38 - 誕生日にブレンパワード第1話を観る

  私事ですが、11/9は誕生日でした。誕生日。ずいぶん昔のことだから忘れちまったぜ。

 くしくも稀代のクソアニメ、GODZILLA 星を喰う者の封切り日でして、積み上がる仕事を放り出して映画館へ走ったのですが、まあひどかった。クソの言い訳にSFって言葉使うんじゃねえよ。

 そこで帰ってきて口直しにとDVD/BD棚を眺めていたら、ブレンパワードが目についたんです。そして、「俺、17歳になってしまった」という第1話のセリフを思い出し、観ることにしたわけで。特に関係ないですが、習慣的に、クリスマスには必ずジョナサンの刃を観るようにしています。

 

 これが面白い。

 初めてブレンパワードを観たのは確か高校生くらいの、勇と年齢が近い多感な年頃でした。しかし当時の自分には、1話の勇が何を考えているのかさっぱりわからなかったんですよ。一年前に少し話しただけの女とのことを思い出しながら、自分の居場所を丸ごと捨ててしまう姿に、潔さやカッコよさを感じこそすれ、彼の思いの中身が全然想像できなかったんです。

 大学生くらいになると、少し見方が変わりました。彼は一年前に得た一瞬の感情、吹けば消えるような気持ちの中に、嘘のない真実を見ていたのではないかと。そしてその真実を疑い、嘘に満ちた現状を肯定しようとする自分と、一年に渡り葛藤していたのだと理解するようになりました。それでも彼は、自分が見つけた輝きを信じ続けた。信じ続ける強さを持っているのが勇という人間なんだと思いました。

 17歳になってしまった、という言葉に込められた焦燥感も、わかるようになったのは二十歳を過ぎてからでした。そしてわかるようになったからこそ、自分を取り巻く現状から逃げ出すべく走る勇の姿に、ニューシネマ的な、別のカッコよさを感じるようになった。

 でも今にして観ると、もっと違うものに見えてくる。

 勇は、一年前に得た輝きに、一年間ずっと縋り続けていたのではないか。信じ続けていたのではなく。彼は強さゆえに比瑪のことを思い出せたのではなく、弱さゆえに比瑪の思い出に縋っていたのではないか。

 よくよく考えれば、疲れや憂鬱、そして何より孤独によって、人間はどんどんすり減っていくわけで。思い出から得られる力も次第に小さくなっていくわけで。ガス欠になりそうな車を走らせる時、大丈夫お前はまだ走れるとは思わない。お願いだからもう少し走ってくれって縋るもんな。

 競い合うライバルがいて、形ばかりでも肉親がいて、一応気のおけない友人がいても、勇は孤独だったんだなぁ、折れずにいるにはここでないどこかの思い出に縋らずにはいられなかったんだなぁ。

 そうだよな、精神も肉体も会社に合わせて、労働者になるのは辛いもんな…なんか退職届とか出したくなってきたな。こう、1年か2年くらい……あ?大きな定収がついたり消えたりしている。あっはは。大きい!ボーナスかなあ?いや、違う。違うな。ボーナスはもっと…バァーッって動くもんな。暑っ苦しいなあ、ここ。出られないのかな?おーい、出してくださいよ、ねえ!

 

 そんなことを考えてしんみりしていたら、だんだん星を喰う者への腹立たしさも紛れてきたような気がします。一応ビンタしてたしモスラも八面六臂の大活躍したし…

37 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [後編]

『実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名)[後編] 夫に知られて、狂言妊娠、そして……』
週刊月宿女性フィフス2018年3月第3週号(ゲッシュク・ガゼット増刊)

 

 不倫の引力に囚われた当事者の女性にお話を伺う3回連載の最終回。G学園の卒業生で、清楚で生真面目な女性だったツバメさん(28歳・仮名)は、夫の暴力への悩みから、街で偶然再会した元同級生、タカハシさんとの禁断の関係に溺れてしまいます。愛を求める永遠のさすらい……その姿は男と女。果たしてツバメさんの許されざる思いは、どんな結末を迎えるのでしょう。

[前編]はこちら

[中編]はこちら

 


終わりは呆気なく……


――旦那さんとの夜の関係は?

ツバメ(以下T):続いていましたよ。ほとんど、作業みたいな感じで。少しも愛のないセックスって、なんだか滑稽なんです。カエルみたいに足を開いて、犬みたいに這いつくばって、猿みたいに腰を振って。私あの時、夫のことを見下していました。行為自体は気持ち悪さしかなかったんですけど、夫が私のことに何も気づいていないという優越感だけは、とても気持ちよかったです。

――旦那さんに浮気を知られたのは?

T:彼と……タカハシくんと再会して、ちょうど一年くらい経った、冬の日のことでした。あの日も日曜日で、夫は朝から外出していました。私は、タカハシくんを家に呼んだんです。

――それは……迂闊ではないですか?

T:そうですね(笑)

――どうしてですか?

T:彼が、その……私の手料理を食べたいって、言ってくれたんです。私、料理がすごく苦手だったんです。結婚してからは頑張って練習もしたんですけど、全然上達しなくて。夫はいつも、私の料理を食べると、笑うんです。「吉野家の方がマシだな」って。下手だってわかっていたんですけど、言われる度に傷ついて……。そのことを彼に話しても、全然信じてくれないんです。真面目でなんでもそつなくこなす奥さんに見えてたらしくて、全然そんなことないのに、吉野家なんてひどいって、まるで自分のことみたいに怒って……。下手なのは本当なの、って何度言っても信じてくれなくて、じゃあ、って話になって、それで。

――その日は、何を作ったんですか?

T:タンシチューです。

――タンシチュー?

