40 - 月刊機動戦士 宇宙世紀0097年2月号 巻頭特集「ガンダムNT-1アレックスのシールド開閉機構は実在した! 元AE社技術主任が語る驚愕の真実!」

月刊機動戦士 宇宙世紀0097年2月号 巻頭特集「ガンダムNT-1アレックスのシールド開閉機構は実在した! 元AE社技術主任が語る驚愕の真実!」

 

 ガンダムNT-1/アレックス。0079年当時、アムロ・レイ専用MSとして開発された、RX-78ガンダムの発展機である。0079年末、サイド6リボー・コロニーにおいて、ジオン公国軍の特殊部隊サイクロプス隊との二度の交戦で中破。現代にもつながる全天周囲モニターを他に先駆けて採用するなど、MS開発史を語る上では避けて通れない機体である。
 昨年発売された1/100のスケールモデルが大きな物議を醸したのは、読者諸君もご存知の通りである。これまでの研究では、腕部に装備された90mmガトリング砲は、シールド装備時には使用不能とされてきたが、このスケールモデルでは、射線を確保するようなシールドの可動機構を採用。そして採用の根拠として、独自ルートから入手したという0079年当時の図面を公開したのである。
 その図面には、確かにシールド内部に可動アームのようなものがあり、シールドのうちNT-1の特徴である青色の部分が大きく開閉する機構が盛り込まれていた。
 果たしてこれは真実なのか。それとも図面そのものが捏造で、妄想に走りがちな軍事オタクの仕業にすぎないのか。
 我々こと、宇宙世紀の真実に迫るただひとつのモビルスーツ専門誌 月刊機動戦士編集部でも調査を開始。そしてある人物に辿り着いた。当時、地球連邦軍オーガスタ研に出向し、その後NT-1とともにサイド6へ上がったアナハイム・エレクトロニクス社(以下AE社)の元技術主任・T氏である。彼は匿名を条件に我々の取材に応じた。以下にその全文を公開する。

 



NT-1の真実


――さっそくですが、NT-1のシールドの開閉機構は実在したのでしょうか。

T氏:はい、実在しました。ですが実戦に用いられることも、これまでその存在が取り沙汰されることもなかった。その理由を語るには、一年戦争当時のMS技術について、振り返る必要があります。
 まず、一年戦争当時に実戦投入されたMSの中に、シールドに何らかの防御壁以上の機能を持たせたものを思いつきますか?

――真っ先に思いつくのは、ZEONIC社のギャンです。

T氏:あの変態ですか。あと、ギャンはZIMMAD社ですね。連邦系では?

――ジム・ストライカー。あれはシールドにパイルバンカーが搭載されていましたね。

T氏:スパイク・シールドですね。あれはシールドの内壁に炸薬と、その爆圧で駆動するシリンダーを仕込み、シールドの突端部を駆動させてバイルドライバーとして射突する機構です。そうでもしないとMSの装甲を貫くなど困難だったのですね。トリガーはシールド側に仕込まれ、モビルスーツのマニピュレータで押したそうです。ジム・ストライカーにはリアクティブ・アーマーも装備されていましたから、その技術が流用されたと聞いています。他には、格闘戦クローをシールドに装備した、グラップル・シールドなどもあったそうです。
 さて、これらの機構と、NT-1のシールド開閉には大きな違いがあります。それは何かおわかりですか?

――シールド自体が武器であるか否か……

T氏:それも正解ですが……答えは、本体との信号取り合いの有無です。ジム・ストライカーは基本的に試作機で、当時は――今も変わりませんが――MSのソフトウェア技術者が慢性的に不足していたことも手伝って、ハード側の改造とパイロットのオペレーションで奇天烈な武装を使いこなしていました。ですがNT-1ではそうはいきません。なにせシールドの開閉は、90mmガトリング砲の展開・収納と連動する必要があります。コックピットからの指示でシールド装備側のガトリング砲がアクティブになったら、同じタイミングでシールドを開かなければならない。しかも、流出したデータからもご承知と思いますが、青色に塗装された部分すべてが開くのです。開閉機構には相当な負荷がかかります。当然、射撃を行うわけですから、その開閉速度には生き死にがかかっています。武装の特性上集弾性が悪く、比較的近距離での使用が想定されましたから……その開発がいかに困難であるかは、ご想像いただけるかと思います。当然、防御に用いますから機構には堅牢性も求められます。ジム・ガードカスタムというMSをご存知でしょうか?

――名前だけは……

T氏:あれはシールドに小口径のガトリング砲が搭載されていましたが、その名の通りシールドが特別仕様でした。四種の素材を用いた五層の複合装甲で作られていたのです。ゆえに、電装系の耐衝撃試験基準も、ビーム・スプレーガンの射撃信号をマニピュレータ-ライフル間で取り合うものと同じ基準が用いられました。機能化シールドの体系的な開発は一般に0084年に開始されたTR計画がその先触れであったと言われていますが、今にして思えば、ガードカスタムの方が先行していましたね。しかし重量は相当なものになりましたから、ジェガン系のようなサイズでもない当時のジム系のトルクで、あれを支えるとなると……パイロットの苦労はあまり想像したくありませんね。*1
 話をNT-1に戻しましょう。

 


なぜ開くのか


――まず、開閉機構が必要と判断された理由から、お聞かせ願いますか?

T氏:身も蓋もないことを言えば、開発途中のデータを見た連邦軍の高官から、チョバム・アーマーやシールド装備時に使えなくなる武装はいかがなものか、というコメントがあったことです。連邦軍高官のコメントは、我々にとって命令と同じです。
 そこでまず検討されたのが、開閉しないという案でした。

――高官の意見など蹴飛ばしてしまえ、ということですか?

T氏:いえいえ(笑)。90mmガトリング砲の弾丸には、ルナ・チタニウムが使用されています。MSの装甲材と同じですね。シールドは複合装甲化と耐ビーム・コーティングで装甲よりも強固で、90mmガトリング砲の直撃にもいくらかは耐えられる設計でしたが、そこで逆転の発想です。ガトリング砲の射線のみ、シールドを装甲と同等まで薄くしてしまえばいいのです。

――自身のシールドを内側から撃ち抜くわけですか。それは意表を突けるでしょうね。

T氏:意表を突く武装、という前腕内蔵の設計思想にも適う発想でした。ですが大きな問題がありました。
 MSのシールドは、戦闘機動中にどのような角度で構えられるか、わからないのです。その角度によっては、シールド内壁からの跳弾でNT-1自身にダメージが及びます。

――角度を計算してセーフティを設けるなどはできなかったのでしょうか。

T氏:難しいですね。その理由をご説明するにはまず、MSがシールドをどのように構えているかをご説明する必要があります。
 敵MS等を目視識別して、射線や刀跡を読んでシールドを構えられるパイロットは、ごく一部のエースに限られます。基本的には、メインカメラが収集した画像から戦術コンピュータが敵の装備している武装を識別し、最も自己の生存率が高まるように自動的に構えます。この際の挙動には、アムロ・レイ少尉*2によるRX-78ガンダムの運用データが用いられています。アムロ少尉がガンダムでどのようにシールドを構えたか。それによってどのようにザク・マシンガンやヒート・ホークを防いだかのデータが、すべての連邦パイロットの生命を守っているのです。私も当時、そのデータに大いに学ばせてもらった技術者のひとりです。なにせシールドの上半分が失われた状態でのデータまであったのです。アムロ少尉には悪いですが、ガンダムを追い詰めた一年戦争時のジオン兵らに感謝ですね。
 しかしアムロ少尉によるMSの挙動を機械学習した戦術コンピュータが、実際の戦場でどのような挙動を弾き出すかは、まあ言ってしまえばAIですからね、わかりません。わからないわけではないですが、必ず跳弾しない構え方に限り射撃を許可するなどという制御を行うと、今から撃ちます! という姿勢でしか射撃できなくなってしまう。

