの傑作『バットマン:キリングジョーク』の中で過去の事件として語られる、ジョーカーのかつての姿です。つまり、ゼロイヤー:陰謀の街は、キリングジョークでは一人の小悪党にすぎなかったレッドフードを再解釈し、新たな伝説の始まりを描く野心作なのです。もちろん啓示のシーンは『イヤーワン』への敬意と対抗心が見え隠れします。匿名の集団なのがいいんすよ…定番のオリジンのようでひと味違うのが、ノーラン三部作さえも内包する最高の新イヤーワンなんすよ…さ、さ、最高…✌('ω')✌

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 薬品タンクに落ちる男、一体何者なんだ……

 ゼロイヤーの後編はそんなにおもしろくないですが、タイイン群はめちゃめちゃおもしろいです。おすすめはのちのレッドフードがレッドフードの名を騙る軍団と戦うRedhood and the outlawsと、誘拐されたママを救うためフードの男としての初仕事をするGreen Arrowと、飲むと加速するイカロスという薬物を追ってゴッサムに来たバリーがゴッサムガゼットの美人インターン、アイリス・ウェストと電撃的に恋に落ちるThe Flashです。

 


 3.Superman:Earth One vol.3


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 アースワンってのは、52個のアース(アホ)のうちのひとつで、手っ取り早く言うと、リアル路線なシリーズです。まだヒーローがいない世界で、駆け出しの弱々しいヒーローとしてアイデンティティを獲得していく若者らの姿を描く作品群であり、まるでリブート映画を見ているかのような雰囲気があります。背景知識ゼロで楽しめるので大正義です。

 とはいえ、バットマンはグラップルケーブルが絡まってゴミ溜めに落ち、スーパーマンは宇宙人カル・エルの恋とセックス*1に踏み込むなど、野心作(?)なところもある憎めない作品です。

 それはさておき、Vol.2までで、スーパーマンは内面に深い葛藤を抱えながらも、世界中に認知される、正真正銘のスーパーヒーローになります。彼はメトロポリスを二度救い、一方で圧政を敷く独裁者を打倒します。しかし彼は、メトロポリスの悩める若者ひとり救うことが出来ませんでした。人生に絶望し、ボブ・ディランを愛し、薬物に溺れ、スーパーマンという存在に希望を見出しながらも自ら命を絶った隣人の、救世主にはなれなかったのです。

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 そしてVol.3では、世界中から支持されながらも、「僕はただ力があるだけの存在だ」と悩む青年クラークの前に、スーパーマンを上回る力の持ち主が現れるのです。待望のゾッド将軍です。

 クリプトン星人である上に訓練された兵士であるゾッドは、民衆のヒーローであるクラークをたやすく打ち倒します。メトロポリス市民が見守る前でボロボロにされていくスーパーマン。「力があるだけ」だったはずの彼がその力さえも奪われていくアイデンティティの物語と、ヒーローとしての真の目覚めがぴったり合致した物語の盛り上がりたるや筆舌に尽くしがたいものがあります。

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 恥ずかしながらこのへん読みながらボロボロ泣いてしまった。

 そのうえ、アース1版レックス・ルーサーのオリジンストーリーでもある本作。Vol.1しか邦訳が出ていないのがあまりにも惜しい。甘えるな早く出せ。The New52!のAction Comicsもいいけど、こっちのスーパーマンも最高。

 スーパーマン2とマン・オブ・スティールのいいとこ取りしたような作品で本当に傑作なんだよ…ゾッド将軍ってのはやっぱりこう、既にヒーローであるクラークを圧倒する存在であってほしいし、だからこそ"Bow down!"が、本当に…最高…✌('ω')✌

 


 4.HAWKEYE:My Life as a Weapon


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 MARVEL NOW!っていう初読者向けのシリーズがマーベルでも最近一斉に始まったらしく、これもその一作だとか。ただ、とりあえず新シリーズ1話というだけで、前までの話を知っていないとちんぷんかんぷんな、事実上のシリーズ継続なものも多いみたいです。*2

 そんな中で、初読者でも入りやすくまた、ホークアイというキャラクターの新たな魅力を掘り出した作品として、えらい高評価だったので読んでみました。

 これがめっぽう面白い。アベンジャーズでも数少ない常人ヒーロー・ホークアイの、ハードボイルドを気取るもいまいち締まらない小規模な戦いと日常が、なんだかサブカルっぽいアートで描かれていて、とてもよい。

