46 - 町かどタンジェントと渋谷系の脈絡

 まちカドまぞくのOPテーマソング「町かどタンジェント」に完全に脳をやられたので、その脈絡について、思いつくところをまとめてみることにした。

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 まず、これはド直球の渋谷系音楽だ。力の抜けたボーカルとアコースティックなサウンド、コーラス! しかしそもそも渋谷系とは、元来、90年代に渋谷のタワーレコードHMVの試聴機や、周辺のレコード店主によってもり立てられた音楽群のことである。脱力ボーカルとアコースティックは同じでも、当時の渋谷系音楽には、ファッションの側面があったのである。

 音楽的には欧米のロックやネオアコ。サンプリング。しかし歌詞の世界観には、(主にフランスの)映画やカメラ、役者、写真などのカルチャー、そしてカルチャーの世界の中で主人公になる自分が投影されていた。ただ音楽をサンプリングするだけでなく、時代の流れの中に浮き沈みするカルチャーという曖昧模糊なものをサンプリングして取り込んでいたのである。まさに、耳で聴くファッションだ。

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恋とマシンガン(YOUNG, ALIVE, IN LOVE)- フリッパーズ・ギター(1990)

 

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Candyman - カヒミ・カリィ(1994)

 

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ハッピー・サッド - ピチカート・ファイヴ(1994)

 

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Girl Talk~Never Fall in Love Again~ - Cosa Nostra(1996)

 

 しかしこれも2000年代に入ると様相が変わってくる。渋谷系にカテゴライズされていたアーティストの影響下で出現したアーティスト群、ネオ渋谷系である。そして取り込まれるカルチャーは、海外の、ツンと澄ました映画や音楽から、東京発のものへとローカライズされていく。サウンドも当初のネオアコ志向を残しながらも不思議なことにゲーム音楽へ近接していく。今振り返りネオ渋谷系にカテゴライズされるアーティストには、当時から今まで音ゲー楽曲提供者として知られている人やその関係者も多いのだ。

 

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東京喫茶 - Capsule(2001)

 

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Magical 8bit Tour - YMCK(2004)

 

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Baby Pink - risette(2003)

 

 そして、ROUND TABLEだ!

 ピチカートやフリッパーズに影響を受け、90年代から活動していた渋谷系ネオ渋谷系の中間のような彼ら。

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Feelin' Groovy - ROUND TABLE(1998)

 

 しかし2002年頃から、ゲストボーカルを迎えてアニメソングの世界に進出する。

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 Groovin' Magic - ROUND TABLE featuring.Nino(2005)

 

 そう、同じなのだ。

 グルーヴだのマジックだのハッピーだのキャッチーだの、使うキーワードがかつてから今まで皆同じなのである。野宮真貴はハッピーでキャッチーでグルーヴィーと自己紹介し、フリッパーズの91年のシングルはGROOVE TUBEなのである。サンプリングするカルチャーが変わり、流れる媒体が変わっても、魂としてのハッピーでキャッチーでグルーヴィーが綿々と連なっているのである。そして、この手のアニメソングに進出した渋谷系音楽は、2007年ごろから「アキシブ系」と一部で呼ばれるようになる。アキバ系と合体した造語である。

 加えて、ROUND TABLEは次々と声優アーティストへの楽曲提供を行うようになる。その代表が、花澤香菜とその1stアルバム『clarie』(テーマは『渋谷』!)。好みで挙げるなら、中島愛のTVアニメ『たまゆら』EDテーマだ。

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メロディ - 中島愛(2010)

 

 花澤香菜中島愛への楽曲提供者を見ると、かつて渋谷系で一世を風靡した名が次から次へと現れて驚かされる。宮川弾ラヴ・タンバリンズカヒミと並ぶ渋谷系の歌姫・ELLIEを擁したバンドだ)で、中塚武土岐麻子野宮真貴に縁深い。花澤はシングル「恋する惑星」(2013)リリース時のインタビューで北川勝利のファンであることを公言もしている。

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恋する惑星 - 花澤香菜(2013)

 

 もちろん、ROUND TABLE以外の渋谷系ネオ渋谷系アキシブ系アーティストも黙ってはいない。元Cymbalsの沖井礼二は竹達彩奈に楽曲提供(Sinfonia! Sinfonia!!!/2012年)しているし、アニメ・ゲームの中間領域からは石濱翔アイカツ!に爆弾を投げ込んでいる。

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fashion check! - 作編曲:石濱翔(MONACA/2013)

 

 いやあ、fashion check!は本当に衝撃だった…なんてったって、女児向けゲームという題材を使って、原始の渋谷系が思考していたファッションとしての音楽への回帰を果たしていたのだから。あるいは、ファッションと音楽を繋げられるテーマとして、渋谷系を選択した結果の曲なのかもしれない。

 さて、時代を30年ばかり駆け足で舐めた後にもう一度聴く「町かどタンジェント」はどうだろう。

 気怠げなボーカルとアコースティックなサウンドをアニメ声でパッケージングし、そこに少しのオシャレを内包したサウンド。そしてハッピーでキャッチーでグルーヴィー。なにせOP映像では謎の生物が音楽に合わせてゆるく踊るし、ぱやぱやとコーラスするし、謎の西洋風の街並みまで出てくる。おっ、これは恋とマシンガンのPVで見たね?そう、見たんだ。これは渋谷系の最新の子孫なんだ!俺は間違っていない!(壁に激しく頭を打ち付ける)

 特に画期的だと思ったのが、(半分を映像に依存した)オシャレへの回帰だ。渋谷系は時代とともに変質するにつれ、取り込み先を貪欲に広げ続けた。その結果、原始の渋谷系が持っていた、ツンと澄ましたカルチャーへの無限大の憧れのようなものが薄れていた。一方で、カルチャーへの無限大の憧れという精神性がオタクのそれと近く、それゆえにアキシブ系が発生したという分析も成り立つのだが。

 しかし町かどタンジェントの最後の歌詞はどうだ。「お楽しみはこれから」。意図したものかはわからないが、これは1927年の世界初のトーキー映画『ジャズ・シンガー』において、世界で初めて音声で発せられた映画の台詞と共通している。You ain't heard nothing yet!!!(※諸説ございます。)

 まるで原始の渋谷系への先祖返りか、隔世遺伝のようだ。そう、まさに、シャミ子の角&尻尾と同じなのだ! ああ、これが言いたかった。これが言いたいがために、死んだブログを引っ張り出したのだ。まちカドまぞく、いいアニメ。町かどタンジェント、いい曲。それだけでいい。おのれ魔法少女、これで勝ったと思うなよ。

 

(追記)

 後で気づいたのだが町かどタンジェントの作詞作曲編曲を務めた辻林美穂はTWEEDEESと一緒に仕事をしている。

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  2017年にMV出演。その後アルバム『DELICIOUS.』収録の数曲で編曲や演奏。TWEEDEESが元Cymbalsの沖井礼二が若いオンナを誑かして好き勝手やっているバンド(※諸説ございます)であることを鑑みるに、町かどタンジェント渋谷系サウンドが生まれた背景には沖井礼二の影響があるのではなかろうか。