――そこで、開閉機構を設けるしかない、という結論に至ったわけですね。

T氏:ええ。小さい開口部を設ける案も、ごく小さな開閉機構を設けるという案も、同様の理由で却下されました。そこで我々は、シールドを大きく開閉する機構の開発に着手するわけですが……やはり問題があります。

 


数々の課題


――重量ですね。

T氏:はい。NT-1の腕はただでさえ重かった。フィールド・モーター技術の向上により関節部の小型化が可能になり、90mmガトリング砲の搭載も可能になったことはご存知と思いますが、砲身、回転機構、展開・収納機構、ルナ・チタニウムの弾丸等々、さらにチョバム・アーマーの装備も想定されたことで、腕部の負荷率は許容値ギリギリでした。そこへ土壇場でシールド開閉機構の重量まで追加されるわけです。当時の現場の阿鼻叫喚ぶりといったら、それはもう……。

――NT-1にはマグネット・コーティングが施されていたと聞いていますが。

T氏:あれは応答性の向上が主であり、トルク自体を上げるものではありません。そもそもがRX-78の基本設計を引き継いだものに後付で様々なものを載せたために、限界になってしまっていたのです。GP02サイサリスのように初めから巨大なシールドの運用を想定した高出力の腕部なら話は別なのですが。
 とはいえ、課題が現れたのなら持てる手段のすべてを尽くして解決するのが我々の仕事です。まずは開閉方式から検討を開始しました。

 


方式その1:地獄絵図


――まずはモーター、電気駆動ですか。

T氏:そうですね。まだその頃は、あの巨大なMSの手足が動くのだから、と楽観視していました。ですが、実際に強度・負荷率を計算してみると、いくつもの壁にぶつかることになります。
 まずはサイズ。シールドを大きく切り欠き開閉させるとなると、結局腕部と同等のモーターが必要になることがわかりました。専用設計する時間も予算もありませんでしたし、AE社内のユニバーサル思想はルナ・チタニウムよりも強いのです。しかしそれを搭載すると、前腕とのクリアランスがどうしても取れない。チョバム・アーマーも90mmガトリング砲もなければ簡単でしたが、そもそもがガトリング砲のためですからね。本末転倒です。加えてモーターの重量を支えると、ただでさえ許容値ぎりぎりだった負荷率がついにレッドゾーンになりました。するとせっかくフィールド・モーター技術の向上で小型化できたものを大型化する必要が生じ、ガトリング砲の配置もすべて再設計です。クリアランスが厳しくなると、先程述べました戦術コンピュータによるシールド自動構えにも補正を加える必要が出てくる。開閉機構のアームの剛性への要求値も一向に算出できません。
 そして堅牢性です。NT-1のシールドはガードカスタムのような特別仕様ではありません。形状こそ特殊ですが、耐衝撃試験基準も、ビーム・ライフルのそれよりも遥かに厳しいものが適用されます。まあ、適用自体が初めてだったのですが。規格や基準が時にモノづくりに先行するのが、AE社の強みであり弱みでもあります。ともかく、信号線は決して破断してはならない。シールド溶解直前までビーム・ライフルを受けた高温下でも、あらゆる角度でヒート・ホークを受けて傷の入った状態でも、90mmガトリング砲の射線を確保するため正常に駆動しなければならない。ミノフスキー粒子散布下では無線通信というわけにもいきませんし、レーザー通信には制約も多いですからね。
 堅牢性は制御ではなく、メカトロニクス設計にも及びます。モーターはそもそも回転運動を直線へ変換する必要がありますから、どうしても機構が複雑化します。そして高負荷には弱い。コンピュータシミュレーションとモックアップでの試験の両方で、戦闘機動を想定した衝撃を受けると、制御系が万全でも駆動不能に陥る場合があるのと結果が得られました。モーターを大型化することで可能と、あるいは駆動部アームの再強度計算・再設計をとシールド単体の技術者は言うのですが、すると腕部の担当者が負荷について怒鳴り、火器管制の担当が自動構えの補正値が決まらないから早く仕様を確定しろと騒ぎ、品質管理担当が機能化シールドの耐衝撃試験の内容に見直しの余地ありと発言してすべてひっくり返り……もう地獄絵図です。

――あまり想像したくありませんね。

T氏:最初に出社しなくなったのは、火器管制担当でした。彼は、最終的にすべてのしわ寄せを受けるとプロジェクトを悲観し、プレッシャーのあまり心身のバランスを崩しました。モーター駆動の検討を開始してから、全プロジェクトメンバーの実に30パーセントがメンタルヘルス不調と診断されました。誰もが追い詰められ、壊れかけていたのです。元気だったのは、私の上司くらいですね。
 そこで一旦駆動方式を白紙に戻しました。次に検討されたのが、油圧駆動です。

 


方式その2:重力に魂を引かれる


――作業用のプチモビのようにですか?

T氏:そうです。油圧駆動ならば機構は遥かに単純になります。専用設計のモーターには及びませんが、本体駆動と同規格のモーターを用いるよりも小型化が可能で、クリアランスの問題も解決可能との報告が上がりました。あらゆる戦闘機動を想定してもシールド自動構えの障害にならず、多少のアーム歪みでも無理くりに開閉が可能です。モーターと比較して応答性に課題は残りますが、そこは制御担当が頑張ってくれ、パイロットが90mmガトリング砲を選択してアクティブにしてから射撃可能になるまでの時間が、シールド非装備時プラス二秒まで縮める事ができました。腕を上げながら、ガトリングの展開に先行してシールドを開くのです。しかしそこで、誰もが忘れていた課題が明らかになりました。
 宇宙空間です。全員が、地上の重力下を想定しており、宇宙空間の無重力と低温、真空を想定していなかったのです。

――まさに重力に魂を引かれていたと。しかし、何が課題だったのでしょう。

T氏:まずは温度です。MS本体にも油圧駆動部やグリースの充填されたベアリングは無数に存在し、すべて超低揮発性で低温でも潤滑性が失われない油種が用いられています。しかしMSは待機するだけで発熱し、本体駆動部はその発熱を設計に組み込んでいます。では本体から離れたシールドではどうか。シミュレーションの結果はNGでした。しかしその結果を認められないシールド設計担当が、健気にも黒塗りして少しでも温度が上昇するようにした試作品でのテストを申し出……悲劇が起こりました。そもそも油圧は給油に基本的に重力を想定していることを忘れていたのですね。プチモビは低負荷想定ですから、毛細管現象を利用する無重力下でも運用可能な油圧シリンダしか搭載していません。我々はそんな基礎的なことも忘れていたのですよ。私も、今にして思えば、なぜあのような試験の実施を許可したのかわかりません。
 詳細は現在も原因不明ですが、固化した潤滑油が弾丸のように噴出し、その担当者のノーマルスーツのバイザーを突き破りました。即死でした。
 そしてプロジェクトは、完全に狂いました。思えばとっくの昔に狂っていたのかもしれません。

――ですが、シールド開閉機構は、実在したのですよね?

T氏:ええ。プロジェクトは再び白紙に戻りました。簡便、堅牢、安全、確実。これらを完全に満たせる方式は何か。夜を徹して議論が続けられました。そしてある時、私の上司がこう言ったのです。「モビルスーツの手は、なんのためについている?」と。
 その時、暗闇の中にいた我々に、光明が訪れました。口々に叫びました。モビルスーツは人の身体の延長。開かなければならない扉がある。我々はまず何をする。モーターか? 油圧か? 違うだろう。
 手で、開くのです。

 


方式その3:光明と虚無


――手で?

T氏:はい。シールドを装備していない方のマニピュレータで、シールドを、開くのです!

