19 - おもしろかったアメコミを10作挙げてく

 最近、アメコミというものをちゃんと読み始めた。

 きっかけはもちろんアメリカの連続ドラマ『ARROW』。ARROWのスピンオフコミックがデジタル先行で販売されていて、インターネットに国境線はないから電子版で即買える…と知ってしまったのが運の尽きで、ここ最近は日本の漫画よりアメリカの漫画をよく読むようになってしまった。

 これがちゃんと読んでみると面白い。

 ぶっちゃけた話、アメコミなんてヒーローが飛んできて適当な悪役を適当に倒すだけ、ヒロインはHelp me!!とThanksとI love youしか言わない装置なんだろうと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。ダークナイトは傑作だが、急に出てきたわけではない。どんなものにも伝統と歴史があるのだ。

 

 と、いうわけで、時流に乗っておすすめのアメコミを紹介しようと思う。映像作品を入り口にアメコミに触ろうとする私のような人々の一助となれば幸いです。イェーイにわか最高~✌('ω')✌

 

・紹介の指針(=私が読む漫画)は映画やドラマありきです

・なので入門向けのオリジンストーリーが中心になります

・マーベルよりDC派です

・必死こいて原語で読んでますが、知性が足りないのでしばしば誤読します

・迷ったら日本語訳があるものをご紹介します

・好きなアメコミ原作映画はバットマン ビギンズです

・二度と見たくないアメコミ原作映画は下画像です

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1.DAREDEVIL: The Man Without Fear


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 MARVEL最高~~~!!!!!!!

 フランク・ミラーというライターはデアデビルが出世作だったらしく、彼が関わるようになってから、デアデビルはハードボイルドでより現実に即した世界観へ方向転換し、低迷気味だった人気がV字回復したのだとか。そんな自身の成功の原点ともいえるデアデビルのオリジン・ストーリーをフランク・ミラー自ら語り直したのが本作。ありていに言って

 ニューヨークの掃き溜めで貧困にあえぎ、母もなく、幼い日に視力まで失った男。世の不幸を一身に背負い、信じた師にも愛した女にも裏切られた彼はなぜ犯罪に走らず、むしろ弱きを助け悪を挫く孤高のクライム・ファイターとなったのか。高潔な魂が発火するさまを綴る抑制的で煮え切った筆致がもう最高であたまおかしなるよ。

 初読時は最終盤でのレーダーセンスの扱いにぐっと来た。レーダーセンスはただ盲目の男が悪党と渡り合うための技術だけではなく、助けを求める誰かの声を決して聞き逃さない高潔な魂の顕現なのだ!

 NETFLIXで配信中のドラマ版には、この作品での黒ずくめコスチュームが活動初期のコスチュームとして登場するとか。

 幸いにして2015年9月末に日本語訳が出た。神。

 


2.Batman: Zero Year-Secret City


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 DCコミックでは2011年に大規模な仕切りなおしイベントがあり、以降のDCがコミック世界は52個のアースに別れたThe New 52!と呼ばれるようになった(阿呆か何かか)のですが、この新世界におけるバットマン、そしてジョーカーのオリジンが語られる作品です。

 時系列がややこしく、(確か)ジャスティス・リーグが本編(バットマンとかスーパーマンとかフラッシュとかの本誌)の5年前という設定で、その1年前の、各地でスーパーヒーローと呼ばれる存在が生まれ始めた頃の話が本作、つまりオンゴーイングシリーズの6年前ということになります。わかんねえよDCEUコケろ。

 その頃ブルース・ウェインバットマンですらなく、グラップルケーブルに試行錯誤しているような描写から始まる。彼は犯罪と戦う決意を胸にゴッサムへ帰還したが、赤いマスクで顔を隠す匿名の集団『レッドフード・ギャング』の台頭を目の前にして、自分の無力を悟る。そしてある嵐の夜に、コウモリの啓示を受けてバットマンとなり、自分もまた匿名の存在となって街を牛耳るレッドフード・ギャングに挑む……という筋書きです。

 レッドフードといえば、かの傑作『バットマン:キリングジョーク』の中で過去の事件として語られる、ジョーカーのかつての姿です。つまり、ゼロイヤー:陰謀の街は、キリングジョークでは一人の小悪党にすぎなかったレッドフードを再解釈し、新たな伝説の始まりを描く野心作なのです。もちろん啓示のシーンは『イヤーワン』への敬意と対抗心が見え隠れします。匿名の集団なのがいいんすよ…定番のオリジンのようでひと味違うのが、ノーラン三部作さえも内包する最高の新イヤーワンなんすよ…さ、さ、最高…✌('ω')✌

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 薬品タンクに落ちる男、一体何者なんだ……

 ゼロイヤーの後編はそんなにおもしろくないですが、タイイン群はめちゃめちゃおもしろいです。おすすめはのちのレッドフードがレッドフードの名を騙る軍団と戦うRedhood and the outlawsと、誘拐されたママを救うためフードの男としての初仕事をするGreen Arrowと、飲むと加速するイカロスという薬物を追ってゴッサムに来たバリーがゴッサムガゼットの美人インターン、アイリス・ウェストと電撃的に恋に落ちるThe Flashです。

 


