24 - シン・ゴジラとシネマスコープ

 中身に触りたくないので予告編に出ているカットを用いてシン・ゴジラの素晴らしいところを伝道することにした。中身の話をしたくないので画面の話をする。

 そこでこのTVCMだ。

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 よろしいか、YoutubeやTVで観ていてもすさまじいワンカットだが、劇場で見るとこのカットは更に凄い。なぜか。

 

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 車窓から撮影されたような映像。まず最初、ゴジラはフレームの左側にいる。この時、車は右から左へ走っている。

 

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 撮影者がゴジラの真下へと潜り込んでいく。するとゴジラはフレームの真ん中に移動する。ここで、人間の視点を用いるモキュメンタリー的な演出は見せかけに過ぎず、実はさらに巧妙な演出が潜んでいることに気づく。もしもモキュメンタリー調を徹底するならばカメラは揺れるはずだし、また、撮影対象であるゴジラが次第に右へ動いていくのはおかしいのだ。

 

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 最後。ゴジラは完全にフレーム右端へと移動している。身を乗り出して撮影しているかのような臨場感。それだけではない。

 このとき、観客の目線はシネマスコープの横に広い画面を左から右へと見事に横断させられるのだ。これによって初めて、作中世界への没入感が得られる。Youtubeではこれは無理だ。映画館へ行って、巨大なスクリーンを見上げて初めて、この演出は力を持つ。きっと誰しも、画面の主役たるゴジラに目を奪われ、左から右へと、まるでこの映像を撮影したのが自分であるかのように目線を動かすことだろう。映画館の狭い座席に座ったままで! これぞ体感だ!

 シネマスコープシネマスコープである意義を存分に活かしている邦画など数えるほどしかない。洋画に目を移してもその数は少ない。対してシン・ゴジラは、このカットだけでなく、常にスクリーンの四方八方へ観客の目線を誘導する仕掛けが施されている。

 

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 空撮では奥へ。そしてテロップで手前へ。*1縦方向への視線の誘導に気を配っていた最近の映画というと、真っ先にスター・ウォーズ/フォースの覚醒が思い浮かぶ。ちとCGで負けるがあれとタイマン張れるレベルである。

 

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 シネスコサイズは!全部使え!!とばかりのショットだ。

 

 思えば予告第一弾では東宝スコープのロゴが使われていた。知らなかったのでGoogle先生に訊いてみたところ、あれは「シネマスコープ」という名称が商標だった時代に同じアスペクト比を使っていることを示すためにあったのだとか。

 ここからは半分憶測である。

 シン・ゴジラは、映画館で映画を観ることに特有の快楽に極めて誠実な映画であると感じた。大きな画面で観客の視線を巧みに誘導することによる、ただ画面を眺めている以上の没入感、シネマスコープの快楽である。そして、その快楽は、世代をたやすく越えるのだ。東宝スコープロゴが出ていた時代も今も、姿形は違えど同じゴジラを見上げている。

 私は、映画館で冒頭のカットを目撃した時、予告編のロゴや自分がかつて出会ったゴジラ庵野秀明が以前に岡本喜八との対談で語っていたシネマスコープの良さ、日本を代表する娯楽が銀幕への帰還を果たした実感などが一斉にこみ上げてきて、思わず落涙してしまったんですね。

 いや本当にね、何が3Dだという話なわけですよ。フィルムメーカーの誇りを見せつけられるようなシン・ゴジラでした。

 ✌('ω')✌最高~!

*1:力技すぎると思わんことはない。