T:はい。学生の時に、料理の上手な友達がいて、彼女に教わったんです。その時以来、作ったことなかったんですけど、特別な日だから頑張りたくて。おいしい、って言ってもらいたかったんです。彼に。それで夜中に、ぐっすり寝ている夫を起こさないように起きて、仕込みして、翌朝夫が出かけてすぐに煮込み始めました。
呼び鈴が鳴った時は、なんだか夢の中にいるようでした。お鍋の様子を見ながら彼の帰りを待って、エプロンを着けたまま手を拭きつつ、扉を開けて彼を出迎えるんです。そういう生活に憧れていた自分に気づきました。
彼が持ってきてくれた赤ワインで乾杯して、私たちは食卓を囲みました。シチューは少し塩気が強かったけど、抜群の出来栄えでした。彼はすごく美味しいって言って笑って、嘘つきだって私をからかって、それから寝室で……。

――彼とセックスした?

T:はい。彼に抱かれながら、今が夜ならいいのに、って思いました。でも日曜日の昼下がりでした。玄関から、扉が乱暴に引かれる音がして、私は我に返りました。凍りついている間に鍵が回って、扉が開いて、下の階に響きそうないつもの足音がして……夫が。

――修羅場ですね。

T:全くその通りでした。私は夫にしがみついて、何度も何度も私が悪いの、ごめんなさいって叫びました。タカハシくんはしばらく唖然としてから、服を着て、私たちを交互に見て、黙って帰りました。夫は彼を追いもせず、私を怒鳴りつけ、叩きました。まだ半分残っていたお鍋がひっくり返されて、片付けてもいなかった食器が部屋中に散乱しました。落ち着いて話ができるようになった時には、もう日は暮れていました。

――タカハシさんは、弁解も言い訳もしなかったのですか?

T:たぶん、夫が姿を見せたあの瞬間に、彼にとって私はどうでもいい存在になってしまったのだと思います。でも私にとっての彼は、そうじゃなかったんです。

――彼は逃げたのではないですか?

T:……そうかもしれません。

 


「あなたの子供がいるの」私の告白に彼は……


――その後、旦那さんとは?

T:ひと悶着ありましたが、離婚が成立しました。

――円満離婚とはいかないと思いますが。

T:そうですね。夫は私に慰謝料を求めました。離婚の原因は私の浮気、多大な精神的苦痛に対し、金銭をもって報いるべき、というのがその理屈でした。夫の代理人の口から、暴力については一切語られませんでした。ですが私も、黙って慰謝料を払いたくはありませんでした。暴力の証拠があったんです。

――証拠?

T:あの時……夫に私の浮気が知られた時、拳を振り上げる夫を見て、私は咄嗟に、スマホのカメラで動画を撮ったんです。私を叩く夫の姿が、そこにははっきり映っていました。以前、夫の暴力について、法律に詳しい友達に相談したことがあったんです。彼女が「あー……その手は証拠となるものがないと泣き寝入りですよ」と教えてくれて、それで咄嗟に身体が動きました。夫は頭に血が昇っていたんでしょう、気づいていませんでした。
夫の代理人は、それは一時の感情によるもので、日常的な暴力を示すものではないと言いました。ですが、通院記録もありましたし、薬局で湿布や絆創膏を買った時の領収書も保管していました。ちゃんと管理しないとやりくりできなかったので。

――法廷闘争にはならず?

T:幸い。夫の日常的な暴力と、私の浮気で双方に原因があるということで、両者とも慰謝料の請求権を放棄するという覚書を取り交わしました。

――タカハシさんとは?

T:彼の方から連絡はありませんでした。私の方から何度も、何度も、電話やLINEをして……それでも会ってくれませんでした。でも、奥さんに話しますよ、と言ったら、渋々という様子で、彼は呼び出しに応じてくれました。離婚調停のため、法律事務所に通っていた頃のことでした。

――忘れて、新しい生活を始めた方がよかったのでは?

T:忘れられるわけないじゃないですか。

――……申し訳ありません。

T:いえ、いいんです。私は、彼のことを愛していました。彼が私に望むものと、私が彼に望むものが違っていたとしても、彼と一緒にいたかった。そのためならどんなことでもするつもりでした。でも、ようやく会ってくれた彼は、素っ気なかったです。これまで一緒に過ごした時間が全部消えてしまったかのように。だから私、彼にこう言ったんです。「あなたの子供がいるの」って。

――妊娠していたんですか?

T:嘘です。でも、そう言えば、彼はまた私のことを考えてくれると思いました。「奥さんと別れてほしい」とも言いました。
待ち合わせた場所は、彼と再会した日に立ち寄った喫茶店でした。彼はやっぱり私に奥の席を勧めて、椅子を引いて、コートを受け取ってくれました。あの時と同じでした。形だけの優しさでした。それでも私は期待しました。彼が私に形のないものもくれるんじゃないかって。でも彼はこう応じました。「いくら必要?」って。

――人生を共にするつもりはなかったんですね。初めから。

T:私、悔しかったです。この人の人生を滅茶苦茶にしてやりたいと思いました。私の心を滅茶苦茶にしたように、この人のことも滅茶苦茶にしたいと思いました。お金なんかいらないの、って怒鳴りました。私は、私が彼と一緒にいてどんなに嬉しかったかを一気に話しました。でもひとつ話すたびに、その思い出が凍りついて崩れていくのを感じました。話し終えた頃には、私たちはもう、元同級生なだけの、他人同士でした。

――復讐は考えませんでしたか?

T:会うまでは、ずっと考えていました。家の近所にビラをまいてやろうとか、会社に電話をかけまくってやろうとか、奥さんに他人のふりして近づいてみようとか、ずっと考えていました。でもしませんでした。彼は、別に私に何かを隠していたわけじゃなかったんです。奥さんがいることも子供がいることも、何も隠さずに私と関係していました。それってつまり、身体だけの関係だっていう、彼の意思表示だったんです。私が勘違い……いえ、私が勝手に、これは愛だと自分に言い聞かせていただけだったんです。

 


熱情の終わり……残されたものは?


――お金は受け取ったんですか?