 3.Superman:Earth One vol.3


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 アースワンってのは、52個のアース(アホ)のうちのひとつで、手っ取り早く言うと、リアル路線なシリーズです。まだヒーローがいない世界で、駆け出しの弱々しいヒーローとしてアイデンティティを獲得していく若者らの姿を描く作品群であり、まるでリブート映画を見ているかのような雰囲気があります。背景知識ゼロで楽しめるので大正義です。

 とはいえ、バットマンはグラップルケーブルが絡まってゴミ溜めに落ち、スーパーマンは宇宙人カル・エルの恋とセックス*1に踏み込むなど、野心作(?)なところもある憎めない作品です。

 それはさておき、Vol.2までで、スーパーマンは内面に深い葛藤を抱えながらも、世界中に認知される、正真正銘のスーパーヒーローになります。彼はメトロポリスを二度救い、一方で圧政を敷く独裁者を打倒します。しかし彼は、メトロポリスの悩める若者ひとり救うことが出来ませんでした。人生に絶望し、ボブ・ディランを愛し、薬物に溺れ、スーパーマンという存在に希望を見出しながらも自ら命を絶った隣人の、救世主にはなれなかったのです。

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 そしてVol.3では、世界中から支持されながらも、「僕はただ力があるだけの存在だ」と悩む青年クラークの前に、スーパーマンを上回る力の持ち主が現れるのです。待望のゾッド将軍です。

 クリプトン星人である上に訓練された兵士であるゾッドは、民衆のヒーローであるクラークをたやすく打ち倒します。メトロポリス市民が見守る前でボロボロにされていくスーパーマン。「力があるだけ」だったはずの彼がその力さえも奪われていくアイデンティティの物語と、ヒーローとしての真の目覚めがぴったり合致した物語の盛り上がりたるや筆舌に尽くしがたいものがあります。

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 恥ずかしながらこのへん読みながらボロボロ泣いてしまった。

 そのうえ、アース1版レックス・ルーサーのオリジンストーリーでもある本作。Vol.1しか邦訳が出ていないのがあまりにも惜しい。甘えるな早く出せ。The New52!のAction Comicsもいいけど、こっちのスーパーマンも最高。

 スーパーマン2とマン・オブ・スティールのいいとこ取りしたような作品で本当に傑作なんだよ…ゾッド将軍ってのはやっぱりこう、既にヒーローであるクラークを圧倒する存在であってほしいし、だからこそ"Bow down!"が、本当に…最高…✌('ω')✌

 


 4.HAWKEYE:My Life as a Weapon


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 MARVEL NOW!っていう初読者向けのシリーズがマーベルでも最近一斉に始まったらしく、これもその一作だとか。ただ、とりあえず新シリーズ1話というだけで、前までの話を知っていないとちんぷんかんぷんな、事実上のシリーズ継続なものも多いみたいです。*2

 そんな中で、初読者でも入りやすくまた、ホークアイというキャラクターの新たな魅力を掘り出した作品として、えらい高評価だったので読んでみました。

 これがめっぽう面白い。アベンジャーズでも数少ない常人ヒーロー・ホークアイの、ハードボイルドを気取るもいまいち締まらない小規模な戦いと日常が、なんだかサブカルっぽいアートで描かれていて、とてもよい。

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 なにせ敵はマフィアの地上げ屋で、ホークアイが戦う理由は、貧乏人らが集う安アパートを地上げ屋から守るためだったりする。アメコミ!!!という絵柄でもないのであの手の絵が苦手な人にもおすすめ。冴えないおじさんだけど決める時は決めるヒーローというキャラは、映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のホークアイにも通じるところがあります。

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 冒頭で高いところから落ちる is 名作。

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 こんなこと言うのも何だけど、各イシューのカバーが、本当にアメコミとは思えないサブカルですごい。

 TPBのVol.2までは日本語訳が出ていて、私もVol.2は日本語訳で読みました。Vol.3も発刊予定があるみたいでとても嬉しい。母国語で読めるならそれに越したことはないもんなあ。

 


 5.Green Lantern: Secret Origin


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 なんかさぁ~、グリーン・ランタンってのがジャスティス・リーグによく出てくるけどさ~、実際どんな来歴なわけ? いや、ググれば大体出てくるけどそういうんじゃなくてさ~、コレ読め!ってのないの? は? いやパララックスとかどうでもよくてさー、リバースが名作って言われてもハル・ジョーダンが帰ってくるまでじゃなくて最初が見たいの、わかる? 甘えんなすぐ出せや、だーかーらー、グリーンアローと一緒に社会問題とか別にいいの! どういう話なのかって聞いてるんですーーー!! 先生に言いつけますーーーー!!! 帰りの会でいいますーーーー!!!と思って探したら出てきたのがこれ。

 日本では映画に合わせて日本語訳が出ていて、ありがたくそちらで読みました。

 現代のスタンダードな娯楽アメコミはこういう水準なんだなあ、と感じ入りました。第一話の再構築といってもライターのエゴが前面に出るようなタイプではなく、そんなに奇をてらわない作風です。でも人間ドラマは骨太で読ませる。

 青年ハル・ジョーダンの空への渇望と、空の仕事を忌避する彼の家族との衝突があり、フェリス航空の若き女社長キャロル・フェリスとのロマンスがある。グリーン・ランタンは生まれついての宿命でも半ば狂気のような意志の産物でもないから、キャラとして弱くなりがちのようだが、本作のハルは「空を自由に飛びたい」という原始的な欲求によって、ヒーローとしての使命を受け入れると同時に家族の問題を解決する。