――開くのですか。よいしょ、と。

T氏:はい。我々人類はそのために、二本の足で立ち上がったのですから。記録映画を観たでしょう。ガンダム大地に立つ、です。

――いえ、しかし、それはあまりにも……

T氏:無様です。ええ、無様です。ですが当時の我々には、手で開く、という道の先にしか、光を見いだせませんでした。かくして手動開閉方式へプロジェクトは舵を切ります。パイロットのマニピュレータ操作は、自動のシールド構えよりも命令系統として上位に設定されていますから、干渉の問題はクリアです。そもそも干渉する部品のほとんどを取り払ったので当たり前なのですが、誰もそれには言及しませんでした。重量の問題もクリアです。なにせ駆動用のアームとレールを足すだけです。多少、シールドの被弾率が低いところの厚みを削って、重量の帳尻を合わせたそうですが。温度についてもクリアです。そもそも温度を考える必要がなくなったのですから。手の空いた制御担当は、シールドを開く構えにこだわりました。彼は徹夜で、最高にカッコいいNT-1アレックスのシールド手開きモーションを書きました。それを見た本体の統合設計担当が、装甲の取り付けを工夫すればさらに関節の可動域が広がり、カッコいいシールド開きができることに気づきました。チームの士気は最高潮でした。私もシミュレーション上だけでしたが、シールドを開くNT-1の姿を目にした時、涙がとめどなく溢れたことをよく覚えています。なんと美しいのだ、我々の仕事がついに実を結んだ、と。このモビルスーツは必ずや歴史に名を残す名機になる、最も強く、最も美しく、最高の戦果を挙げた伝説の機体になると確信しました。ジオンのザクめ、蜂の巣にしてやる! 私の目には、最高にカッコいい動きでシールドを開き、90mmガトリング砲でザクを仕留めるNT-1の姿が、確かに映っていたのです。おそらくプロジェクトメンバー全員の目にも。
 そして数度の試験と強度計算のやり直し程度で、ついに完成したのです。90mmガトリング砲の射線を確保する、シールドの開閉機構が。

――狂気の産物というわけですか。

T氏:と、言うには可愛すぎますね。エリート中のエリートが集まっていたはずの我々が作り上げたものが、最終的にはジムの現地改修試作機と大して変わらないのですから。むしろ劣っています。いや、どうしてこうなるのでしょうね。モノづくりって、本当に不思議です。

――連邦軍の高官の印象はどうだったのでしょうか。

T氏:ありませんでした。

――それは一体……

T氏:90mmガトリング砲は、チョバム・アーマー投棄後の隠し武装として運用する。シールドの開閉? そんなものは不要である。両腕にシールドを装備するわけでもあるまいし、空いた方の腕で撃てばいい。そもそもビーム・ライフルも装備する。テストパイロットへの指導もそのように、とのことでした。

――それを知った時の現場の空気は、どうだったのでしょう。

T氏:私の上司はなぜか得意満面でしたね。ほら、手で開く方式で正解だっただろうと。他全員は、激しい虚無感に苛まれ……しかし多くはそのまま、AE社の技術者として勤務し続けました。当時の仲間と飲むと、いつもあのシールドの話になります。思えば、NT-1のシールド開閉機構は、私たちの青春だったのかもしれません。そしてその青春は、NT-1がジオン軍サイクロプス隊と交戦した時に最後の花を咲かせ、ザクと相討った時に散華しました。結局、テストパイロット……あの赤毛の女の子は、シールド開閉のことを最後まで知らないままでした。

 


兵どもが夢の跡


――しかしその時培われた多くの知見や経験が、後の世に多くを残したのではないでしょうか。

T氏:どうでしょうね。NT-1の後にジム・クゥエルの開発に携わり、TR計画に参加した者などもいますから……あのシールド・ブースターなども、もしかしたら私たちの狂騒の孫娘かもしれません。まあ、今となってはジェガンがありますから、シールドの機能化など当たり前です。私たちのしたことは有意義だった、と思いたいですが……はっきり言います。無意味でしたね。

――可動といえば、昨今話題のRX-0の"変身"については、どのようにご覧になりましたか?

T氏:私の退社後に作られたもので本当によかったです(笑)。

――最後にお伺いします。あなたにとって、プロフェッショナルとは?

T氏:悔いを残さないこと。すなわち私は、アマチュアです。

――ありがとうございました。

 



 宇宙世紀の真実に迫るただひとつのモビルスーツ専門誌 月刊機動戦士では、一緒に働く仲間を募集しています。メディア経験者、特にモビルスーツ産業への取材経験者優遇。ご応募は編集部まで。

 

 

 本記事はフィクションです。また、㈱サンライズ、㈱創通、およびガンダムシリーズとは一切関係ないファンテキストです。

 Special Thanks:武者小路三六丸

 

*1:編注:ジム・ガードカスタムは重力下ではない星一号作戦地球連邦軍によるジオン公国軍の宇宙要塞ア・バオア・クー攻略作戦。同要塞はジオン本国防衛の最後の砦のひとつとされ、一年戦争の中でも類稀な激戦となった)に投入された。

*2:編注2:一年戦争終結当時の階級

39 - スクスト セクハラ 法廷劇 二次創作

 あけましておめでとうございます。新年早々ですが、スクストの二次創作をやっていました。年末年始の貴重な休みを潰して一体自分は何をしていたのか、という虚無感に苛まれながらの作業でありましたが、これもまた人生です。スクストは人生なので。

 

 さて、内容ですが、「人事課長の夜木沼伊緒からセクハラを受けた美山椿芽が」「AI人事〈モシュネ〉が夜木沼の入社後セクハラ事案発生確率を73%と判定したにもかかわらずこれを無視したとして」「澄原弁護士とともに五稜館商事を訴える」というものです。スクスト/セクハラ/法廷劇/二次創作です。

 


Title:未来法廷 セクハラ確率73%の男 

■あらすじ

 創立一〇〇年を誇る技術系巨大商社・五稜館商事。四月から正社員登用された美山椿芽だが、六月に行われた飲み会を境に、人事部の夜木沼課長から悪質なセクハラを受けるようになる。卑猥なLINE、業務に無関係な社内メール、プライベートに関する執拗な質問、肉体的接触、そして度重なるふたりで飲みに行こうという誘い。ついには「美山さんが不倫でもいいからと夜木沼課長に迫った」という事実無根の噂を流され、椿芽は社内で孤立。出社困難に陥ってしまう。会社のハラスメント対策窓口も会社有利の結論ありきで頼りにならなかった。

 見かねた友人のハヅキに連れられて、椿芽は九段下の有久井法律事務所を訪れる。ハヅキと旧知だという弁護士・澄原は、正攻法では原告不利と判断。メールは削除済、スマホはセクハラの恐怖に駆られて水没。物証がなかったのである。そこで澄原は、ある搦手に打って出る。それはAI人事〈モシュネ〉の夜木沼への判定結果を根拠とする、五稜館商事を相手取ったセクシャル・ハラスメント防止措置義務違反訴訟であった。夜木沼は、入社後のセクハラ事案発生確率が、73%とAI人事に判定されていたのである。

 技術の進歩は、企業の義務を拡張しうるのか。迫真の至近未来法廷劇。

 

