87 - 202303記録

 花見がそんなに好きではない。桜が嫌いなわけではないが、名所に行きたい気持ちがそんなに湧かない。桜の効能は、私たちが毎日通り過ぎている風景を一変させることにこそあり、どこかの名所の価値を一瞬だけ最大化させることではないのだと考えているからだ。だから花見と称してどこかにわざわざ足を運ぶこともあまりない。生まれや育ちのせいもあるかもしれない。何度か転居した実家は、どこも近所にそれなりの桜の名所があった。だが東京なのでどこも桜より人の方が多く、花を愛でる感じでもなかった。

 それでも働くようになってから、桜の美しさが本当に心に沁みる体験をした。非人道的な長期出張の最中、一日休みになった時が、ちょうど桜の見頃に的中したことがあったのだ。出張先で休日になるような出張ってマジでなんだよ。加えてそこは全国的に有名な桜の名所を有する土地であり、じゃあせっかくだし観に行くか……暇だし……という経緯で足を運んだ。さすが名所、だが田舎。人よりも桜の方が多い。その上、単位面積あたりの桜の数が、東京のどんな名所も比べものにならないほど多いのだ。右を見ても左を見ても、四方八方全部が満開の桜。過酷な労働に疲弊した心にこれは沁みた。なお、地獄の出張は桜が散る頃まで続いたのだった。

 

■今月のヘッビロッテダヨーミュージック

 ありがとうSpotifyのリリースレーダー機能。

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 Hakubiの2ndフルアルバムをよく聴いていた。

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 これ好き。

 

 スカパラ歌モノのYOASOBI幾田りらがゲストボーカルのやつも一押し。

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 たまたまこれが収録されたミニアルバムのリリース前後で谷中敦がラジオに出演して喋っているのを聴いたんだけど、幾田りら(高校時代は吹奏楽部)がトランペットも吹いているのだとか。多芸多才ですごい。

 谷中氏は同じ番組の中で、幾田りらの歌唱力を高く評価した(というかべた褒め)上で、最近のヒットチャートに入ってくる若いアーティストは本当に凄いということを繰り返し話していた。その内容を自分なりに解釈すると、「若い層はオープンソース化された既存のノウハウをフル活用して最短で最先端に到達した上で、さらに独自の創造性を発揮する。だから最近はヒットチャートの曲が音楽的に高水準でかつユニーク。とても面白い」とのことだった。絵とかでも似たようなところがあるような気がするけど、修業コストを最小化した上でさらに高みを目指せる者だけが栄光を掴める世の中ということなのかもしれない。似たようなものばかりになる~~という危惧は目の曇りの証なんだろうなあ。ジェネレーティブAIだってそこに+αして用途に最適化するスキルは磨かないと手に入らないものだろうし。欲を止めたらそこで終わりやで。

 

■観た

・フェイブルマンズ

・エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

・ノースマン 導かれし復讐者

・シン・仮面ライダー

・シャザム!~神々の怒り~

ヒトラーのための虐殺会議

・イニシェリン島の精霊

グリッドマン ユニバース

・対峙

・コンパートメントNo.6

 

 今月は結構観た。話題作があんまり自分の趣味じゃなかったなーという印象が強い。エブエブは母娘のうだうだ・もしもの人生云々かんぬんで話が進まないのがかったるくて寝落ちしたし、ノースマンはゼルダの伝説みたいでなんか笑っちゃったし、シン・仮面ライダーにはキレちまったし。コンパートメントNo.6が一番沁みた。