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 少年の空への憧れ、いいよね…

 典型的ではあるんだけど、強いも弱いも、彼女と上手くいくもいかないも、家族と喧嘩するもしないも、全部己の心ひとつというまとめ方は、腑に落ちざるをえないし、こういうのがあるならちゃんと教えろよバーカバーカと思ったので、ご紹介します。そもそもリングの力は意志の力だもんな、気持ちが定まるとき力が目覚め問題が解決するのが物語というものなんだよな。

 新・第一話という作品ではあるものの、リングのパワーが黄色に効かない理由やシネストロの行末など、今後の展開への示唆に満ちた作品でした。

 それはともかく、グリーンランタンのロゴは、黒背景に白抜きで円形だとかなりサッカーボールに見える。

 


6.Batman: Earth One vol.1


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 カウルの下にバットマンの眼が描かれている。この一事に象徴されるのは、本作の、バットマンというスーパーヒーローを人間にする、という試みである。化け物じみた身体能力もない。現実離れしたガジェットの数々もない。そんなバットマンが犯罪者を追ってルーフトップを駆け回ったら……

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 こうなる。

 この2コマ即堕ちにピンときたら読みましょう。

 Superman:Earth Oneと同じEarth Oneのシリーズで、世界観もつながっています。*3地に足の着いた作風で、まだヒーローのいない世界でヒーローになるべく奮闘する若者たちの物語……といえば聞こえはいいが、バットマンはザコ。ザコすぎる。Vol.1ではシリアルキラーと対峙するが、クールなアクションなど何一つなく、みっともなく泥臭く勝利を掴んでいる。そういう作風がいいと思う人もいれば、ヒーロー物にそんなん求めないよ、と思う人もいる。だから、上の2コマ即堕ちにピンとくるかこないかが大事なのです。

 それはさておき、バットマンがヒーローになっていく過程の描き方がまた楽しい。上のような体たらくで、とてもヒーローとは呼べないバットマンだが、必死に犯罪者と戦ううちに、彼は次第にただの人以上の存在=伝説になる。要するに口コミだ。口コミで尾ひれがついて、足を滑らせゴミ溜めに落ちるだけの男が、不死身のコウモリ男になってしまうのだ。スーパーヒーローをスーパーヒーローにするのは本人の技術や能力だけではなく、ヒーローの姿を目撃し名を呼び交わす市民なのだ。*4

 ちなみにこのバットマンも徐々に進歩しており、Vol.1ではケーブルが絡まって使えないような有様だったのが、Vol.2のラストでは(ついに!)バットモービルが登場します。走行シーンはVol.3以降になりそうですが…

 Vol.2ではリドラーやキラークロック、キャットウーマンになる前のセリーナ・カイルなども登場し、まだまだEarth Oneの世界は広がりそう。Wonder Womanが刊行予定で、Aquaman、The Flashの企画もあるそうです。*5これはゴミ溜めに落ちるバットマン率いるジャスティス・リーグが見られる日もそう遠くないかもしれない。

 Earth Oneシリーズの出来の良さは、普通のアメコミのようなイシューごと刊行ではなく、TPB描き下ろしであることも影響しているのかなあと思います。

 Vol.1は日本語訳も出ていますね。2は気配がない。

 


7.Amazing Spiderman - No One Dies


 The Amazing Spider-Man #655 & #656

 アメイジングスパイダーマンの、結婚がなかったことになるワン・モア・デイというシリーズを経て始まった、ブランニューデイズというリランチ?シリーズの、続きにあたる、スパイダーマン:ビッグ・タイムというストーリーラインの、3つめの話。ややこしすぎてこれ把握するだけで30分くらいかかった。おすすめのスパイダーマン教えろと言ったらティターンズモビルスーツが教えてくれた。ありがとうティターンズモビルスーツ*6

 いろいろあってスパイダーセンスを失ったスパイダーマンが、悪夢の中でこれまでに自分の力不足のために失った人々のことを思い出し、もう二度と自分の周りの人たちを死なせるものかという決意を固め、人の命をなんとも思わない殺人鬼を圧倒的なメカスーツでぶちのめす話です。

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 あんま作品の中身には関係ないんだけど、こういう描写を見ると、ニューヨークって見晴らしが良くていいなーって思います。 日本だとどっかに山が見えちゃうし。

 スパイダーマンの魅力的なところって、常にお金に困っていることや若者らしい恋や冒険もあるけど、失った人のことに思い悩む人間らしい姿もあるんだなあと思いました。いつもどこかに、大いなる責任に基づく救えなかったことへの後悔を抱えているからこそ、スパイディはみんなの親愛なる隣人でいられるのかもしれないですね。

 


 8.WE STAND ON GUARD


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 スーパーヒーローばかりなのも何なので、変わり種を。

 イメージコミックスのオンゴーイングシリーズです。アメリカに侵略されたカナダでレジスタンス活動をする民兵たちの話なのですが、ただそれだけだったら読まないし勧めない。

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  自然の猛威に逆らうことはできない。アメリカの侵略ロボット兵器が来たら、逃げなければならない。これだ。そう、アメリカが操る兵器は戦車ではなく巨大ロボットなのだ。こんなん読むわ。