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 なにせ敵はマフィアの地上げ屋で、ホークアイが戦う理由は、貧乏人らが集う安アパートを地上げ屋から守るためだったりする。アメコミ!!!という絵柄でもないのであの手の絵が苦手な人にもおすすめ。冴えないおじさんだけど決める時は決めるヒーローというキャラは、映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のホークアイにも通じるところがあります。

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 冒頭で高いところから落ちる is 名作。

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 こんなこと言うのも何だけど、各イシューのカバーが、本当にアメコミとは思えないサブカルですごい。

 TPBのVol.2までは日本語訳が出ていて、私もVol.2は日本語訳で読みました。Vol.3も発刊予定があるみたいでとても嬉しい。母国語で読めるならそれに越したことはないもんなあ。

 


 5.Green Lantern: Secret Origin


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 なんかさぁ~、グリーン・ランタンってのがジャスティス・リーグによく出てくるけどさ~、実際どんな来歴なわけ? いや、ググれば大体出てくるけどそういうんじゃなくてさ~、コレ読め!ってのないの? は? いやパララックスとかどうでもよくてさー、リバースが名作って言われてもハル・ジョーダンが帰ってくるまでじゃなくて最初が見たいの、わかる? 甘えんなすぐ出せや、だーかーらー、グリーンアローと一緒に社会問題とか別にいいの! どういう話なのかって聞いてるんですーーー!! 先生に言いつけますーーーー!!! 帰りの会でいいますーーーー!!!と思って探したら出てきたのがこれ。

 日本では映画に合わせて日本語訳が出ていて、ありがたくそちらで読みました。

 現代のスタンダードな娯楽アメコミはこういう水準なんだなあ、と感じ入りました。第一話の再構築といってもライターのエゴが前面に出るようなタイプではなく、そんなに奇をてらわない作風です。でも人間ドラマは骨太で読ませる。

 青年ハル・ジョーダンの空への渇望と、空の仕事を忌避する彼の家族との衝突があり、フェリス航空の若き女社長キャロル・フェリスとのロマンスがある。グリーン・ランタンは生まれついての宿命でも半ば狂気のような意志の産物でもないから、キャラとして弱くなりがちのようだが、本作のハルは「空を自由に飛びたい」という原始的な欲求によって、ヒーローとしての使命を受け入れると同時に家族の問題を解決する。

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 少年の空への憧れ、いいよね…

 典型的ではあるんだけど、強いも弱いも、彼女と上手くいくもいかないも、家族と喧嘩するもしないも、全部己の心ひとつというまとめ方は、腑に落ちざるをえないし、こういうのがあるならちゃんと教えろよバーカバーカと思ったので、ご紹介します。そもそもリングの力は意志の力だもんな、気持ちが定まるとき力が目覚め問題が解決するのが物語というものなんだよな。

 新・第一話という作品ではあるものの、リングのパワーが黄色に効かない理由やシネストロの行末など、今後の展開への示唆に満ちた作品でした。

 それはともかく、グリーンランタンのロゴは、黒背景に白抜きで円形だとかなりサッカーボールに見える。

 


6.Batman: Earth One vol.1


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 カウルの下にバットマンの眼が描かれている。この一事に象徴されるのは、本作の、バットマンというスーパーヒーローを人間にする、という試みである。化け物じみた身体能力もない。現実離れしたガジェットの数々もない。そんなバットマンが犯罪者を追ってルーフトップを駆け回ったら……

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 こうなる。

 この2コマ即堕ちにピンときたら読みましょう。

 Superman:Earth Oneと同じEarth Oneのシリーズで、世界観もつながっています。*3地に足の着いた作風で、まだヒーローのいない世界でヒーローになるべく奮闘する若者たちの物語……といえば聞こえはいいが、バットマンはザコ。ザコすぎる。Vol.1ではシリアルキラーと対峙するが、クールなアクションなど何一つなく、みっともなく泥臭く勝利を掴んでいる。そういう作風がいいと思う人もいれば、ヒーロー物にそんなん求めないよ、と思う人もいる。だから、上の2コマ即堕ちにピンとくるかこないかが大事なのです。

 それはさておき、バットマンがヒーローになっていく過程の描き方がまた楽しい。上のような体たらくで、とてもヒーローとは呼べないバットマンだが、必死に犯罪者と戦ううちに、彼は次第にただの人以上の存在=伝説になる。要するに口コミだ。口コミで尾ひれがついて、足を滑らせゴミ溜めに落ちるだけの男が、不死身のコウモリ男になってしまうのだ。スーパーヒーローをスーパーヒーローにするのは本人の技術や能力だけではなく、ヒーローの姿を目撃し名を呼び交わす市民なのだ。*4