T:いいえ。代わりに、別れ際に、プレゼントを渡されました。品のいいトパーズのネックレスでした。もらえないよと言ったのですが、彼は頑なでした。どうして、と訊くと、あの時渡すつもりだった、って言うんです。私が彼を家に招いた日です。もう一度どうして、と訊くと、彼は困った顔で、「少し早いけど、誕生日プレゼントのつもりだった」って言いました。あの日曜日の翌週が、私の誕生日だったんです。

――誕生石ですね。

T:そんなふうに言われたら、返せなくって……だって私、忘れてたんです。もう何年も、誰も祝ってくれなかったから。自分のことなんか、気にしていられなくて……。

――そのネックレスは?

T:今も着けています。

――最後にお訊きします。彼との不倫を後悔していますか?

T:いいえ。

――今後は、新しい恋愛を?

T:まだ、気持ちの整理がつかないんですが……今夜、久し振りに昔の友達と会う約束をしているんです。私が離婚したってどこかから聞きつけたらしくて、みんな忙しいのに集まってくれて。みんなすごい子たちなんですよ。オリンピック選手だったり、探偵事務所を開いてたり、なぜか三日前までカトマンズにいて音信不通だったり……普通の家庭を築いていたり。たくさん、話してこようと思います。

――ありがとうございました。

 

[了]

 

※本誌ではあなたの不倫体験談を募集しています。ご応募は週刊月宿女性フィフス編集部または公式ツイッターまで、どしどしお寄せください。

 



35 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編] - baby portable log

36 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [中編] - baby portable log

 

※本記事はフィクションです。また、㈱スクウェア・エニックスおよびゲームアプリ『スクールガールストライカーズ』とは一切関係ないファンテキストです。

36 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名)[中編]

『実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名)[中編] 心がほしい私と、身体がほしい彼――甘い共犯関係』
週刊月宿女性フィフス 2018年3月第2週号(ゲッシュク・ガゼット増刊)

 不倫をしていた当事者の方にお話を伺う3回連載の第2回。G学園の卒業生で、夫の暴力に悩んでいたツバメさん(28歳・仮名)は、街で偶然再会した中学時代の同級生、タカハシさんと逢瀬を重ね、ついに一線を超えてしまいます。許されざる関係はどこへ向かうのでしょう……。

[前編]はこちら

 


日曜日だけの恋人……「まるで普通の幸せな家庭みたいで」


――旦那さんとの性生活に不満があったのでしょうか。

ツバメ(以下T):……わかりません。でも、タカハシくんのセックスと夫のセックスは明らかに違いました。夫とする時、私はずっと我慢するんです。気持ちよさがないわけではないですが、決して、求めてするものではなくて。夫は、きっと私が自分とのセックスに慣れたと思っているのでしょうけど、私は夫が怒らないように、感じているように振る舞うことが上手くなっただけでした。

――それは不満、ではないですか?

T:そうかもしれません。でも、セックスってそういうものだと思っていたんです。触られることを喜ぶような仕草、要するに、あなたとのセックスが好きなんです、っていうポーズを示す、演舞みたいなものだと感じていました。でも……

――彼とのセックスは違った?

T:はい。

――どんなところが?

T:気持ちよかったんです。彼の手が私に触れて、私の手が彼に触れる。触ってはいけないところに触らせることがこんなにドキドキすることだなんて、知りませんでした。もっと触れてほしい、触れてくれる彼に触れたい、気持ちよくしてあげたいと思えました。気持ちいいと、声って本当に出るんですよ。初めて自分のあえぎ声を聴いた時、私、「幸せだ」って思ったんです。

――彼とは、その……どれくらいのペースで?

T:本当は毎日だってしたかったです。でも、バレたらいけないからって、月に1~2度、決まって日曜日でした。

――日曜ですか。そういうのは、平日のイメージがありました。

T:奥さんが……まだお子さんが小さくて、土曜日の夜から日曜日の夕方まで、いつもお子さんを連れて実家に帰っていたんです。それに私も、夫が土日に家を空けることが多くて。

――それもまた意外です。

T:競馬の……GI? っていうんですか? 大きいレースがあるからって言って、朝から競馬場に行ってしまうんです。

――なるほど。

T:それで、私も、昼間から彼に逢っていました。日曜日のお昼に腕を組んで歩いていると、まるで普通の幸せな家庭みたいで……。私、それがすごく嬉しかったんです。夫がいつも、私を1人にする日曜日に……。

 


「制服でしたい」拒めない私……もう戻れない


T:その年の7月から9月は、競馬の大きなレースがなかったんです。

――じゃあ、彼とも。

T:はい。でも連絡は取り続けていました。夫に見られてもいいように女友達の名前をつけて。でも、逢えなかった間に、彼の連絡は段々……その、露骨になっていって。普通の世間話だったものが、抱きたいとか、気持ちよさそうな声が早く聞きたいとか、もっと露骨な言葉が並ぶようになりました。見られたら終わりでした。でも私、やめてって言えなかったんです。

――どうしてですか?

T:彼に求められるのが嬉しかったから。今にして思えば、あの頃から、私は彼が私と同じものを求めているわけじゃないって、わかってたんです。でも嬉しくて、あんな気持ちは初めてだったから、私はスマホが通知を鳴らす度に飛びついて、彼じゃないとがっかりして……。

――戻れないと感じた出来事が、その頃にあったと伺いましたが。

T:はい。9月のあたま頃でした。月末に大きなレースがあって、夫は当たりもしない研究に夢中になっていました。そんなある日、彼からいつものように連絡があって……「制服でしたい」って書いてあったんです。学生時代の。

――中学の同級生でしたね。

T:でもさすがに、中学の制服は入らないよと応じたら、じゃあ高校の、と……。私、G学園の卒業生なんですけど、あそこの制服、可愛いって評判で。私も卒業したとき、なんだか勿体ない気がして、捨てずに取っておいたんです。結局、実家のクローゼットに入れっぱなしだったんですけど……。

――取りに帰ったんですか?