 内容は正直どうでもいい……とは言わないが、カナダだからかわりとフランス語の台詞があり、本格的に何言ってるのかわからないのがつらい。話は、幼いころにアメリカに家族を殺された女が復讐のために民兵組織に身を投じるというもので、そんなに驚くべきものでもないので何とかなるのですが。

 パシフィック・リムはこんなものも産んだんですね。

 


 9.HULK:GRAY


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 マーベルにはカラーシリーズという、色をきっかけに一人のヒーローのオリジンを回顧する作品群があるのだとか。デアデビル:イエロー、スパイダーマン:ブルー、ハルク:グレイに続き、現在キャプテン・アメリカ:ホワイトがオンゴーイングです。

 デアデビルは初期スーツが黄色、ハルクも緑ではなく灰色の時期があったそうです。大人の事情により色が変わったものを、回顧という形で再解釈しているんですね。

 このハルク:グレイは、MCU作品『インクレディブル・ハルク』の原案の一つであるそうです。話自体は、やはり第一話です。ただ、実際にハルクのコミックを読んでみると、非英語話者にとてもありがたいことがわかりました。なぜならハルクはろくにしゃべらないからな! ハハハ! ハルク、英語、嫌い!!!

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 上は雷に吠えるらへん、下はラストシーンの原案となったページ。『インクレディブル・ハルク』はオーディオコメンタリーも興味深いものが多いです。エドワード・ノートンの監督シーンもわかりますからね。

 それにしてもMCUでのベティ・ロスの扱いはどうなってしまうのだろう。

 


10.GOTHAM CENTRAL


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 最高。

 ゴッサム・シティの刑事たちを主人公にしたクライム・アクションであり、バットマンはヒーローであっても主人公ではない。本部長・ゴードンの薫陶を受けた刑事たちは正義感に溢れ、犯罪がはびこる街をよくするために全力を尽くしている。しかし、ゴッサム・シティにはスーパーヴィランが跋扈している。彼らは、とてもただの刑事の力では取り締まることができない。だから、公式には認められずまた信条としても認められないバットマンに、頼らなくてはならない。

 そんな常人の無力と、それでも懸命に職務を全うする刑事たちの姿が胸を打つ。シルエットだけ、数コマだけ登場するバットマンの扱いも素晴らしい。バットマンというキャラクターの力がなければ成り立たない手法だが、バットマンという土壌があって初めて生まれた傑作でもあるのでしょう。

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 たとえば刑事たちはミスター・フリーズと対峙すれば即殺害されてしまうし、警備の人員をいくら増やしてもフリーズはたやすく突破してしまうが、バットマンなら戦える。刑事らに感情移入する読者は、この一コマにも、安心感と無力感の入り混じった複雑な感情を呼び起こされるでしょう。*7

 狂人の街を守る常人の葛藤がフィーチャーされるIN THE LINE OF DUTYとMOTIVE。続くHALF A LIFEではレズビアンの女刑事が秘密にしていた自分の性傾向や女性との関係を職場に暴露されるというショッキングな展開が待ち受けている。いずれの事件も、一見するとただの刑事事件のようだが、裏の裏へと捜査を進めていくと、必ずスーパーヴィランたちが現れる。だが、捜査に行き詰まった時は、バットマンが現れる。この頼もしさは、刑事視点ならではだ。

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 もっともこれは、しらを切り続けるトゥーフェイスの部下を、これからバットマンが警察には出来ない手法で尋問するというシーンなんだけど。それにしても、ただの黒い影でそれとわかる、バットマンというキャラの強さよ。

 刑事ものだが、ゴッサム・シティならではの刑事ものとして、「大人向きなものがみたければいくらでも犯罪小説があるでしょ」という批判にも応じるGOTHAM CENTRAL。TVドラマ『GOTHAM/ゴッサム』の原案でもあるそうで、ぜひ多くの人に読んでもらいたい傑作でした。一刻も早く日本語訳を出せ。

 


 そんなわけで、時流に乗ってとりあえず10作持ってきた。アメリカの電子コミックの整備状況は本当にすごい。

 実際にいろいろ読んでみると、アメコミ?普通の漫画でしょ…→ジューシーーーーー!!!!!と仮面ライダーグミ状態になること請け負いなので、この機会にアメコミ沼へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

 正直に申し上げれば、これは傑作!というものでも日本語訳が出ていない、出ていても手に入れにくい、日本語訳の電子版となると壊滅、という現実に向き合う仲間が一人でも増えることを願ってやまない。

 11月のDKIIIが楽しみで仕方ないです。

 



*1:「ねえ僕にもセックスチャンスが来そうなんだけど、僕宇宙人だしセックスできるのかな…」と実家のママに電話するクラーク・ケントは必見。

*2:Amazing Spidermanを読んでみたらいきなりピーターがパーカー・インダストリーとかいう会社の代表で、表向きはスパイダーマンに技術協力しているという設定になっていてわけがわからなかった。何でも直前までドクター・オクトパスがスパイダーマンだったらしい。意味がわからんがそう書いてあった。

*3:Superman:Earth One Vol.2で、デイリープラネットの記事のひとつにゴッサム・シティを賑わす蝙蝠男のことが書かれています。今はまだその程度。でもこれからどうなるかはわからない。わくわくするよね、するよね…