■人物(登場順)
・美山椿芽
 五稜館商事経理部の女性社員。二六歳。元派遣社員で、四月から正社員登用された。

・夜木沼一生
 五稜館商事人事部の課長。男性、四三歳。家族は妻・夜木沼まな。

・沙島
 五稜館商事経理部の男性社員。脳天気な二五歳。独身。

・不知火ハヅキ
 椿芽の学生時代の先輩。女性、二八歳。コンパニオン。澄原とは旧知の関係。

・末葉
 五稜館商事人事部の男性社員。ハラスメント対策窓口担当。口が重い。

・神無木
 五稜館商事人事部の男性社員。ハラスメント対策窓口担当。口が軽い。

・澄原智史
 有久井法律事務所所属の弁護士。男性、三五歳。冷静沈着かつ大胆不敵な人権派。椿芽の弁護人。

・高嶺アコ
 有久井法律事務所職員。女性、正体不明の二一歳。澄原の雑用係。

・李野田
 澄原と懇意のフォレンジック調査業者の男。怪しげな三〇歳。スレンダーな眼鏡。バイカー。澄原を先輩と呼ぶ。

・杏橋天音
 五稜館商事総務部の女性社員。二九歳。独身。椿芽の職場の先輩。

・盛沢兼雄
 五稜館商事情報システム部門長。AI人事システム〈モシュネ〉の導入を推進した。

・小田切由紀夫
 ITベンチャー企業イリス・テクノロジー社長。男性、四〇歳。独身。AI人事システム〈モシュネ〉の開発リーダー。理想主義な技術屋。

・山吹楓
 被告側弁護人。三六歳、女性。狡猾かつ冷酷無情な企業法務のスペシャリスト。澄原とは大学の同期。

・緋ノ宮
 五稜館商事常務執行役員の男。

■組織
・五稜館商事
 創立一〇〇年を誇る技術系巨大商社。

・有久井法律事務所
 『法は大衆に利せよ』をモットーとする人権派の法律事務所。澄原らが所属する。

・イリス・テクノロジー
 小田切が代表を務めるITベンチャー企業。人事AI〈モシュネ〉を製造・開発・販売する。

 

■Download

A4横組

Google ドライブに飛びます

 

A4縦組

Google ドライブに飛びます

 

■FAQ

Q.これオリジナルでいいのでは?

A.うるせえ(なんでもいいから美山椿芽をひどい目に遭わせたい)

Q.この法廷描写おかしくない?

A.うるせえ(ご指摘頂ければ、基本のプロットを損なわない限りで修正します)

Q.ダウンロードできないんだけど

A.うるせえ(お知らせいただければなんらかの手段で直送します)

 

 それでは、2019年もスクスト2で検索、していきましょう。 


過去のスクストの変な文:

実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編]

実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [中編]

実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [後編]

 

38 - 誕生日にブレンパワード第1話を観る

  私事ですが、11/9は誕生日でした。誕生日。ずいぶん昔のことだから忘れちまったぜ。

 くしくも稀代のクソアニメ、GODZILLA 星を喰う者の封切り日でして、積み上がる仕事を放り出して映画館へ走ったのですが、まあひどかった。クソの言い訳にSFって言葉使うんじゃねえよ。

 そこで帰ってきて口直しにとDVD/BD棚を眺めていたら、ブレンパワードが目についたんです。そして、「俺、17歳になってしまった」という第1話のセリフを思い出し、観ることにしたわけで。特に関係ないですが、習慣的に、クリスマスには必ずジョナサンの刃を観るようにしています。

 

 これが面白い。

 初めてブレンパワードを観たのは確か高校生くらいの、勇と年齢が近い多感な年頃でした。しかし当時の自分には、1話の勇が何を考えているのかさっぱりわからなかったんですよ。一年前に少し話しただけの女とのことを思い出しながら、自分の居場所を丸ごと捨ててしまう姿に、潔さやカッコよさを感じこそすれ、彼の思いの中身が全然想像できなかったんです。

 大学生くらいになると、少し見方が変わりました。彼は一年前に得た一瞬の感情、吹けば消えるような気持ちの中に、嘘のない真実を見ていたのではないかと。そしてその真実を疑い、嘘に満ちた現状を肯定しようとする自分と、一年に渡り葛藤していたのだと理解するようになりました。それでも彼は、自分が見つけた輝きを信じ続けた。信じ続ける強さを持っているのが勇という人間なんだと思いました。

 17歳になってしまった、という言葉に込められた焦燥感も、わかるようになったのは二十歳を過ぎてからでした。そしてわかるようになったからこそ、自分を取り巻く現状から逃げ出すべく走る勇の姿に、ニューシネマ的な、別のカッコよさを感じるようになった。

 でも今にして観ると、もっと違うものに見えてくる。

 勇は、一年前に得た輝きに、一年間ずっと縋り続けていたのではないか。信じ続けていたのではなく。彼は強さゆえに比瑪のことを思い出せたのではなく、弱さゆえに比瑪の思い出に縋っていたのではないか。

 よくよく考えれば、疲れや憂鬱、そして何より孤独によって、人間はどんどんすり減っていくわけで。思い出から得られる力も次第に小さくなっていくわけで。ガス欠になりそうな車を走らせる時、大丈夫お前はまだ走れるとは思わない。お願いだからもう少し走ってくれって縋るもんな。

 競い合うライバルがいて、形ばかりでも肉親がいて、一応気のおけない友人がいても、勇は孤独だったんだなぁ、折れずにいるにはここでないどこかの思い出に縋らずにはいられなかったんだなぁ。

 そうだよな、精神も肉体も会社に合わせて、労働者になるのは辛いもんな…なんか退職届とか出したくなってきたな。こう、1年か2年くらい……あ?大きな定収がついたり消えたりしている。あっはは。大きい!ボーナスかなあ?いや、違う。違うな。ボーナスはもっと…バァーッって動くもんな。暑っ苦しいなあ、ここ。出られないのかな?おーい、出してくださいよ、ねえ!

 

 そんなことを考えてしんみりしていたら、だんだん星を喰う者への腹立たしさも紛れてきたような気がします。一応ビンタしてたしモスラも八面六臂の大活躍したし…

37 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [後編]

『実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名)[後編] 夫に知られて、狂言妊娠、そして……』
週刊月宿女性フィフス2018年3月第3週号(ゲッシュク・ガゼット増刊)

 

 不倫の引力に囚われた当事者の女性にお話を伺う3回連載の最終回。G学園の卒業生で、清楚で生真面目な女性だったツバメさん(28歳・仮名)は、夫の暴力への悩みから、街で偶然再会した元同級生、タカハシさんとの禁断の関係に溺れてしまいます。愛を求める永遠のさすらい……その姿は男と女。果たしてツバメさんの許されざる思いは、どんな結末を迎えるのでしょう。

[前編]はこちら

[中編]はこちら

 


終わりは呆気なく……


――旦那さんとの夜の関係は?

ツバメ(以下T):続いていましたよ。ほとんど、作業みたいな感じで。少しも愛のないセックスって、なんだか滑稽なんです。カエルみたいに足を開いて、犬みたいに這いつくばって、猿みたいに腰を振って。私あの時、夫のことを見下していました。行為自体は気持ち悪さしかなかったんですけど、夫が私のことに何も気づいていないという優越感だけは、とても気持ちよかったです。

――旦那さんに浮気を知られたのは?

T:彼と……タカハシくんと再会して、ちょうど一年くらい経った、冬の日のことでした。あの日も日曜日で、夫は朝から外出していました。私は、タカハシくんを家に呼んだんです。

――それは……迂闊ではないですか?

T:そうですね(笑)

――どうしてですか?

T:彼が、その……私の手料理を食べたいって、言ってくれたんです。私、料理がすごく苦手だったんです。結婚してからは頑張って練習もしたんですけど、全然上達しなくて。夫はいつも、私の料理を食べると、笑うんです。「吉野家の方がマシだな」って。下手だってわかっていたんですけど、言われる度に傷ついて……。そのことを彼に話しても、全然信じてくれないんです。真面目でなんでもそつなくこなす奥さんに見えてたらしくて、全然そんなことないのに、吉野家なんてひどいって、まるで自分のことみたいに怒って……。下手なのは本当なの、って何度言っても信じてくれなくて、じゃあ、って話になって、それで。

――その日は、何を作ったんですか?

T:タンシチューです。

――タンシチュー?