T:はい。母親に呼ばれたって、嘘ついて。夫は怒りました。私、両親に彼をちゃんと紹介していなかったんです。夫が嫌がったので。結婚してからも、私が実家の両親のことを仄めかすと、夫は怒りました。

――ちゃんとした男じゃない自分へのコンプレックスがあったのでしょう、旦那さんにも。

T:そうかもしれません。でも、私だってそんな夫をバカだと笑えません。だって私、不倫相手とそれを着てセックスするために、実家に高校時代の制服を取りに帰ったんですよ。もう10年近く着ていないのに。笑いますよね、バカな女だって。

――……いえ。

T:私、したくてしたくてたまらなかったんです。抱かれたかったんです。彼に。

 


三ヶ月ぶりの逢瀬……満たされてしまう心


――久し振りに逢った彼は?

T:顔を見た瞬間から、胸が高鳴ってしまって……ほとんど覚えていません。

――それで、ホテルへ?

T:はい。いつもより大きいバッグに制服を入れて、スカートがシワにならないといいなあ、なんて思いながら彼と腕を組んで、もう5回は使っていたホテルに入りました。

――制服は……その、着られましたか?

T:幸い、大丈夫でした(笑) でも、制服のスカートって、あんなに短いんですね。少し揺れたら見えてしまいそうで、自分がこんなものを着ていたのが信じられませんでした。

――彼の反応は?

T:あれの方もすごかったんですけど……彼、「可愛い」って言ってくれました。いつもは「綺麗だよ」なのに。それで、ああ、頑張って着てよかったって、思ってしまって。結局器用に、着たまましました。それで、私……その時に、気づかされてしまったことがあって。

――気づかされた?

T:私は高校時代の制服を着ていて、彼のものが入ってきて、自分の口から、自分じゃないような息が漏れて。馬鹿なことをしている自覚はありました。でも言われるがまま、されるがままの自分がすごく、気持ちよかった。私、彼にしがみついて「好き、好き、好き」ってうわ言みたいに言ってました。あの時、私の心は彼のものでした。満たされていて、生きてきた中で一番感じて……。入れられながら、ああ、私はこの人のことが好きなんだ、って気づいたんです。

でも、頭のどこかではわかっていたんです。

――わかっていた、とは?

T:私と彼が同じように満たされているわけではない、ということです。彼にとって、私はただの、バカな女でした。言われるがままに制服を着て、AV女優みたいにあえぐ、月に1回日曜日にセックスできる都合のいい女でした。私は、私の心が彼のものになったつもりでした。でも彼にとっては、私の身体が彼のものになっただけだったんです。きっと。

――そうでしょうか。

T:彼、「僕も好きだよ」とは言ってくれなかったんです。それでも、私はその共犯関係に夢中になりました。

 ――共犯?

T:私は心がほしいだけ。彼は身体がほしいだけ。それって、利害が一致した、共犯者みたいだと思いませんか?

 

 



35 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編] - baby portable log

『[後編]上辺だけでも愛されたかった――夫に知られて、狂言妊娠、そして……』は週刊月宿女性フィフス 2018年3月第3週号掲載予定

 

 

※本記事はフィクションです。また、㈱スクウェア・エニックスおよびゲームアプリ『スクールガールストライカーズ』とは一切関係ないファンテキストです。

35 - 実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編]

『実録:不倫がはじまる時 ツバメさん(28歳・仮名) [前編] 同級生との再会、そして……』

週間月宿女性フィフス 2018年3月第1週号(ゲッシュク・ガゼット増刊)

 芸能界でも多くの不倫が報じられる昨今。身近なところでも話を聞いて驚きますよね。今回は3回連載で、不倫をしていた当事者の方にお話を伺いました。第1回は、月宿町在住のツバメさん(28歳・仮名)。都心の一等地に広大な敷地を持つ新興校・G学園の卒業生である彼女は、いかにも清楚で生真面目な佇まい。記者の私見ですが、不倫に走る人妻とは真逆の雰囲気を持つ女性でした。

 


繰り返される夫の暴力『風俗で稼げ』


 ――こんにちは。まずは自己紹介からお願いします。

ツバメ(以下T):はい。ミヤマ・ツバメと申します。よろしくお願いいたします。あの、ヘンなところないですか?

――いえ。もっとリラックスしてください。

T:すみません。私、あがり症で、学生時代も友達によくイジられてて……

――不倫のきっかけを教えていただけますか。昔の同級生だったと伺いましたが。

T:はい。当時私は、夫からの暴力に悩んでいました。夫とは大学時代に出会ったのですが、当時から金銭的に……女性関係にもだらしないところがある人で。付き合っているといっても、彼が私の部屋に居着いているような状態でした。他の女の人との噂も絶えなくて。
でも、結婚してほしいと言われた時は、嬉しかったです。これでマジメになってくれる、なんて思っていました。典型的な、ダメ男にハマる女ですよね、私。

――でも結婚後も相変わらずだった?

T:そうでもないですよ。長続きしなくても仕事はしていましたし、結婚してからは、他の女の人との噂はぱったりと途絶えました。ですが、その代わりに……。

――暴力を振るうようになった。

T:はい。昔から、冗談めかして私を叩いたり、私が口答えすると大声で怒鳴ったりする人でした。でも結婚して二年ほど経った頃から、突き飛ばされたり肩をグーで殴られることが増えてきました。決まって仕事やお金や、その……赤ちゃんの話をした時でした。

――咎められているように思ったんでしょう。

T:今にして思えば、私は、愛してくれているという実感がほしかったんです。将来のことを考えてくれてるっていう証じゃないですか。別に他人に自慢できる生活がしたいとか、贅沢したいとか、そういう気持ちじゃないんです。でも彼はそう思ってくれなくて……。

――夫からの暴力に違和感は持ちませんでしたか?

T:違和感ですか……? 当時は、男の人ってこういうものだ、私が我慢しなきゃいけないんだって思ってました。これが普通なんだ、DVとかそういうのじゃないんだって、自分に言い聞かせてました。

――当時、生活費はどちらが?