*4:バットマン ビギンズはこの辺の演出がすごく好みです。スケアクロウの薬物の効果で空飛ぶ蝙蝠男は恐怖の象徴になってたわけだし。でも子供は助けていたわけだし。巡り巡ってライジングでのバットサインに繋がるわけだし。

*5:今年のサンディエゴコミコンでストラジンスキーがそんなことを言っていた。

*6:片っ端から電子化されてるから、このエピソードが面白いと聞けば即そのエピソードだけ2ドルで買えるのがアメコミのヤバいところだと思います。

*7:私はこういうのを怪獣酋長のイデ隊員問題と勝手に呼んでます。

18 - 「アントマン」なんだか極端な全国の字幕・吹替公開状況

 2015/9/19全国公開の「アントマン」について、全国各地での公開状況が気になったので、TOHOシネマズ分を全部まとめた。

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 正直かなりびっくりしてしまったんだけど、表中赤セルの都心5館(日劇、新宿、日本橋六本木ヒルズ、渋谷)では、初日にもかかわらず吹替上映が1日あたり0回。梅田(大阪)では1回だ。

 逆に地方に目を移すと、おいらせ下田(青森)、サンストリート浜北(静岡)、岐阜(岐阜)、伊丹(兵庫)、橿原(奈良)、長崎(長崎)、宇城(熊本)の7館では、初日にもかかわらず字幕上映が1日1回しかない。

 大雑把に分析してしまうと、市場原理というか、「地方民はバカだから吹替」とばかりのマイルドヤンキーマーケティング怖いねという話なんだけど、こうも極端だと、むしろ都心で吹替が観られないことのほうが異常なように思える。0はおかしいだろ0は。エイジ・オブ・ウルトロンのときはこんなに極端(露骨)ではなかったような気がするんだけど、手元にデータがないからわからん。あるいは、ネットで発信する層の厚い都心で吹替をかけないことで、ネットを中心としたタレント吹き替え批判を躱す意図でもあるのかしら。どこまで行っても下衆の勘繰りでしかないのだが、せっかくまとめたので放流しておく。

 各劇場の吹替/字幕の動員数一覧がほしいところだ。それとも悪の広告代理店にはアメコミ原作映画勝利の上映メソッドでもあるのだろうか。ぶっ潰せそんなもん。

 そうなんだ、じゃあ私アントマン観てからARROWとシーズン3とTHE FLASHシーズン1観るね。

 

17 - 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN PART 1』がよかった

 進撃の巨人の実写映画の前編を観てきた。

 いや、もう、最高。

 

 

1匹の特撮好きとして

 下馬評から、特撮ファンの間では本作が樋口版『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』になるのではないか?と期待が高まっていた、と思う。実際、同作にはきぐるみ怪獣が人間を捕食する衝撃的なシーンがあり、ゴジラに代表される巨大怪獣ではありえない、小さめスケールならではの恐怖が演出されていた。そして、かの大傑作『ガメラ 大怪獣空中決戦』でも、ギャオスが人間を捕食するシーンがあった。

 進撃の巨人といえば人喰いシーン、さあどう来る!と高まった期待が裏切られることはなかった。喰う、喰う、喰いまくる。何より劇中最初の捕食シーンで、喰われる側視点が効果的に使われているのがいい。ただでさえ不気味な巨人が!ひっくり返しで!アアアーー!!!

 しかし、そんなものは半分だ。操演の超大型巨人も、特殊メイクとボディペイントらしき*1、もうちょっと頑張ってほしかった立体機動*2も半分だ。

 変身シーンがね、もう最高だったわけ。

 エレンの巨人化シーンはだいたい原作と同じで、すったもんだの末モブ巨人に食われたエレンが、怒りに燃えて変身し、内側からモブ巨人をぶち破って飛び出してくる。その絵面がもう完璧だ。

 変身は激しい発光を伴う。そして周囲には肉片や血が激しく飛び散る。中心に光と巨人、そして肉片が同心円上に広がり陰影を形作る。まるで万華鏡の中に巨人が躍り上がるかのようだ。そう、まさに、これだ。

 

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 「読み取りすぎ」かもしれないが、本作のエレン変身シーンは、巨人化にともなう夥しいエネルギーの発生と飛び散る肉片というリアリズムをもって、かつて(も今も?)日本中の少年たちが熱狂したウルトラマンの変身シーンはアンリアルではないのだと、力の限り叫ぶために作られたのではないか。

 それすなわち、あ、あ、ああ……

 愛だーーーーーーーーー!!!!!!

 感涙を禁じ得なかった。

 

エレンの戦う理由について

 原作への改変がさまざま施されているが、一番のキモはエレンの戦う理由だろうと。原作は母を殺された怒り、仲間を殺された怒りで彼は突き進み続け、英雄としての使命を手にするのはかなり後半になってのことだ。確か最新刊がそんな内容だったと記憶している。ウオオオオ>╰(・ㅂ・ )╮[ヨロイ])))

 一方、大好評のうちに第一部完! となったTVアニメ版はやや変化球であるように思った。母を殺された怒りや仲間を殺された怒りはそのままに、最終話ではアニ・レオンハートへの屈折した思いが描写されている。アニを尊敬していたこと、そんな彼女を敵として倒さねばならないこと。じっくりと尺を使って積み重ねられた心理描写の中に、エレンはアニを異性として意識していたのではないか、という仄めかしが見えた。巨人になった彼が女型の巨人を倒したとき、確信犯的にレイプ欲求のようなものが挿入されていたのだ。これも読み取りすぎかもしれないが、少年が大人になるという意味合いでは、初恋の相手を殺すというイニシエーションはこの上ないものであり、以降の彼は戦士として認められて然るべきだろう。