T:はい。学生の時に、料理の上手な友達がいて、彼女に教わったんです。その時以来、作ったことなかったんですけど、特別な日だから頑張りたくて。おいしい、って言ってもらいたかったんです。彼に。それで夜中に、ぐっすり寝ている夫を起こさないように起きて、仕込みして、翌朝夫が出かけてすぐに煮込み始めました。
呼び鈴が鳴った時は、なんだか夢の中にいるようでした。お鍋の様子を見ながら彼の帰りを待って、エプロンを着けたまま手を拭きつつ、扉を開けて彼を出迎えるんです。そういう生活に憧れていた自分に気づきました。
彼が持ってきてくれた赤ワインで乾杯して、私たちは食卓を囲みました。シチューは少し塩気が強かったけど、抜群の出来栄えでした。彼はすごく美味しいって言って笑って、嘘つきだって私をからかって、それから寝室で……。

――彼とセックスした?

T:はい。彼に抱かれながら、今が夜ならいいのに、って思いました。でも日曜日の昼下がりでした。玄関から、扉が乱暴に引かれる音がして、私は我に返りました。凍りついている間に鍵が回って、扉が開いて、下の階に響きそうないつもの足音がして……夫が。

――修羅場ですね。

T:全くその通りでした。私は夫にしがみついて、何度も何度も私が悪いの、ごめんなさいって叫びました。タカハシくんはしばらく唖然としてから、服を着て、私たちを交互に見て、黙って帰りました。夫は彼を追いもせず、私を怒鳴りつけ、叩きました。まだ半分残っていたお鍋がひっくり返されて、片付けてもいなかった食器が部屋中に散乱しました。落ち着いて話ができるようになった時には、もう日は暮れていました。

――タカハシさんは、弁解も言い訳もしなかったのですか?

T:たぶん、夫が姿を見せたあの瞬間に、彼にとって私はどうでもいい存在になってしまったのだと思います。でも私にとっての彼は、そうじゃなかったんです。

――彼は逃げたのではないですか?

T:……そうかもしれません。

 


「あなたの子供がいるの」私の告白に彼は……


――その後、旦那さんとは?

T:ひと悶着ありましたが、離婚が成立しました。

――円満離婚とはいかないと思いますが。

T:そうですね。夫は私に慰謝料を求めました。離婚の原因は私の浮気、多大な精神的苦痛に対し、金銭をもって報いるべき、というのがその理屈でした。夫の代理人の口から、暴力については一切語られませんでした。ですが私も、黙って慰謝料を払いたくはありませんでした。暴力の証拠があったんです。

――証拠?

T:あの時……夫に私の浮気が知られた時、拳を振り上げる夫を見て、私は咄嗟に、スマホのカメラで動画を撮ったんです。私を叩く夫の姿が、そこにははっきり映っていました。以前、夫の暴力について、法律に詳しい友達に相談したことがあったんです。彼女が「あー……その手は証拠となるものがないと泣き寝入りですよ」と教えてくれて、それで咄嗟に身体が動きました。夫は頭に血が昇っていたんでしょう、気づいていませんでした。
夫の代理人は、それは一時の感情によるもので、日常的な暴力を示すものではないと言いました。ですが、通院記録もありましたし、薬局で湿布や絆創膏を買った時の領収書も保管していました。ちゃんと管理しないとやりくりできなかったので。

――法廷闘争にはならず?

T:幸い。夫の日常的な暴力と、私の浮気で双方に原因があるということで、両者とも慰謝料の請求権を放棄するという覚書を取り交わしました。

――タカハシさんとは?

T:彼の方から連絡はありませんでした。私の方から何度も、何度も、電話やLINEをして……それでも会ってくれませんでした。でも、奥さんに話しますよ、と言ったら、渋々という様子で、彼は呼び出しに応じてくれました。離婚調停のため、法律事務所に通っていた頃のことでした。

――忘れて、新しい生活を始めた方がよかったのでは?

T:忘れられるわけないじゃないですか。

――……申し訳ありません。

T:いえ、いいんです。私は、彼のことを愛していました。彼が私に望むものと、私が彼に望むものが違っていたとしても、彼と一緒にいたかった。そのためならどんなことでもするつもりでした。でも、ようやく会ってくれた彼は、素っ気なかったです。これまで一緒に過ごした時間が全部消えてしまったかのように。だから私、彼にこう言ったんです。「あなたの子供がいるの」って。

――妊娠していたんですか?

T:嘘です。でも、そう言えば、彼はまた私のことを考えてくれると思いました。「奥さんと別れてほしい」とも言いました。
待ち合わせた場所は、彼と再会した日に立ち寄った喫茶店でした。彼はやっぱり私に奥の席を勧めて、椅子を引いて、コートを受け取ってくれました。あの時と同じでした。形だけの優しさでした。それでも私は期待しました。彼が私に形のないものもくれるんじゃないかって。でも彼はこう応じました。「いくら必要?」って。

――人生を共にするつもりはなかったんですね。初めから。

T:私、悔しかったです。この人の人生を滅茶苦茶にしてやりたいと思いました。私の心を滅茶苦茶にしたように、この人のことも滅茶苦茶にしたいと思いました。お金なんかいらないの、って怒鳴りました。私は、私が彼と一緒にいてどんなに嬉しかったかを一気に話しました。でもひとつ話すたびに、その思い出が凍りついて崩れていくのを感じました。話し終えた頃には、私たちはもう、元同級生なだけの、他人同士でした。

――復讐は考えませんでしたか?

T:会うまでは、ずっと考えていました。家の近所にビラをまいてやろうとか、会社に電話をかけまくってやろうとか、奥さんに他人のふりして近づいてみようとか、ずっと考えていました。でもしませんでした。彼は、別に私に何かを隠していたわけじゃなかったんです。奥さんがいることも子供がいることも、何も隠さずに私と関係していました。それってつまり、身体だけの関係だっていう、彼の意思表示だったんです。私が勘違い……いえ、私が勝手に、これは愛だと自分に言い聞かせていただけだったんです。

 


熱情の終わり……残されたものは?


――お金は受け取ったんですか?

T:いいえ。代わりに、別れ際に、プレゼントを渡されました。品のいいトパーズのネックレスでした。もらえないよと言ったのですが、彼は頑なでした。どうして、と訊くと、あの時渡すつもりだった、って言うんです。私が彼を家に招いた日です。もう一度どうして、と訊くと、彼は困った顔で、「少し早いけど、誕生日プレゼントのつもりだった」って言いました。あの日曜日の翌週が、私の誕生日だったんです。

――誕生石ですね。

T:そんなふうに言われたら、返せなくって……だって私、忘れてたんです。もう何年も、誰も祝ってくれなかったから。自分のことなんか、気にしていられなくて……。

――そのネックレスは?

T:今も着けています。

――最後にお訊きします。彼との不倫を後悔していますか?

T:いいえ。

――今後は、新しい恋愛を?

T:まだ、気持ちの整理がつかないんですが……今夜、久し振りに昔の友達と会う約束をしているんです。私が離婚したってどこかから聞きつけたらしくて、みんな忙しいのに集まってくれて。みんなすごい子たちなんですよ。オリンピック選手だったり、探偵事務所を開いてたり、なぜか三日前までカトマンズにいて音信不通だったり……普通の家庭を築いていたり。たくさん、話してこようと思います。

――ありがとうございました。

 

[了]

 

※本誌ではあなたの不倫体験談を募集しています。ご応募は週刊月宿女性フィフス編集部または公式ツイッターまで、どしどしお寄せください。

 



35 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編] - baby portable log

36 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [中編] - baby portable log

 

※本記事はフィクションです。また、㈱スクウェア・エニックスおよびゲームアプリ『スクールガールストライカーズ』とは一切関係ないファンテキストです。

36 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名)[中編]

『実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名)[中編] 心がほしい私と、身体がほしい彼――甘い共犯関係』
週刊月宿女性フィフス 2018年3月第2週号(ゲッシュク・ガゼット増刊)

 不倫をしていた当事者の方にお話を伺う3回連載の第2回。G学園の卒業生で、夫の暴力に悩んでいたツバメさん(28歳・仮名)は、街で偶然再会した中学時代の同級生、タカハシさんと逢瀬を重ね、ついに一線を超えてしまいます。許されざる関係はどこへ向かうのでしょう……。

[前編]はこちら

 


日曜日だけの恋人……「まるで普通の幸せな家庭みたいで」


――旦那さんとの性生活に不満があったのでしょうか。

ツバメ(以下T):……わかりません。でも、タカハシくんのセックスと夫のセックスは明らかに違いました。夫とする時、私はずっと我慢するんです。気持ちよさがないわけではないですが、決して、求めてするものではなくて。夫は、きっと私が自分とのセックスに慣れたと思っているのでしょうけど、私は夫が怒らないように、感じているように振る舞うことが上手くなっただけでした。

――それは不満、ではないですか?