T:大半は私でした。夫はお酒と、競馬に凝るようになって……馬券代は自営業者の経費になるんだ、なんて言うんです。おかしいですよね。でもお金を渡さなければ夫は凄み、私を叩きました。お金を渡しても、私の内心にある不満を見抜いていたんでしょう。金のことばかり考えている、さもしい、卑しい、そんなにお金がほしいなら、風俗でもなんでもやって稼いでくればいいだろって。そんな時でした。彼に再会したのは。

 


私を旧姓で呼ぶ元同級生


T:彼の実家からのお歳暮のお返しに、デパートに行った帰り道でした。かっちりしたスーツの男性に声をかけられたんです。最初は何かのセールスかなって思ったんですけど、その人私を「ミヤマさん」って呼んだんです。私の旧姓です。それで思い出しました。

――それが不倫相手の?

T:はい。タカハシ(28歳・仮名)くんでした。中学生の頃の同級生だったんですけど、数回しか話したことがなくて。私、男の子が苦手だったんです。それで高校からは、女子校のG学園に進みました。

――タカハシさんとは、中学以来その時が初めて?

T:一度だけ、成人式の時に。その後の同窓会で連絡先を交換して……。実は私、彼に結婚式の招待状を送っていたんです。

――そんなに親しいという印象は受けませんが……

T:あの、私、友達が多いタイプではなくて……。夫が10人に招待状送れって言ったんですけど、どうしても9人しか当てがなかったんです。それで、彼のことを思い出して、送りました。断られちゃったんですけどね。

――再会した彼とは?

T:その時は喫茶店で少し話しました。式への招待のことで、私は少し気まずかったのですが……彼の方から「結婚式、行けなくてごめんね。仕事が忙しくて」と。そんなふうに謝ってくれるのが申し訳なくて、迷惑かけたのは私なのに。すると彼は、仕事が忙しかったのは嘘だ、って言うんです。

――ではどうして?

T:「ミヤマさんの花嫁姿を見るのは悔しいから」って言いました。その時はやめてよって誤魔化したんですけど……私、それがすごく嬉しくて。舞い上がっちゃったんです。

 


「男の人に口説かれたことってなかったんです」


――意外です。失礼ですが、とてもおきれいですから、慣れてらっしゃるんじゃないかと。

T:そんなことないです! むしろ真逆ですよ。私、男の人に口説かれたことってなかったんです。学生時代も剣道ばかりで、そういうこととは縁遠くて。カタいって思われがちなのを、なんとかしたかったんですけど……。

――では、旦那さんが?

T:初めての相手でした。だから私への扱いも、それが普通だって思い込んでました。でも、タカハシくんは違ったんです。

――それから何度かふたりで会われたんですか?

T:はい。昔の、がさつな中学生の彼しか知らなかったので、会うたび驚きの連続でした。最初の喫茶店でも、私が座る前に椅子を引いてくれました。脱いだコートを背中から着せてくれるとか、私の履いているものに合わせて、お座敷のお店やテーブルのお店を選んでくれたり……そういう何気ない優しさが、嬉しくて。彼にとっては、社交辞令の優しさだったんだと思います。でもそれは、夫との生活では決して得られないものでした。大事に扱われているという、愛されているという実感、でしょうか。

――それで一線を超えてしまった、と。

T:四度目か、五度目に会った時だったと思います。ホテルに誘ったのは私の方からでした。

 

 



『[中編]心がほしい私と、身体がほしい彼――甘い共犯関係』は月宿女性フィフス 2018年3月第2週号掲載予定
『[後編]上辺だけでも愛されたかった――夫に知られて、狂言妊娠、そして……』は月宿女性フィフス 2018年3月第3週号掲載予定

 

 

※本記事はフィクションです。また、㈱スクウェア・エニックスおよびゲームアプリ『スクールガールストライカーズ』とは一切関係ないファンテキストです。

34 - やれたかも委員会「オーバースキルを使いたかった、あの夜」

○謎の会議室

 三人の男女が並ぶ前に立つ、メガネの男。

T「犠星塾 塾長 能島明」

 能島、腕を組み無表情。

T「ミュージシャン パラディソ」

 Macbookリボルテックヤマグチ新作を検索。

T「財団法人ミックステープ代表 月満子」

 スマホ氷食症について検索。

 スマホを置き、メガネを直す。

T「機械設計エンジニア 高橋矢尻」

高橋「当時私は大学生でしたが、留年中でした」

高橋「ですから、暇に任せてアルバイトをしていました。書店とレンタルビデオ店が一体になった大型店舗の、書店フロアの方です」

 

○書店

 品出しする高橋。書店の制服。

 マイナー漫画の棚を丁寧に整理する。

高橋「そこで意気投合したオタク友達がいたんです」

 隣に現れる、同じ制服姿で、高橋と同じ漫画を手ににやりと笑う男。

高橋「斎藤という男でした。品出し後から夕方までの朝番シフトに入れる若い男ですから、まあなんというか、スネに傷があるタイプでして。彼も大学を休学中で、時間が有り余っている、端的に言ってクズでオタクな大学生でした。私と同じように」

 

○居酒屋

 盛り上がる酒席の隅。周りから背を背けるような高橋と斎藤。

高橋「バイト先の飲み会でも、私たちは他のバイトらから離れて、アニメの話ばかりしていました」

 

高橋(昔)「桂ヒナギクいいよね…」

斎藤「ナギ様派なんだよな…」

高橋(昔)「くぎゅか、わかるよ」

斎藤「そういうお前は御前」

高橋(昔)「ふ、ふふ…」

斎藤「ふふふ…」

 

高橋「私たちは、ウマが合っていました。今思えば、リア充、今で言えばパリピでしょうか、彼らに紛れてバイトなんて、結構無理があった。私たちは互いに無理をしていて、だからこそ戦友を見つけたような気持ちでいたんです」

高橋「でも、そんな私たちの安心な関係に、いつも割り込んでくる女性がいました」

高橋「カオリさんといいました。さらりとしてロングの、深い茶色の髪が印象的な、やたら美人な先輩でした。年齢は私たちより、ひとつかふたつ上だったでしょうか」

 

 高橋の隣に座るカオリ。

カオリ「あ、それ、日曜の朝にやってるアニメでしょ。あたし観てるよ~」

高橋(昔)「そ、そですか」

斎藤「ニチアサです…」

カオリ「ギャグのテンポが天才的じゃない? 朝から腹痛くなるっつーの。ね?」

高橋(昔)「…」

斎藤「…はい」

 うつむく斎藤と高橋。

 