 今回の実写映画はいずれとも異なる。

 最初は怒りだ。ここが最大の改変ポイントで、少年時代にミカサが巨人に喰われたことで、彼は怒りを蓄える。しかし、ミカサは人類最強の男・シキシマ(原作のリヴァイにあたる人物)とともに生きて再びエレンの前へ現れる。少年の怒りは、少女の生還によって、一度行き場を失うのだ。

 ならばエレンは何のために戦うのか。道を示すのはシキシマだ。エレンの両親不在の本作において父親のような役割を果たすシキシマに戦う理由を問われ、怒りのやり場を失ったエレンは言い澱んでしまう。そこで、お前は家畜か、と彼は問う。そして冒頭から繰り返される鳥のイメージ。自由の翼! 個人的な怒りではなく、人類の自由という大きなことのために戦う英雄としての決意が明示されるのである。

 ここに性の要素が挟まるのがまたニクい。何かを捨てなければ何かを得られないというシキシマの台詞を踏まえれば、彼が捨てたのは個人的な怒りと初恋、得たものは巨人を駆逐する戦士の覚悟と、巨人化の力だったのだろう。寝取られは最高。N・T・R!N・T・R!イチャラブを捧げよ!(勢いよく拳で胸を叩く)

 正直いって、原作のあまりにも性的でないところが不満だった。極限状況にそれを上回る狂気と怒りで立ち向かう話は素晴らしいが、やっぱり性的なものは否応なしに心を揺さぶるんだ。*3だからこそ、本作は素晴らしいと思った。

 

総評

  ここからは完全に邪推だが、邦画ラインナップのひとつとしてスクリーンにかけるには恋愛要素が必要、だから入れたのだとしたら尚の事最高。クソ恋愛邦画に中指立ててるようなものだし。ゾンビ映画っぽいリア充即死演出含め、なんだか町山センスを感じた。

 何にせよ、さまざまな仕方なさを覆して余りある素晴らしさに満ちた作品だった。子持ちの女が嫌いじゃないなら一見をお勧めする。

 



*1:たぶんそうなんだろうけどそれにしてもすごい

*2:スパイダーマンに真っ向勝負を挑んで負けるくらいなら、暗い画面でごまかし続けるやりかたでよかったのかもしれない

*3:アンチ寝取られ原理主義者や我々寝取られ至上主義者の存在がその証明だし、エレンの童貞をどう扱うかの話なのかもしれん。

16 - ライディングシューズを買った

 二輪ライフ充実のため、ライディングシューズを買いました。

 

pro.rs-taichi.com

 

 これまではバイクといえばブーツだろ…みたいな感覚でライディングブーツや、登山用のブーツを履いてバイクに乗っていたのですが、これが脱ぎ履きがめんどい、締め付けを緩められないのでくるぶしが苦しい、重い、夏場は暑い、などなど、見栄を張るのがバカバカしくなるほどの数々の問題点がありました。

 

【AVIREX公式通販】YAMATO BAIKER BOOTSヤマトバイカーブーツ(6119005) | ミリタリーファッションのAVIREX [アヴィレックス] 公式通販

DANNER LIGHT 3 BROWN / KHAKI | Products | Danner | ダナー オフィシャルサイト

 

 悪くはないし、たとえばアメリカンに乗るならエンジニアリングブーツ以外ありえないとも思うのですが、いかんせん愛車が250のネイキッドスポーツなんですね。

 そこでRSタイチだ。

 このDRYMASTER BOA ライディングシューズはすごい。特にBOAなる謎機構がすごい。

 

シューズの着用は、単にダイヤルを回すだけで簡単かつ、スピーディーに好みのフィット感を得ることができ、途中で緩むことはありません。逆に休憩時等では ダイヤルを引くことで瞬時にレースがリリースでき、簡単にシューズを脱ぐことが可能です。使用中も、少し手を沿えるだけで簡単にフィット感の調整が可能で す。
また当製品のワイヤーレースには、航空機に使われる49本のステンレスワイヤーを束ねて圧縮したものに、摩擦抵抗の少ないコーティングを施したものを使用しており、非常に高い強度と耐久性を誇ります。

 

 まずダイヤルというのがいい。履いた後、ダイヤルをカチっと音がなるまで押し込んでから回して締め付けるのだが、この回すときのクリック感がたまらない。くたばれアップル。くたばれタッチパネル。物理ダイヤルは最高だ。回すものにはな、回しているというフィジカルな実感が必要なんだ。履く、カチカチ…と回す。次第にくるぶしが締め付けられる。「このくらいなら安全かな…?」と思ったら離す。紐のブーツではこうはいかない。

 バイクを降りたら、押し込んだダイヤルを軽く引くと、くるぶしの締め付けがリリースされる。この状態なら、自分の足で歩いていても快適だ。軽く締めてもいいだろう。

 そしてこの魔法のワード、”航空機に使われる”のご登場だ。闘争本能が刺激されるだろう。航空機やNASA、F1マシンなどを引き合いに出されればアホな消費者はたやすく"オ"ちる。お前もそうだろう、俺もそうだ。航空機に使われる49本のステンレスワイヤーを束ねて圧縮したものに、摩擦抵抗の少ないコーティングを施したもの、具体的にはよくわからないけど、✌('ω')✌最高~!