T:そうかもしれません。でも、セックスってそういうものだと思っていたんです。触られることを喜ぶような仕草、要するに、あなたとのセックスが好きなんです、っていうポーズを示す、演舞みたいなものだと感じていました。でも……

――彼とのセックスは違った?

T:はい。

――どんなところが?

T:気持ちよかったんです。彼の手が私に触れて、私の手が彼に触れる。触ってはいけないところに触らせることがこんなにドキドキすることだなんて、知りませんでした。もっと触れてほしい、触れてくれる彼に触れたい、気持ちよくしてあげたいと思えました。気持ちいいと、声って本当に出るんですよ。初めて自分のあえぎ声を聴いた時、私、「幸せだ」って思ったんです。

――彼とは、その……どれくらいのペースで?

T:本当は毎日だってしたかったです。でも、バレたらいけないからって、月に1~2度、決まって日曜日でした。

――日曜ですか。そういうのは、平日のイメージがありました。

T:奥さんが……まだお子さんが小さくて、土曜日の夜から日曜日の夕方まで、いつもお子さんを連れて実家に帰っていたんです。それに私も、夫が土日に家を空けることが多くて。

――それもまた意外です。

T:競馬の……GI? っていうんですか? 大きいレースがあるからって言って、朝から競馬場に行ってしまうんです。

――なるほど。

T:それで、私も、昼間から彼に逢っていました。日曜日のお昼に腕を組んで歩いていると、まるで普通の幸せな家庭みたいで……。私、それがすごく嬉しかったんです。夫がいつも、私を1人にする日曜日に……。

 


「制服でしたい」拒めない私……もう戻れない


T:その年の7月から9月は、競馬の大きなレースがなかったんです。

――じゃあ、彼とも。

T:はい。でも連絡は取り続けていました。夫に見られてもいいように女友達の名前をつけて。でも、逢えなかった間に、彼の連絡は段々……その、露骨になっていって。普通の世間話だったものが、抱きたいとか、気持ちよさそうな声が早く聞きたいとか、もっと露骨な言葉が並ぶようになりました。見られたら終わりでした。でも私、やめてって言えなかったんです。

――どうしてですか?

T:彼に求められるのが嬉しかったから。今にして思えば、あの頃から、私は彼が私と同じものを求めているわけじゃないって、わかってたんです。でも嬉しくて、あんな気持ちは初めてだったから、私はスマホが通知を鳴らす度に飛びついて、彼じゃないとがっかりして……。

――戻れないと感じた出来事が、その頃にあったと伺いましたが。

T:はい。9月のあたま頃でした。月末に大きなレースがあって、夫は当たりもしない研究に夢中になっていました。そんなある日、彼からいつものように連絡があって……「制服でしたい」って書いてあったんです。学生時代の。

――中学の同級生でしたね。

T:でもさすがに、中学の制服は入らないよと応じたら、じゃあ高校の、と……。私、G学園の卒業生なんですけど、あそこの制服、可愛いって評判で。私も卒業したとき、なんだか勿体ない気がして、捨てずに取っておいたんです。結局、実家のクローゼットに入れっぱなしだったんですけど……。

――取りに帰ったんですか?

T:はい。母親に呼ばれたって、嘘ついて。夫は怒りました。私、両親に彼をちゃんと紹介していなかったんです。夫が嫌がったので。結婚してからも、私が実家の両親のことを仄めかすと、夫は怒りました。

――ちゃんとした男じゃない自分へのコンプレックスがあったのでしょう、旦那さんにも。

T:そうかもしれません。でも、私だってそんな夫をバカだと笑えません。だって私、不倫相手とそれを着てセックスするために、実家に高校時代の制服を取りに帰ったんですよ。もう10年近く着ていないのに。笑いますよね、バカな女だって。

――……いえ。

T:私、したくてしたくてたまらなかったんです。抱かれたかったんです。彼に。

 


三ヶ月ぶりの逢瀬……満たされてしまう心


――久し振りに逢った彼は?

T:顔を見た瞬間から、胸が高鳴ってしまって……ほとんど覚えていません。

――それで、ホテルへ?

T:はい。いつもより大きいバッグに制服を入れて、スカートがシワにならないといいなあ、なんて思いながら彼と腕を組んで、もう5回は使っていたホテルに入りました。

――制服は……その、着られましたか?

T:幸い、大丈夫でした(笑) でも、制服のスカートって、あんなに短いんですね。少し揺れたら見えてしまいそうで、自分がこんなものを着ていたのが信じられませんでした。

――彼の反応は?

T:あれの方もすごかったんですけど……彼、「可愛い」って言ってくれました。いつもは「綺麗だよ」なのに。それで、ああ、頑張って着てよかったって、思ってしまって。結局器用に、着たまましました。それで、私……その時に、気づかされてしまったことがあって。

――気づかされた?

T:私は高校時代の制服を着ていて、彼のものが入ってきて、自分の口から、自分じゃないような息が漏れて。馬鹿なことをしている自覚はありました。でも言われるがまま、されるがままの自分がすごく、気持ちよかった。私、彼にしがみついて「好き、好き、好き」ってうわ言みたいに言ってました。あの時、私の心は彼のものでした。満たされていて、生きてきた中で一番感じて……。入れられながら、ああ、私はこの人のことが好きなんだ、って気づいたんです。

でも、頭のどこかではわかっていたんです。

――わかっていた、とは?

T:私と彼が同じように満たされているわけではない、ということです。彼にとって、私はただの、バカな女でした。言われるがままに制服を着て、AV女優みたいにあえぐ、月に1回日曜日にセックスできる都合のいい女でした。私は、私の心が彼のものになったつもりでした。でも彼にとっては、私の身体が彼のものになっただけだったんです。きっと。

――そうでしょうか。

T:彼、「僕も好きだよ」とは言ってくれなかったんです。それでも、私はその共犯関係に夢中になりました。

 ――共犯?

T:私は心がほしいだけ。彼は身体がほしいだけ。それって、利害が一致した、共犯者みたいだと思いませんか?

 

 



35 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編] - baby portable log

『[後編]上辺だけでも愛されたかった――夫に知られて、狂言妊娠、そして……』は週刊月宿女性フィフス 2018年3月第3週号掲載予定

 

 

※本記事はフィクションです。また、㈱スクウェア・エニックスおよびゲームアプリ『スクールガールストライカーズ』とは一切関係ないファンテキストです。

35 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編]

『実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編] 同級生との再会、そして……』

週間月宿女性フィフス 2018年3月第1週号(ゲッシュク・ガゼット増刊)

 芸能界でも多くの不倫が報じられる昨今。身近なところでも話を聞いて驚きますよね。今回は3回連載で、不倫をしていた当事者の方にお話を伺いました。第1回は、月宿町在住のツバメさん(28歳・仮名)。都心の一等地に広大な敷地を持つ新興校・G学園の卒業生である彼女は、いかにも清楚で生真面目な佇まい。記者の私見ですが、不倫に走る人妻とは真逆の雰囲気を持つ女性でした。

 


繰り返される夫の暴力『風俗で稼げ』


 ――こんにちは。まずは自己紹介からお願いします。

ツバメ(以下T):はい。ミヤマ・ツバメと申します。よろしくお願いいたします。あの、ヘンなところないですか?