高橋「今にして思えば、もう少し上手い話し方があった。でもあの時の私たちにとって、カオリさんは『向こう側』の人でした。斎藤と話している時のような安心は、カオリさんでは絶対に得られなかった。気さくな年上の、やたら美人な先輩が私たちに何を求めているのかもわからなかった。カオリさんが来ると、私たちは言葉少なに、とっくに冷めた揚げ物に箸をつけ、薄まった飲み物に口をつけました。」

高橋「それでもカオリさんは楽しげでした」

 

カオリ「あたしも結構アニメとか観るんだよね~。でも、あんま話できる友達いなくてさ」

高橋(昔)「そうなんですか…」

斎藤「…」

カオリ「二次会、行くよね?」

 カオリ、頬杖をついて笑顔。

 

カラオケボックス

高橋「二次会は決まってカラオケで、斎藤と私は決まってキングゲイナー・オーバー!を歌っていました。キーが高くて声量が要る歌です。ふたりで歌うとちょうどよかったんです」

 

高橋(昔)「こもるだけでは何ができると いじける俺に教えてくれた」

斎藤「君と出会って 胸をあわせば命が」

高橋(昔)「メタルファイヤー…」

斎藤「燃えてきた…」

高橋(昔)・斎藤「メタルフゥゥーーーーールコォーート!!!」

 モンキーダンスを踊る高橋と斎藤。

 足を組んで微笑みつつそのさまを見ているカオリ。

 

高橋「バイト先は人数が多くて、カラオケに行くと部屋がいくつかに別れました。ですがカオリ先輩は、いつも私たちと同じ部屋にいました。やたら美人な先輩が、なぜかいつも、同じ部屋に」

高橋「そんなことが数回続きました。飲み会。アニメや漫画。割り込んでくるカオリ先輩。カラオケ。キングゲイナー・オーバー!。あの頃流行っていたものの話ばかりでした。ひぐらしとか、東方とか、ハルヒとか、らき☆すたとか。斎藤は結構な東方厨で、十六夜咲夜のアクキーなんかカバンにつけていました。カオリ先輩はそれを見ると、『あ~、咲夜じゃ~ん!』とか言うわけです」

高橋「嫌だな、と思いました。だから俺と斎藤だけがよかったのに、とも思いました。私には東方がわからなかったんですよ」

高橋「そんな冬のある日の飲み会でした」

高橋「斎藤が欠席したんです」

 能島、激しく影の差した無表情のアップ。

 

○居酒屋

 居心地悪そうな高橋(昔)。正面に座るカオリ。

カオリ「高橋くんって、あんまり話さない人?」

高橋(昔)「そんなことないです…」

カオリ「あるよ~。今日だって、斎藤くんといる時の半分も喋ってないし」

高橋(昔)「そんなことないです…」

カオリ「二次会、行くよね?」

 

カラオケボックス

 やはり居心地悪そうな高橋(昔)。正面に座るカオリ。

 他のメンバーが歌っている。広瀬香美の『ゲレンデがとけるほど恋したい』。

 ウーロン茶を飲む高橋(昔)。

 

高橋「その夜の私は、『早く帰りたい』以外のことを考えていませんでした」

高橋「ですがそのカラオケボックスで、私にとっての大事件が起こりました」 

 

 曲を入れると席を立ち、高橋の隣に座るカオリ。

 両手にマイクが一本ずつ。カオリは一方を高橋(昔)に渡す。

 入った曲は『キングゲイナー・オーバー!』。

 カオリ、にやりと笑って親指を立てる。

 

高橋「初めてでした。異性とふたりで同じ曲を歌うの」

高橋「オーバーヒートでした。ツンドラを溶かすような」

 

カオリ「愛と勇気は言葉!」

高橋(昔)「感じられれば力!!」

カオリ・高橋(昔)「メタル・オーバーマン キングゲイナー!!!」

 

○路上

バイト仲間たち「お疲れ様っした~!」

 

高橋「会場がバイト先に近かったので、何人かはまとまって、夜シフトの連中がいる店に行こうとか騒いでいました。私は終電が近くて、すぐに帰るつもりでした」

高橋「カオリ先輩が私を呼び止めました」

 

カオリ「高橋くん、電車?」

高橋(昔)「はい…」

カオリ「あたしこのへんなんだ~。いいっしょ」

高橋(昔)「ははは…」

カオリ「斎藤くんいなくて残念だったね。なんか居心地悪そうだったし」

高橋(昔)「そ、そですね。……あっ、今度はCan you feel my soul歌おうぜって言ってたんですよ。斎藤と。俺、エンディングの方も好きで、むしろエンディングの方が、ニコニコとかでは、オープニングの方ばっか人気ですけど…」

カオリ「お前ら絶対本編観てねーだろってね」

高橋(昔)「そう! 絶対観てないっすよね、ああいう奴ら!」

カオリ「いいよね~。告白シーンとかめっちゃ好きだし」

高橋(昔)「いいですよね」

カオリ「言われてみたいな~、ああいうの」

高橋(昔)「え?」

 高橋(昔)、顔を上げる。

 カオリ、ぼぅっと上を見ていた目線が下がり、高橋を見る。

カオリ「キミなんか似てるな~、ゲイナーに。メガネだし」

カオリ「言ってみてよ~、ほらほらぁ」

 

○謎の会議室

高橋「私は…何も言えませんでした。笑ってごまかすばっかりで」

高橋「……」

高橋「もしも私に、あの時、ゲイナー・サンガのような度胸があれば」

高橋「笑われてもいいから大声で告白して見せるような勇気があれば、あるいは…」

 

能島「!!……【やれた】」

能島、壮絶な表情。

 

パラディソ「……【やれた】」

パラディソ、サングラスの下に沈痛な眼差し。

 

満子「……【やれたとは言えない】」

満子、メガネに手を添え、表情は見えない。

 