 それともちろんグリッドマン ユニバース。男子校出身監督の怨念が滲み出るような学園描写は健在だった。女子高生への神聖視から股や脇の一歩手前のパーツに異様にこだわるキャラクターデザインに涙が出そうになる。アニメとは思えないリアルな芝居やBGM無し演出で聖なるものに受肉させようとするその作風は、もはや宗教儀礼そのものである。信仰を示す対象が女子高生ってのはな、思春期の破壊が取り返しのつかない傷跡になってしまった生涯童貞根性男の習性なんよ。付き合ってる男女の距離感が執拗に描写されるのも、男子校出身だとそういうのの認知能力の発達が通常より遅れて、大人になってから脳に雷が落ちるような衝撃と共に認知するからなんだよ。そういう人間がアニメを作ると執拗に”男女の仲”の空気を演出してしまうってこっちゃ。作品っちゅうんはな、そいつが世界をどのように見てきたかが否応なしに出るねん。そういう人間にとってはな、実際の学校(共学校、想像上の存在である女子高生が実在する)を取材することと学校を舞台にしたフィクションに触れることが同値なんや。同じなんや。フィクションと現実を区別しない想像力の力ってのがSF的なメインテーマに据えられてたけど、それは半径1メートルに女子高生が存在する思春期を知らないから実在するはずの現実がフィクションと同値になってしまう哀しみを、前向きに言い換えたものなんや。百聞は一見にしかず、だから千聞・万聞で一見に対抗しようとするんや。それしかできひんのや。わかるぜェ~、すげェーよくわかる!感動!君も泣け!グリッドマン ユニバース!(泣きました、私は男子校出身です)

 

■読んだ

長谷敏司プロトコル・オブ・ヒューマニティ」

・オデット・ガロー「格差の正体 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか」

・飯村周平「HSPの心理学: 科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」」

本橋信宏「迷宮の花街 渋谷円山町」

・齋藤彩「母という呪縛 娘という牢獄」

冲方丁「骨灰」

 

 いずれ劣らぬ良書揃い!と言いたいところだが、HSPの心理学~には絶望の方が勝った。HSPについての市販書で一番マシっぽい本を手に取ったつもりだったけど、開いていきなり正規分布とは何かのやさしい解説から始まるのである。ウチ、HSPかモ…と悩む当事者(?)たちにはそのくらい噛み砕かないと伝わらないという圧倒的現実がそこにあるのだ。商業化した心理学、もっといえばGoogle検索から用意にアクセスできる心理学モドキに救われてしまう人々の素朴な愚かさと集金システムへの接続の容易さ、自己啓発による心理学の成果の濫用簒奪と一体どう戦えばいいのかさっぱりわからん。少なくとも、インターネットを情報源にHSPを自称するのだけはやめた方がいい。本当に悩んでいるなら何か別の、確立された精神医学的な切り口でアプローチした方が人生が豊かになるんじゃないのか?なおこの文はインターネットであることに留意されたし。

 

■コラム・著名人の死

 俳優やクリエイターの訃報を見てもうわ~~~好きでした~~~悲しいですご冥福をお祈りします……みたいな気持ちになることがあまりない。なので訃報が出た時のSNSってのがすげえ嫌いである。でも稀に年単位で引きずる訃報もあり、著名人が死んだって別に友達でもないのに落ち込むとか意味わからん、という一般感覚に必ずしも同化できない。なんだろうなあって頭の隅でずっと考えていたんだけど、最近労働をやり過ごしながらふと、その人の死亡時点での生産性によるな、と気づいた。

 昔ものすごい名作マンガを描いて今は表立って活動していない人とか、最近は出演作が途絶えている俳優が死んでもなんとも思わんのは、その人が死んでも自分が消費するものに特に影響がないからだ。芸名やペンネームがつけばそいつは人間ではなく作品を出力する装置なのだとみなしているっぽく、世の中に広がっているらしい悲しみから完全に取り残される。一方、まだ現役で作品出力機能が十全に備わっている人物の訃報は数年経っても引きずったりする。最近だと津野米咲の死が未だに忘れられず、赤い公園の曲を延々聴いている。京アニ事件の際も、報道を追うだけではいられず献花のため宇治まで足を運んだ。

 で、すると考えるのが、三浦春馬の死を引きずりつづける”春友”さんたちのことだ。

www.tsukuru.co.jp

 時々掲載されるセンセーショナルな犯罪者(植松聖のことです)の獄中手記を目当てにちょいちょい読んでる言論誌「創」には、三浦春馬の死から3年目?になる今も春馬ロスの人々の特集が掲載され続けている。2021年に単行本になっているのだが、最新号の表紙もご覧の通り。去年単行本は第3弾が刊行された。また、今年も4/5から彼の最後の主演映画である「天外者」の特集上映が全国277館で行われる。尋常ではない。映画館に通っている人ならば、そろそろ皆この毎年春の異様に気づき始めたのではないだろうか。