――いえ。もっとリラックスしてください。

T:すみません。私、あがり症で、学生時代も友達によくイジられてて……

――不倫のきっかけを教えていただけますか。昔の同級生だったと伺いましたが。

T:はい。当時私は、夫からの暴力に悩んでいました。夫とは大学時代に出会ったのですが、当時から金銭的に……女性関係にもだらしないところがある人で。付き合っているといっても、彼が私の部屋に居着いているような状態でした。他の女の人との噂も絶えなくて。
でも、結婚してほしいと言われた時は、嬉しかったです。これでマジメになってくれる、なんて思っていました。典型的な、ダメ男にハマる女ですよね、私。

――でも結婚後も相変わらずだった?

T:そうでもないですよ。長続きしなくても仕事はしていましたし、結婚してからは、他の女の人との噂はぱったりと途絶えました。ですが、その代わりに……。

――暴力を振るうようになった。

T:はい。昔から、冗談めかして私を叩いたり、私が口答えすると大声で怒鳴ったりする人でした。でも結婚して二年ほど経った頃から、突き飛ばされたり肩をグーで殴られることが増えてきました。決まって仕事やお金や、その……赤ちゃんの話をした時でした。

――咎められているように思ったんでしょう。

T:今にして思えば、私は、愛してくれているという実感がほしかったんです。将来のことを考えてくれてるっていう証じゃないですか。別に他人に自慢できる生活がしたいとか、贅沢したいとか、そういう気持ちじゃないんです。でも彼はそう思ってくれなくて……。

――夫からの暴力に違和感は持ちませんでしたか?

T:違和感ですか……? 当時は、男の人ってこういうものだ、私が我慢しなきゃいけないんだって思ってました。これが普通なんだ、DVとかそういうのじゃないんだって、自分に言い聞かせてました。

――当時、生活費はどちらが?

T:大半は私でした。夫はお酒と、競馬に凝るようになって……馬券代は自営業者の経費になるんだ、なんて言うんです。おかしいですよね。でもお金を渡さなければ夫は凄み、私を叩きました。お金を渡しても、私の内心にある不満を見抜いていたんでしょう。金のことばかり考えている、さもしい、卑しい、そんなにお金がほしいなら、風俗でもなんでもやって稼いでくればいいだろって。そんな時でした。彼に再会したのは。

 


私を旧姓で呼ぶ元同級生


T:彼の実家からのお歳暮のお返しに、デパートに行った帰り道でした。かっちりしたスーツの男性に声をかけられたんです。最初は何かのセールスかなって思ったんですけど、その人私を「ミヤマさん」って呼んだんです。私の旧姓です。それで思い出しました。

――それが不倫相手の?

T:はい。タカハシ(28歳・仮名)くんでした。中学生の頃の同級生だったんですけど、数回しか話したことがなくて。私、男の子が苦手だったんです。それで高校からは、女子校のG学園に進みました。

――タカハシさんとは、中学以来その時が初めて?

T:一度だけ、成人式の時に。その後の同窓会で連絡先を交換して……。実は私、彼に結婚式の招待状を送っていたんです。

――そんなに親しいという印象は受けませんが……

T:あの、私、友達が多いタイプではなくて……。夫が10人に招待状送れって言ったんですけど、どうしても9人しか当てがなかったんです。それで、彼のことを思い出して、送りました。断られちゃったんですけどね。

――再会した彼とは?

T:その時は喫茶店で少し話しました。式への招待のことで、私は少し気まずかったのですが……彼の方から「結婚式、行けなくてごめんね。仕事が忙しくて」と。そんなふうに謝ってくれるのが申し訳なくて、迷惑かけたのは私なのに。すると彼は、仕事が忙しかったのは嘘だ、って言うんです。

――ではどうして?

T:「ミヤマさんの花嫁姿を見るのは悔しいから」って言いました。その時はやめてよって誤魔化したんですけど……私、それがすごく嬉しくて。舞い上がっちゃったんです。

 


「男の人に口説かれたことってなかったんです」


――意外です。失礼ですが、とてもおきれいですから、慣れてらっしゃるんじゃないかと。

T:そんなことないです! むしろ真逆ですよ。私、男の人に口説かれたことってなかったんです。学生時代も剣道ばかりで、そういうこととは縁遠くて。カタいって思われがちなのを、なんとかしたかったんですけど……。

――では、旦那さんが?

T:初めての相手でした。だから私への扱いも、それが普通だって思い込んでました。でも、タカハシくんは違ったんです。

――それから何度かふたりで会われたんですか?

T:はい。昔の、がさつな中学生の彼しか知らなかったので、会うたび驚きの連続でした。最初の喫茶店でも、私が座る前に椅子を引いてくれました。脱いだコートを背中から着せてくれるとか、私の履いているものに合わせて、お座敷のお店やテーブルのお店を選んでくれたり……そういう何気ない優しさが、嬉しくて。彼にとっては、社交辞令の優しさだったんだと思います。でもそれは、夫との生活では決して得られないものでした。大事に扱われているという、愛されているという実感、でしょうか。

――それで一線を超えてしまった、と。

T:四度目か、五度目に会った時だったと思います。ホテルに誘ったのは私の方からでした。

 

 



『[中編]心がほしい私と、身体がほしい彼――甘い共犯関係』は月宿女性フィフス 2018年3月第2週号掲載予定
『[後編]上辺だけでも愛されたかった――夫に知られて、狂言妊娠、そして……』は月宿女性フィフス 2018年3月第3週号掲載予定

 

 

※本記事はフィクションです。また、㈱スクウェア・エニックスおよびゲームアプリ『スクールガールストライカーズ』とは一切関係ないファンテキストです。

34 - やれたかも委員会「オーバースキルを使いたかった、あの夜」

○謎の会議室

 三人の男女が並ぶ前に立つ、メガネの男。

T「犠星塾 塾長 能島明」

 能島、腕を組み無表情。

T「ミュージシャン パラディソ」

 Macbookリボルテックヤマグチ新作を検索。

T「財団法人ミックステープ代表 月満子」

 スマホ氷食症について検索。

 スマホを置き、メガネを直す。

T「機械設計エンジニア 高橋矢尻」

高橋「当時私は大学生でしたが、留年中でした」

高橋「ですから、暇に任せてアルバイトをしていました。書店とレンタルビデオ店が一体になった大型店舗の、書店フロアの方です」

 

○書店

 品出しする高橋。書店の制服。

 マイナー漫画の棚を丁寧に整理する。

高橋「そこで意気投合したオタク友達がいたんです」

 隣に現れる、同じ制服姿で、高橋と同じ漫画を手ににやりと笑う男。

高橋「斎藤という男でした。品出し後から夕方までの朝番シフトに入れる若い男ですから、まあなんというか、スネに傷があるタイプでして。彼も大学を休学中で、時間が有り余っている、端的に言ってクズでオタクな大学生でした。私と同じように」

 

○居酒屋

 盛り上がる酒席の隅。周りから背を背けるような高橋と斎藤。

高橋「バイト先の飲み会でも、私たちは他のバイトらから離れて、アニメの話ばかりしていました」

 

高橋(昔)「桂ヒナギクいいよね…」

斎藤「ナギ様派なんだよな…」

高橋(昔)「くぎゅか、わかるよ」

斎藤「そういうお前は御前」

高橋(昔)「ふ、ふふ…」

斎藤「ふふふ…」

 

高橋「私たちは、ウマが合っていました。今思えば、リア充、今で言えばパリピでしょうか、彼らに紛れてバイトなんて、結構無理があった。私たちは互いに無理をしていて、だからこそ戦友を見つけたような気持ちでいたんです」