パラディソ「【やれた】【やれた】【やれたとは言えない】」

パラディソ「【やれた】2票ということで、高橋矢尻さんのお話…【やれた】と認定いたします」

 一同拍手。

 浮かない表情の高橋。

 高橋、天を仰ぐ。

高橋「やれたか…」

能島「凍りついた大地を溶かす、一筋のやれたかも」

能島「ツンドラの上にだけ咲く、花があります。大切にしてください」

高橋「…ありがとうございました」

 釈然としない表情の満子。

 高橋、それに気づく。

高橋「あの、月さんは、どうして……」

満子「……レンタル、しませんかね」

高橋「レンタル?」

満子「バイト先のレンタルビデオ店がすぐそばだった。だったら、そのアニメを借りて、一緒に観ようと誘うんじゃないでしょうか。カオリさんの家は近いんですよね」

高橋「……!」

 高橋、目を瞬かせる。

高橋「で、でも、ならどうしてカオリさんはあんな…」

満子「したかったんじゃないでしょうか」

高橋「したかった?」

満子「アニメの話」

高橋「……はい?」

満子「アニメの話、したかったんじゃないでしょうか」

 

[了]

 

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本記事は創作です。また、吉田貴司さんの「やれたかも委員会」とは何の関係もないファンテキストです。

 

33 - 大阪へ行った

 ダンケルクIMAX次世代レーザーで鑑賞するため、大阪へ行った。前日まで仕事で出張先ビジネスホテルへ軟禁、当日AMも地獄現場へ出勤しての強行日程。おまけに翌日には台風が来る散々な旅行だった。

 ただし、出張ぐらしにも多少はいいところがある。ビジネスホテルのポイントがありえんくらい貯まるのだ。1泊1ポイントで10ポイント集めると1泊無料みたいなポイントが170ポイントとか貯まる。170て。身長か。

 そんなわけで、都市に行くのであればどこでも宿代がタダになる身である。むしろ出張先は地獄限界地方都市が多く、宿代も安いので、都市に泊まるときにポイントを使ったほうが得になる。こんな情報知りたくはなかった。

 

 今回は梅田から御堂筋線でひと駅のところに宿が取れた。大阪に行くとしたら109シネマズエキスポシティ大阪の次世代レーザーIMAXが目的で、エキスポシティ大阪に繋がる大阪モノレール北大阪急行千里中央駅と接続していて、北大阪急行は地下鉄御堂筋線と直通している。なので、御堂筋線に宿を取るととても楽だった。

 ダンケルクは1泊開けた翌朝一番の回を取ったので、夜が暇だった。そこで、梅田方面へ足を伸ばしてみることにした。噂の梅田ダンジョンを体感しておこうという腹である。すると、面白いように迷う。目で見える、道路の向こうに行きたいのに、行けない。地下街に入ると絶対に迷うから地上を進めばいい、などという浅知恵を横断歩道のない道路が嘲笑う。新設された歩道橋がなければたぶん死んでいた。かと思えば2階から1階へ降りようと思ってエスカレータに乗ると地下1階まで直通で輸送される。ナメてんのか。ファイファンやってんじゃあねーんだぞ。

 目的地は梅田ブルク7ベイビー・ドライバーの鑑賞のためである。

 前回、ハドソン川の奇跡を次世代レーザーIMAXで観るため大阪を訪れた際に、大阪市内の映画館をあちこち巡り歩いていた。90年代の情緒が残るあべのアポロシネマ、西のアップリンク的な雰囲気のあるシネ・ヌーヴォアメリカ村の喧騒の中でとても若者受けしそうにない映画ばかりかけるシネマート心斎橋。人が多い場所は映画館のバリエーションも多くてよい。どうかシネマ・コンプレックスの波に飲まれず末永く生き延びて欲しい。

 さておき、同じところというのも芸がない。そこで、今回は新しめのところへ行ってみよう、と思いたち、ブルク7を選んだのだ。

 道に迷う途中、期せずしてTOHOシネマズ梅田の威容を見上げることにもなった。梅田周辺もシネマ・コンプレックスの進出に伴い、既存映画館群の再編が起こった様子。どこも同じなのだと知り、もう潰れた、お気に入りだった映画館のことを思い出しつつベイビー・ドライバーを観れば、思春期の頃に夢中になった音楽がかかるかかる。QueenBrighton RockとかSimon&GarfunkelのBaby Driverとか好きでしたよ。あ、これってあれだ、秋ってセンチメンタルですよね…ってやつだ、とひとりツボに入る夜。秋ってセンチメンタルですよね…。

 

 翌朝、早起きしてダンケルクを観、台風が来る前に東へ逃げる。551HORAIをまた買い損ねたことを除けば、いい大阪だった。

32 - ロマンポルノ・リブート全部観た

 ロマンポルノ・リブート全部観た。

 

映画『ロマンポルノ・リブート・プロジェクト』公式サイト

 

  「上映時間80分前後」「10分に1回の濡れ場」「製作費は、全作品一律」「撮影期間は1週間」「完全オリジナル作品」「ロマンポルノ初監督」という6つの条件で作られた5作品。ポルノという、没個性が求められる媒体で逆に監督の個性を際立たせようという試みが非常に興味深く、私もロマンポルノ大好きな変態と化しながら映画館へ通った。思うところもあったので、各作品の雑感を残す。

 

1.ジムノペディに乱れる(行定勲 監督)

1週間―。
撮れない日々が続く映画監督の古谷(板尾創路)は、
鬱屈とした気持ちを抱えながら、
肌のぬくもりを求めて女たちの隙間を彷徨っていた。
仕事、名声、そして愛…
全てを失った男が、辿り着いた先に見つけたものとはー?