 ちなみにこのバットマンも徐々に進歩しており、Vol.1ではケーブルが絡まって使えないような有様だったのが、Vol.2のラストでは(ついに!)バットモービルが登場します。走行シーンはVol.3以降になりそうですが…

 Vol.2ではリドラーやキラークロック、キャットウーマンになる前のセリーナ・カイルなども登場し、まだまだEarth Oneの世界は広がりそう。Wonder Womanが刊行予定で、Aquaman、The Flashの企画もあるそうです。*5これはゴミ溜めに落ちるバットマン率いるジャスティス・リーグが見られる日もそう遠くないかもしれない。

 Earth Oneシリーズの出来の良さは、普通のアメコミのようなイシューごと刊行ではなく、TPB描き下ろしであることも影響しているのかなあと思います。

 Vol.1は日本語訳も出ていますね。2は気配がない。

 


7.Amazing Spiderman - No One Dies


 The Amazing Spider-Man #655 & #656

 アメイジングスパイダーマンの、結婚がなかったことになるワン・モア・デイというシリーズを経て始まった、ブランニューデイズというリランチ?シリーズの、続きにあたる、スパイダーマン:ビッグ・タイムというストーリーラインの、3つめの話。ややこしすぎてこれ把握するだけで30分くらいかかった。おすすめのスパイダーマン教えろと言ったらティターンズモビルスーツが教えてくれた。ありがとうティターンズモビルスーツ*6

 いろいろあってスパイダーセンスを失ったスパイダーマンが、悪夢の中でこれまでに自分の力不足のために失った人々のことを思い出し、もう二度と自分の周りの人たちを死なせるものかという決意を固め、人の命をなんとも思わない殺人鬼を圧倒的なメカスーツでぶちのめす話です。

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 あんま作品の中身には関係ないんだけど、こういう描写を見ると、ニューヨークって見晴らしが良くていいなーって思います。 日本だとどっかに山が見えちゃうし。

 スパイダーマンの魅力的なところって、常にお金に困っていることや若者らしい恋や冒険もあるけど、失った人のことに思い悩む人間らしい姿もあるんだなあと思いました。いつもどこかに、大いなる責任に基づく救えなかったことへの後悔を抱えているからこそ、スパイディはみんなの親愛なる隣人でいられるのかもしれないですね。

 


 8.WE STAND ON GUARD


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 スーパーヒーローばかりなのも何なので、変わり種を。

 イメージコミックスのオンゴーイングシリーズです。アメリカに侵略されたカナダでレジスタンス活動をする民兵たちの話なのですが、ただそれだけだったら読まないし勧めない。

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  自然の猛威に逆らうことはできない。アメリカの侵略ロボット兵器が来たら、逃げなければならない。これだ。そう、アメリカが操る兵器は戦車ではなく巨大ロボットなのだ。こんなん読むわ。

 内容は正直どうでもいい……とは言わないが、カナダだからかわりとフランス語の台詞があり、本格的に何言ってるのかわからないのがつらい。話は、幼いころにアメリカに家族を殺された女が復讐のために民兵組織に身を投じるというもので、そんなに驚くべきものでもないので何とかなるのですが。

 パシフィック・リムはこんなものも産んだんですね。

 


 9.HULK:GRAY


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 マーベルにはカラーシリーズという、色をきっかけに一人のヒーローのオリジンを回顧する作品群があるのだとか。デアデビル:イエロー、スパイダーマン:ブルー、ハルク:グレイに続き、現在キャプテン・アメリカ:ホワイトがオンゴーイングです。

 デアデビルは初期スーツが黄色、ハルクも緑ではなく灰色の時期があったそうです。大人の事情により色が変わったものを、回顧という形で再解釈しているんですね。

 このハルク:グレイは、MCU作品『インクレディブル・ハルク』の原案の一つであるそうです。話自体は、やはり第一話です。ただ、実際にハルクのコミックを読んでみると、非英語話者にとてもありがたいことがわかりました。なぜならハルクはろくにしゃべらないからな! ハハハ! ハルク、英語、嫌い!!!