 おまけにこのライディングシューズは防水だ。雨が降っているときにわざわざバイクで走りだすようなマゾヒストではないが、防水と防水でないものが並んでいたら防水のものを買う。お前もそうだろう、俺もそうだ。防水透湿、✌('ω')✌最高~!

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 ライディングシューズ、✌('ω')✌最高~!

15 - アベンジャーズを見るたび思い出せ。

 事の起こりは先週の金曜日。私は地獄のような業務のため、とある地方都市を訪れていた。当日は移動のみで、業務は翌朝から。まったくもって、ビジネスホテルで過ごす夜ほどつまらないものはない。たまにビジネスホテルに泊まるのが好き~♡とか言ってるはてなセンスのクソ野郎どもは、全員超人ハルクにビダンビダンされればいい。お前月の八割をビジネスホテル軟禁生活しても同じこと言えんの?

 そう、アベンジャーズである。

 先週の金曜日、金曜ロードSHOW!枠で、アベンジャーズが晴れて地上波にて初放送された。私も、砂漠で小銭を見つけたような気持ちでテレビの前に座っていた。時刻は夜の8時40分ほど。視聴率を見込めるのだろう。金曜ロードショー、アベンジャーズ!アクション映画の中のアクション映画!という勢い込んだ予告が繰り返し流れていた。

 そこでふと、私は思い立ったのだ。

 これはアベンジャーズ観ながらハメンジャーズ*1するしかねえ、と。

 私がその地方都市を訪れるときは、いつも某巨大ビジネスホテルチェーンを利用し、定宿としていた。そのホテルはエレベータが1基しかなく、どんな客でも必ず、上ボタンを押して待つ間にフロントのほぼ真正面に立ち続ける構造を意図的に取っている。すなわち、デリヘル避けだ。

 だが、その日は定宿が運悪く満室だったため、いつもと違うホテルへ宿泊していた。ここならばイケる、試してみる価値はある、そう思った。かの自動車修理工もこう言っている。男は度胸!何でもためしてみるのさ、と。*2

 まずはGoogle検索だ。しかし時間がない。アベンジャーズが始まってしまう。アベンジャーズを観ながらでなければ何の意味もないのだ。致し方なく、「(街の名) デリヘル」で検索して一番上に出てきた番号に電話してみることにした。

 ダイヤル――おっ、どうみても携帯電話の番号。そうそう、こういうんだよな。地方の出張ってのはさ。数コールで電話が繋がった。だが私には時間がない。そしてこのホテルがデリヘルOKなのかどうかの下調べもしていない。なあに、向こうのほうが玄人だ。まずは訊いてみることにした。

「あのぉ~、(ビジネスホテルの名)って……」

 間髪入れずに返答。「はい大丈夫ですよ! 何号室でしょう?」

「えっと、(任意の数字)号室なんですけど……」

「はい、ただいまご案内しますね~」

 電話が切れた。この間わずか30秒。引き止める間もなかった。アベンジャーズ風に言うなら、ありえないほど高速である。その頃、液晶画面の向こうでは、コズミックキューブからのそりと現れたロキがクリント・バートンの精神を乗っ取っていた。

 しばし待つ。すると電話が鳴った。何事!? と思ったら社有の携帯電話だった。ナメてんのか。

 さらに待つこと10分ほど。ビジネスホテルの扉がノックされた。やってきた嬢について、深く語ることは控えようと思う。だがひとつ、語り落とすわけにはいかない重要なことがある。

 その日の嬢は、なぜかペッパー・ポッツに異様に似ていた。その頃、液晶画面の向こうでは、ロキ相手に苦戦するキャプテン・アメリカの救援に、あの男が颯爽と現れた。ペッパー・ポッツが嬢なら、私は何だ。私は、私は――

 

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 プレイは至って常識的なファッションヘルスのそれだった。途中、数カ月前に飲みに行ったとき、初めてのソープランド体験談をまんざらでもなさそうに、だが少し悲しげに語っていた(ハメておきながら何を偉そうに)高校時代の友人のことを思い出していた。そして、ボーイズラブ漫画の奇妙なフェラチオのことを考え、幼少期から老年期まで一途に添い遂げる文庫化もされた名作BL漫画があった気がするがタイトルが思い出せないなあ、などと首を傾げていた。無論、私はホモではないのでそんなことを考えていたら萎えた。ちょうど素股でイッときますか?というタイミングだったので、正直申し訳ないことをしたと思う。なんもかんもホモが悪い。

 もちろん、私のリトル・アイアンマンは嬢の口内に心地よいリパルサーレイを放ったし、アイアンマンとキャプテン・アメリカの連携でヘリキャリアは墜落を免れた。よく考えたら射精よりアベンジャーズの方が大事な気がしてきたので、延長や二回戦はせずに嬢には帰ってもらった。

 アベンジャーズしながらハメンジャーズという、機運だけを動機にした勃起のせいか、何だか釈然としない終わりだった。*3しかしこれだけははっきりしている。

 あの瞬間、私は確かにトニー・スタークだったのだ。


14 - バットマンvsスーパーマン予告編の字幕

www.youtube.com

 オタクのヒーロー映画まっしぐらな感じのザック・スナイダー監督「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」が楽しみ(不安で)で仕方ないのですが、6/25に公開された日本語字幕付きの予告編が何だかすごかったので、トランスクリプトと並べてみました。