 『世界の中心で、愛をさけぶ』の大ヒットでサブカルな人々に「売れているものがいいものではない」という思想を強烈に焼き付けた行定監督(個人の感想です)がロマンポルノを撮るというだけで面白い。

 とにかく、手を変え品を変えたくさんのオンナたちとヤリまくる。寝取ったり寝取られたり、「テメエなんで俺のTシャツ着てんだよォ!」と怒鳴られつつ寝取られ男と迫真のデッドヒートしたりする。面白い。

 しかし、とにかくヤリまくる主人公・古谷だが、その裏には女一人への一途な愛がある。セックスに理由があることで、ただのポルノから遠ざけている。つまり、共感の隙を設けている。企画が発表されたときから、ユーロスペースでの特集上映でかつてとは違う見方をされていることが取り上げられたり、女性に、女性にと繰り返されていたこととつながり、すごく腑に落ちた。この万人受け(ロマンポルノだが)は、嫌いな人には嫌われるタイプなのだろうけど、ヒットメーカー、行定勲監督の個性がよく現れているのではないか。

 冒頭おっぱい露出シーケンスが無茶苦茶素晴らしかった。

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2.風に濡れた女(塩田明彦 監督)

都会の喧噪を避け、過去から逃げるように
山小屋で暮らす男・高介(永岡佑)は、
生命力を持て余し、
野性味溢れる魅力を放つ女・汐里(間宮夕貴)との
出会いによって、
欲望の渦に巻き込まれていくはめに…。

 「 あんた、アタシにロックオンされたんだ! 逃げられると思うなよ!?」

 主人公、劇作家の男、高介は女性関係の失敗をきっかけに都会から逃げ出し、山に小屋を立てて暮らしている。彼と不可思議な出会いを果たした謎の女、汐里や、東京時代の高介を知る訪問者たちが、ヤッてヤッてヤリまくるポルノ・コメディである。

 この、演劇というのがキモで、大自然を背景に繰り広げられる奔放なセックスの饗宴に、嘘のフィルタを一枚噛ませる効果を発揮している。間宮夕貴演じる汐里は怪演の域で、日プロ大賞も納得。特にハイエースの前に整列した童貞が順番に車内に入って狩られるところを文系サブカル女子大生とハメながら見るシーン(意味不明だがそのとおりなので観てほしい)が最高だった。

 山、海、炎、闇、夜の店舗等々、そこにあるものを使って非現実空間を作り、真ん中にまぐわう男女を置くというやりかたが上手い。あけっぴろげで、男の方がちょっと情けないセックスの数々は、なるほどポルノの枠には収まりきらないロマンポルノだった。

 食うか食われるか!だけではなくこういう女の子も出るのでその方面もぜひ。なんなんだよこの眼鏡は。

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3.牝猫たち(白石和彌 監督)

池袋の夜街を漂う3人の女。
呼び出された男たちと体を重ね、
そして、また夜が明ける―
都会の中で孤独を感じながら
颯爽と現代を生き抜く女たちと、
それを取り巻く男たちの物語。

 真面目か!!!

 『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』等のクライム・サスペンスで名を知った白石監督がロマンポルノ!?と聞いて劇場へ馳せ参じた。内容は、真面目というか、ストーリー重視の抜けないエロ漫画のような感じ。アフレコで昔っぽさを出しているのがまた、企画に真面目だ。

 三人のヒロインにそれぞれ社会問題的なものを背負わせてしまうのが、さすがである。ただ一方で、エロ漫画っぽいと感じたのは、三人を取り巻く男たちの現実からの浮遊だった。真面目さと、エロ漫画っぽさが、今ひとつマッチしていない。社会派で頭のいい監督が、必死で頭の悪いポルノをやろうとしているかのような、ぎこちなさが漂う作品だった。

 それにしてもJJエイブラムスかよっていうレンズフレアが過剰で笑ってしまった。角海老が絢爛と輝くレンズフレア

 とろサーモンの出演はNetflixの『火花』とのつながりを感じさせられた。

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4.アンチポルノ(園子温 監督)

小説家兼アーティストとして
時代の寵児となった京子(冨手麻妙)。
極彩色の部屋に籠もり、
マネージャー典子(筒井真理子)が
伝えるスケジュールを分刻みでこなす毎日。
寝ても覚めても終わらない悪夢。
私は京子なのか?京子を演じているのか?
虚構と現実の狭間で、
京子の過去の秘密が暴かれていく―。

 園子温監督が今怒っていることへの怒りをぶつけたような作品で、面白いかつまらないかで言ったらつまらない。女性を描いていることと色彩のドギツさを見るに、ペドロ・アルモドバルへの意識があるような気がする。

 いつもの園子温と言えばその通りなんだけど、正直、2011年以前のような作品はもう観られないのかと思うと、寂しい。

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5.ホワイトリリー(中田秀夫 監督)

傷ついた過去を慰めあうように
寄り添い生きてきた
二人の女・はるかと登紀子。
彼女たちの秘密に
踏み込んできた男・悟によって、
それぞれの愛が暴走をはじめるー。

 これはまじでいいものでした……飛鳥凛さんが、仮面ライダーWで園咲若菜役を演じた飛鳥凛さんが脱ぐという衝撃に私の股間のエンジンブレードもマキシマムドライブです。申し訳ないが他作品の主演女優さんより一枚上手に若くて綺麗だから、テント張らせるパワーが段違いなんだよ。

 おすすめなのは、ずばり、ひげなむち先生の成コミが好きな人。名の通りの百合ものなんですが、性に奔放でバイな「先生」と、彼女に心酔するレズで処女な少女のカップリング。と来れば、寝取り男がすることはひとつである。

 百合の花が散る官能的な女同士の絡みシーンから、嫉妬に我を失う少女。細かいセリフやシチュエーションはテンプレを踏んでくるんだけど、そのシリアスと笑いの境界線を曖昧にするセンスは、Jホラーの息吹を感じられた。女性の体のパーツへ異様に寄ったショットも、ポルノというよりは、シリアスと笑いの境にある、お耽美の世界だった。ロマンだよなあ~、ロマンポルノってのはよォ~。

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 映画離れが叫ばれる一方、邦画が熱い!と盛り上がる昨今。作家性で勝負するというロマンポルノ・リブートの試みが、原作ものやフランチャイズ主体になりがちな映画界に一石を投じたことは間違いない。いち鑑賞者として、その波紋が大きく広がることを願ってやまない。いえ、決して股間を盛り上げるためではなく。文化、文化だから。