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 上は雷に吠えるらへん、下はラストシーンの原案となったページ。『インクレディブル・ハルク』はオーディオコメンタリーも興味深いものが多いです。エドワード・ノートンの監督シーンもわかりますからね。

 それにしてもMCUでのベティ・ロスの扱いはどうなってしまうのだろう。

 


10.GOTHAM CENTRAL


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 最高。

 ゴッサム・シティの刑事たちを主人公にしたクライム・アクションであり、バットマンはヒーローであっても主人公ではない。本部長・ゴードンの薫陶を受けた刑事たちは正義感に溢れ、犯罪がはびこる街をよくするために全力を尽くしている。しかし、ゴッサム・シティにはスーパーヴィランが跋扈している。彼らは、とてもただの刑事の力では取り締まることができない。だから、公式には認められずまた信条としても認められないバットマンに、頼らなくてはならない。

 そんな常人の無力と、それでも懸命に職務を全うする刑事たちの姿が胸を打つ。シルエットだけ、数コマだけ登場するバットマンの扱いも素晴らしい。バットマンというキャラクターの力がなければ成り立たない手法だが、バットマンという土壌があって初めて生まれた傑作でもあるのでしょう。

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 たとえば刑事たちはミスター・フリーズと対峙すれば即殺害されてしまうし、警備の人員をいくら増やしてもフリーズはたやすく突破してしまうが、バットマンなら戦える。刑事らに感情移入する読者は、この一コマにも、安心感と無力感の入り混じった複雑な感情を呼び起こされるでしょう。*7

 狂人の街を守る常人の葛藤がフィーチャーされるIN THE LINE OF DUTYとMOTIVE。続くHALF A LIFEではレズビアンの女刑事が秘密にしていた自分の性傾向や女性との関係を職場に暴露されるというショッキングな展開が待ち受けている。いずれの事件も、一見するとただの刑事事件のようだが、裏の裏へと捜査を進めていくと、必ずスーパーヴィランたちが現れる。だが、捜査に行き詰まった時は、バットマンが現れる。この頼もしさは、刑事視点ならではだ。

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 もっともこれは、しらを切り続けるトゥーフェイスの部下を、これからバットマンが警察には出来ない手法で尋問するというシーンなんだけど。それにしても、ただの黒い影でそれとわかる、バットマンというキャラの強さよ。

 刑事ものだが、ゴッサム・シティならではの刑事ものとして、「大人向きなものがみたければいくらでも犯罪小説があるでしょ」という批判にも応じるGOTHAM CENTRAL。TVドラマ『GOTHAM/ゴッサム』の原案でもあるそうで、ぜひ多くの人に読んでもらいたい傑作でした。一刻も早く日本語訳を出せ。

 


 そんなわけで、時流に乗ってとりあえず10作持ってきた。アメリカの電子コミックの整備状況は本当にすごい。

 実際にいろいろ読んでみると、アメコミ?普通の漫画でしょ…→ジューシーーーーー!!!!!と仮面ライダーグミ状態になること請け負いなので、この機会にアメコミ沼へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

 正直に申し上げれば、これは傑作!というものでも日本語訳が出ていない、出ていても手に入れにくい、日本語訳の電子版となると壊滅、という現実に向き合う仲間が一人でも増えることを願ってやまない。

 11月のDKIIIが楽しみで仕方ないです。

 



*1:「ねえ僕にもセックスチャンスが来そうなんだけど、僕宇宙人だしセックスできるのかな…」と実家のママに電話するクラーク・ケントは必見。

*2:Amazing Spidermanを読んでみたらいきなりピーターがパーカー・インダストリーとかいう会社の代表で、表向きはスパイダーマンに技術協力しているという設定になっていてわけがわからなかった。何でも直前までドクター・オクトパスがスパイダーマンだったらしい。意味がわからんがそう書いてあった。

*3:Superman:Earth One Vol.2で、デイリープラネットの記事のひとつにゴッサム・シティを賑わす蝙蝠男のことが書かれています。今はまだその程度。でもこれからどうなるかはわからない。わくわくするよね、するよね…

*4:バットマン ビギンズはこの辺の演出がすごく好みです。スケアクロウの薬物の効果で空飛ぶ蝙蝠男は恐怖の象徴になってたわけだし。でも子供は助けていたわけだし。巡り巡ってライジングでのバットサインに繋がるわけだし。

*5:今年のサンディエゴコミコンでストラジンスキーがそんなことを言っていた。

*6:片っ端から電子化されてるから、このエピソードが面白いと聞けば即そのエピソードだけ2ドルで買えるのがアメコミのヤバいところだと思います。

*7:私はこういうのを怪獣酋長のイデ隊員問題と勝手に呼んでます。