高橋「でも、そんな私たちの安心な関係に、いつも割り込んでくる女性がいました」

高橋「カオリさんといいました。さらりとしてロングの、深い茶色の髪が印象的な、やたら美人な先輩でした。年齢は私たちより、ひとつかふたつ上だったでしょうか」

 

 高橋の隣に座るカオリ。

カオリ「あ、それ、日曜の朝にやってるアニメでしょ。あたし観てるよ~」

高橋(昔)「そ、そですか」

斎藤「ニチアサです…」

カオリ「ギャグのテンポが天才的じゃない? 朝から腹痛くなるっつーの。ね?」

高橋(昔)「…」

斎藤「…はい」

 うつむく斎藤と高橋。

 

高橋「今にして思えば、もう少し上手い話し方があった。でもあの時の私たちにとって、カオリさんは『向こう側』の人でした。斎藤と話している時のような安心は、カオリさんでは絶対に得られなかった。気さくな年上の、やたら美人な先輩が私たちに何を求めているのかもわからなかった。カオリさんが来ると、私たちは言葉少なに、とっくに冷めた揚げ物に箸をつけ、薄まった飲み物に口をつけました。」

高橋「それでもカオリさんは楽しげでした」

 

カオリ「あたしも結構アニメとか観るんだよね~。でも、あんま話できる友達いなくてさ」

高橋(昔)「そうなんですか…」

斎藤「…」

カオリ「二次会、行くよね?」

 カオリ、頬杖をついて笑顔。

 

カラオケボックス

高橋「二次会は決まってカラオケで、斎藤と私は決まってキングゲイナー・オーバー!を歌っていました。キーが高くて声量が要る歌です。ふたりで歌うとちょうどよかったんです」

 

高橋(昔)「こもるだけでは何ができると いじける俺に教えてくれた」

斎藤「君と出会って 胸をあわせば命が」

高橋(昔)「メタルファイヤー…」

斎藤「燃えてきた…」

高橋(昔)・斎藤「メタルフゥゥーーーーールコォーート!!!」

 モンキーダンスを踊る高橋と斎藤。

 足を組んで微笑みつつそのさまを見ているカオリ。

 

高橋「バイト先は人数が多くて、カラオケに行くと部屋がいくつかに別れました。ですがカオリ先輩は、いつも私たちと同じ部屋にいました。やたら美人な先輩が、なぜかいつも、同じ部屋に」

高橋「そんなことが数回続きました。飲み会。アニメや漫画。割り込んでくるカオリ先輩。カラオケ。キングゲイナー・オーバー!。あの頃流行っていたものの話ばかりでした。ひぐらしとか、東方とか、ハルヒとか、らき☆すたとか。斎藤は結構な東方厨で、十六夜咲夜のアクキーなんかカバンにつけていました。カオリ先輩はそれを見ると、『あ~、咲夜じゃ~ん!』とか言うわけです」

高橋「嫌だな、と思いました。だから俺と斎藤だけがよかったのに、とも思いました。私には東方がわからなかったんですよ」

高橋「そんな冬のある日の飲み会でした」

高橋「斎藤が欠席したんです」

 能島、激しく影の差した無表情のアップ。

 

○居酒屋

 居心地悪そうな高橋(昔)。正面に座るカオリ。

カオリ「高橋くんって、あんまり話さない人?」

高橋(昔)「そんなことないです…」

カオリ「あるよ~。今日だって、斎藤くんといる時の半分も喋ってないし」

高橋(昔)「そんなことないです…」

カオリ「二次会、行くよね?」

 

カラオケボックス

 やはり居心地悪そうな高橋(昔)。正面に座るカオリ。

 他のメンバーが歌っている。広瀬香美の『ゲレンデがとけるほど恋したい』。

 ウーロン茶を飲む高橋(昔)。

 

高橋「その夜の私は、『早く帰りたい』以外のことを考えていませんでした」

高橋「ですがそのカラオケボックスで、私にとっての大事件が起こりました」 

 

 曲を入れると席を立ち、高橋の隣に座るカオリ。

 両手にマイクが一本ずつ。カオリは一方を高橋(昔)に渡す。

 入った曲は『キングゲイナー・オーバー!』。

 カオリ、にやりと笑って親指を立てる。

 

高橋「初めてでした。異性とふたりで同じ曲を歌うの」

高橋「オーバーヒートでした。ツンドラを溶かすような」

 

カオリ「愛と勇気は言葉!」

高橋(昔)「感じられれば力!!」

カオリ・高橋(昔)「メタル・オーバーマン キングゲイナー!!!」

 

○路上

バイト仲間たち「お疲れ様っした~!」

 

高橋「会場がバイト先に近かったので、何人かはまとまって、夜シフトの連中がいる店に行こうとか騒いでいました。私は終電が近くて、すぐに帰るつもりでした」

高橋「カオリ先輩が私を呼び止めました」

 

カオリ「高橋くん、電車?」

高橋(昔)「はい…」

カオリ「あたしこのへんなんだ~。いいっしょ」

高橋(昔)「ははは…」

カオリ「斎藤くんいなくて残念だったね。なんか居心地悪そうだったし」

高橋(昔)「そ、そですね。……あっ、今度はCan you feel my soul歌おうぜって言ってたんですよ。斎藤と。俺、エンディングの方も好きで、むしろエンディングの方が、ニコニコとかでは、オープニングの方ばっか人気ですけど…」

カオリ「お前ら絶対本編観てねーだろってね」

高橋(昔)「そう! 絶対観てないっすよね、ああいう奴ら!」

カオリ「いいよね~。告白シーンとかめっちゃ好きだし」

高橋(昔)「いいですよね」

カオリ「言われてみたいな~、ああいうの」

高橋(昔)「え?」

 高橋(昔)、顔を上げる。

 カオリ、ぼぅっと上を見ていた目線が下がり、高橋を見る。

カオリ「キミなんか似てるな~、ゲイナーに。メガネだし」

カオリ「言ってみてよ~、ほらほらぁ」

 

○謎の会議室

高橋「私は…何も言えませんでした。笑ってごまかすばっかりで」

高橋「……」

高橋「もしも私に、あの時、ゲイナー・サンガのような度胸があれば」

高橋「笑われてもいいから大声で告白して見せるような勇気があれば、あるいは…」

 

能島「!!……【やれた】」

能島、壮絶な表情。

 

パラディソ「……【やれた】」

パラディソ、サングラスの下に沈痛な眼差し。

 

満子「……【やれたとは言えない】」

満子、メガネに手を添え、表情は見えない。

 

パラディソ「【やれた】【やれた】【やれたとは言えない】」

パラディソ「【やれた】2票ということで、高橋矢尻さんのお話…【やれた】と認定いたします」

 一同拍手。

 浮かない表情の高橋。

 高橋、天を仰ぐ。

高橋「やれたか…」

能島「凍りついた大地を溶かす、一筋のやれたかも」

能島「ツンドラの上にだけ咲く、花があります。大切にしてください」

高橋「…ありがとうございました」

 釈然としない表情の満子。

 高橋、それに気づく。

高橋「あの、月さんは、どうして……」

満子「……レンタル、しませんかね」

高橋「レンタル?」

満子「バイト先のレンタルビデオ店がすぐそばだった。だったら、そのアニメを借りて、一緒に観ようと誘うんじゃないでしょうか。カオリさんの家は近いんですよね」

高橋「……!」

 高橋、目を瞬かせる。

高橋「で、でも、ならどうしてカオリさんはあんな…」

満子「したかったんじゃないでしょうか」

高橋「したかった?」

満子「アニメの話」

高橋「……はい?」

満子「アニメの話、したかったんじゃないでしょうか」

 

[了]

 

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本記事は創作です。また、吉田貴司さんの「やれたかも委員会」とは何の関係もないファンテキストです。