 三浦春馬の死が若すぎたのは間違いないし、これからも彼の俳優としての活動を目にしたかったと思う。しかし私には、創を通じて知った春友さんたちの気持ちがどうにも理解できず、春になる度わからねえわからねえと首を捻ってしまうのだ。少なくとも、まだ俳優としての生産性が残されていたから、ではないのだろう。それはわかる。しかしなぜ赤の他人である俳優のことを自分の一部のように思えるのか、そして彼のことを自分の一部のように思っている人が、なぜ全国277館の特集上映を成立させるほどの規模で存在しているのかが、さっぱりわからんのである。

 素敵なことなのかグロテスクなことなのかもにわかには判断しかねるというか、特集上映に足を運ぶ人とのコミュニケーションの不可能性を感じつつある。そもそもそんな機会はないが。これからも毎年春になるたび同じように首を捻り続けるのかもしれない。

 

TOEIC

 先月の苦行(毎日の学習習慣)の甲斐あって無事自己ベストを更新した。楽天足切りを食らわないくらいのスコアである。やったね。

 場合によっては、成果が数字が目で見えるのはいいことかもしれない。最近のインターネットは人を数字に拘泥させて気を狂わせることに長けているので、あくまで場合による。

www.amazon.co.jp

 これを使ってた。800にちょい届かないくらいの人にちょうどいい意地悪さの難問がこれでもかと載ってて、800越えのためのもうひと押しに効いた実感がある。返ってきたスコア表を見るにリーディングの長文読解問題とかはほぼ落としてなかった。代わりに文法と語彙でポコポコ落としていたのでどうかとは思う。結果として、足場が不安定な状態で上に色々積み上げた違法建築スコアになっているような気がしないでもない。

 なんでもいいけど二度と受験したくない。

 

■プラモデル

 先月接着したところを削った。進捗ダメです。早くモデロイドダイナゼノンを崩したい。グリッドマン ユニバースのダイナゼノン登場シーンがマジのマジのマジでサイコーだったから……。

 棚の容量がどうしようもなくなっていくつか断腸の思いで駿河屋に投げたりもした。

www.at-s.com

 このニュースには驚いた。駿河屋は元々静岡浅間神社の門前商店街の古本屋・太田書店から始まった店であり、経営する株式会社エーツーの名は太田→OOTA→ATOOに由来しているのだとか。それが全国展開し、本拠地静岡の中心市街地空洞化阻止のためにひと肌脱ぐのだと考えるとアツいストーリーである。しかしガンプラの転売・中古価格高騰や不自然に素早く中古市場に高値で流通する再販品のこと、そして静岡市バンダイのお膝元であることを思うと中々ねじれた関係だとも思う。

 現在の本社(静岡県静岡市駿河区丸子新田317-1、駿河屋に頻繁に買い取りを依頼する人間ならそらで書ける住所)は、静岡の駅前から国道1号で安倍川を渡ったところにある。貧者の高速道路国道1号を爆走する時はついつい目が行ってしまう。

 

■ゲーム

 ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドとパラノマサイトをクリアした。

www.jp.square-enix.com

 灯野あやめが癖(へき)にぶっ刺さるのはともかくとして、石山氏のテキスト技術に惚れ惚れさせられる作品だった。絶妙な長さ、絶妙なスペース、絶妙な改行で内容を過不足なく伝えながら、決してテキストが主役にはならず物語を盛り上げる黒子に徹している。本当の名手がファインプレーをしないように、テキストの機能面に気を配っているADV作品は意識しないとその機能の凄さに気づかない。黒子の働きが高く評価されてほしいなと思う。話はもちろん360度見回しの独特なプレイ体験も面白いし。

 キャラクターの喋りにスクストの引き出しを感じることもあったけど、謎解きの五次元力要求と併せて、スクストの血が流れた作品を楽しめるのは幸福だった。サトカ+悠水のような福永葉子、本性が栗本ちゃんな約子、ココナッツ・ベガのリョウコちゃん抜きみたいな人、育ち方を間違えてしまった美山椿芽みたいな灯野あやめ、灯野あやめ……

 

■カウントダウン

 ファット・カンパニー Fate/Grand Order フォーリナー/葛飾北斎 英霊旅装Ver.の発売まであと………………5ヶ月!!!

 葛飾北斎、灯野あやめ……