57 - 旧赤線・金沢石坂を歩く

 およそ1年前、2019年8月25日に、金沢の繁華街にほど近い場所にある「石坂遊郭」の跡地を歩いた。近くには「にし茶屋町」という観光地化した芸者街があるが、そこからなんと徒歩一分である。

 石坂は旧町名であり、現在の地名は「増泉1丁目」である。戦後も赤線地帯として売春が行われていたが、次第に廃れ、特飲街はうらぶれたスナックへと姿を変えていった。小綺麗な加賀百万石~~~!!という町並みから水路にかかる橋をひとつ渡ればアンダーグラウンドの気配。赤線遺構探索の醍醐味である。

 余談になるが、そもそも金沢を訪れたのはガルラジの絡みで、前日から当日にかけて手取川海瑠と吉田文音のホームであるところの徳光PAや「変なオブジェ」のある松任駅、手取フィッシュランドなどを訪れた。2019年はガルラジ。2020年もガルラジ!

 宿泊はちょっと奮発し、花咲くいろはの舞台として知られる湯涌温泉のちょっといい旅館に宿泊した。数日後に宿泊ありがとうございますという葉書が届いた。高い宿ってそういうことするんだ……と感激してしまった。

 珍しくひとりではなく、高橋と名乗る住所・年齢・職業・姓名不詳の男(ツイッターの相互フォロワー)と一緒だった。しかし何度となく飲みに行き、旅行にまで行っても、未だに私は彼の本名すら知らないままである。むしろ知らないほうが面白いので彼の宿帳は見ないようにした。高橋、一体何者なんだ。

 さて、レンタカー(乗ってみたかったのでカローラスポーツのハイブリッドを借りた)を地区の外縁部にあるコインパークに停め、探索開始である。

 

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 タイル、少し斜めの入口。特徴はあるものの確信には至らない。

 しかし奥へ奥へと歩みを進めていくと、次第に怪しい雰囲気が漂ってくる。

 

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 謎のスナックビル。よく見ると2階の窓から置屋建築の名残らしきものが見える。

 

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 同じ建物を角度を変えて。第三飲食街、一体なんなんだ。妓楼1棟をモルタルで台無しにし、タイルを張って複数のスナックに分割したのだろうか。赤線時代にはどんな営業をしていたのだろう。

 

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 室外機の新しさを見るに、スナックとしてはまだ現役なのかしら。

 

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 奥へ進むと、当時の雰囲気を生かしてリフォームしたような建物が並ぶ。木造の部分、タイル張りの部分、それぞれにそれぞれの時代が見え隠れする。見切れている左側も似たような建物なのだろうが、こういう場所の常として、日進月歩で失われている。

 

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 タイル、いいよね…

 

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 無惨にも崩れたタイル。

 

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 先程の「第三飲食街」とはまた別の、多数のスナックが入居する建物。味のあるうらぶれ方をしている。

 

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 往時を偲ばせる建物。路地は狭く、アングルが限られてしまうのが惜しい。いつまで取り壊されずに残っているかわからないのだ。

 

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 タイル、タイル、タイル…

 1枚目の建物はリノベーションされ、カフェ兼雑貨屋兼女性専用ゲストハウス「凛凛」になっている。私と高橋も休憩がてら入店した。「建物ですか?」と我々に訊いた店主は30と少しくらいの女性で、町家の風情に魅せられて出店したという様子。艶やかな浴衣姿が印象的だった。それとメチャメチャ元気な犬。余談になるが、私は犬が苦手である。人間の子供と同じくらい苦手である。遡ること25年ほど前、小学生の時分、遊びに行こうと意気揚々と近所を歩いていた私。そこへ犬を連れたご婦人が通り掛かる。すると犬が吠えて、私の方に向かって牙を剥いて走ってくる。そうはいってもリードついてるし、射程範囲に入らなければ余裕だし、当たらなければどうということはないしと油断していると、そのリードが伸びた。ご婦人の手元には巻取り機構があり、どうやら伸びること前提の商品らしい。当時の私は9割の恐怖と1割の怒りに駆られ、脱兎のごとく回れ右して駆け出した。そもそも、リードが伸びたら意味がないではないか。これだから愛犬家というやつは困るのだ。ワンちゃんが自由に走り回れて最高~♡とでも思っているのか。愛らしさのために理性のない獣を手元に置いているという自覚が薄れるのはわかる。わかるが、それで私の恐怖と怒りが薄れることはないのである。さて、そんな出来事から25年余、私は生活の中で可能な限り犬を避けてきた。確かに犬は怖かった。だがもういい大人である。たかが犬、余裕余裕。そう思っていたが、我々が入店するやいなや狂喜乱舞の様を見せる犬に足が竦んだ。犬はやはり犬である。大丈夫だと思っていたがやっぱり駄目だった。琥珀さん、俺やっぱ犬駄目だわ。何がワンちゃんだ煮て食われろ畜生め。

 

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 店内の様子とお茶。犬はともかく、末永く繁盛してほしい。

 

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 最後に、ものすごい勢いで手取川海瑠を感じた、フォーラス金沢内での一枚。

 アクシデントはあれど、総合的には、いい金沢だった。