 

 ディズニーマーベルはAoU予告編日本版で映像ごと編集してキャップの活躍やハルクとハルクバスターの激突を削り、クリント・バートンの家族愛をフィーチャーしたようですが、ワーナーDCは字幕で方向性を規制している印象です。

 とにかく対決なんだ、オタクっぽいヒーロー観のこねまわしはちょっと横に置いとけ、という強い意志が見え隠れします。ぶっちゃけた話、そっちの方がいいんだと思うし、なんだか娯楽映画を期待して観に行ったらクソ重苦しいヒーロー観のこね回しばかりが続いて、一億総げんなりして、2週目からの興行収入がガタ落ちする未来が見える気がする。

 いや…まだ予告編が公開されただけ、信じよう…

 

 

Is it really surprising that the most powerful man in the world should be a figure of controversy.

あの世界最強の男が――

脅威になるとは

→論争の的になるヒーローっていうオタクっぽいことをやる気なんだろうし、意訳で的外れではないんじゃないか。

 

We as a population on this planet have been looking for a savior.

人類は彼を信用し過ぎた

→世界を導く救世主のとしてのヒーローっていうオタクっぽいことをやるんだろうし、意訳で的外れではないんじゃないか。

 

We’re talking about a being whose very existence challenges our own sense of priority in the universe.

そもそもアイツは――

他の星から来た"異星人"

その力はあまりにも強大

→字幕にするならこれくらい砕いてもいいんじゃあないか。

 

Human beings have a horrible track record of following people of great...

Power corrupts, and absolutely power corrupts absolutely.

力を持つ者は必ず腐敗する

人類はそれに気づくのが――

遅すぎた

→支持されるヒーローを独裁者と重ねるっていうオタクっぽいことをやるんだろうし、意訳で的外れではないんじゃないか。

 

Maybe he’s just a guy trying to do the right thing.

ヤツが悪に染まれば――

地球は支配される

→ええんちゃうん?

 

We know better now don’t we.

野放しには出来ない

→いいんじゃあないか?

 

He is out of control.

制御せねば

→コントロールに引っ張られすぎでは

 

Devil’s don’t come from Hell beneath us.

They come from the sky.

ジェシー・アイゼンバーグの声っぽいし、大物悪役レックス・ルーサーの台詞だろうから、無視しないでほしかった。

 

The world has been so caught up in what he can do, that no-one has asked what he should do.

→これはオタクっぽいテーマの話なので削れてもいい気がする

 

Go Home! Go Home! Go Home! Go Home!

帰れ!帰れ!帰れ!帰れ!

 

"FALSE GOD"

”偽の神”

→正直申し上げて、ニセじゃカッコつかんし、偽り(いつわり)にしてほしかった。

 

That’s how it starts...

The fever, the rage, the feeling of powerlessness... that turned good men... cruel.

これが始まりです。

熱狂はやがて恐怖に――

無力と知った人類は――

あなたを――

求める

→別に人類がバットマンを求める系の意味合いは無いし、ここばっかしはやりすぎかなあって思った。自分のオリジンを大衆に重ねてぼかして語るバットマンなんじゃないの? 彼は親を殺された無力と犯罪への内なる怒りで狂ってしまったわけだし、バットマン=狂人ってオタクっぽいし。

 

Tell me, do you bleed...?  You will.

お前に血を流す痛みを――

教えてやる

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そうなんだ、じゃあ私、バットマン アーカムアサイラムバットマンごっこするね。

 

13 - 8文字で叫ぶ映画『イニシエーション・ラブ』感想

 その昔バブル景気というものがあったらしい。*1映画『イニシエーション・ラブ』の舞台である1987年は、まさにそのバブル景気まっただ中の時代だ。過熱する消費、見栄と虚飾に国民総出で泥酔した数年間。一説によればキリストを超えたという前田敦子のパーフェクトな笑顔は、1987年という時代を背負ったとき、途端にその色合いを変える。強すぎる光が生み出したあまりにも濃い影とひとつになったとき、前田敦子は、紛うことなき一流の女優として銀幕に輝いていた。あっちゃん最高!

 

 原作は、切れ味鋭い叙述トリックで、クソみたいな恋愛小説がサイコホラーに様変わりする痛快な作品だ。そして映画では、クソみたいな恋愛小説パートの絵に描いたように可愛い女の子を、前田敦子が虚飾満天に好演している。あっちゃん最高!

 恋愛クソ邦画のクソっぷりがバブルの虚しさと重なることで、前田敦子の眼差しには、まるでヨノナカが溶けこんだような真実味が宿るのだ。これがつまらないわけがない。あっちゃん最高!

 そもそも原作からして、「このテンプレうぜえ」と感じることで、読者はトリックに引っかかってしまう。テンプレを勝手に読み取ってしまうのである。そして、前田敦子のテンプレ可愛い女の子(現代の言葉だとサークルの姫になる、たぶん)が、テンプレをきちんと体現できているから、イニシエーション・ラブは面白い作品になった。初見の人は、そこにテンプレを思わず読み取ってしまうだろう。なぜなら、前田敦子は可愛いからだ! アイドルグループをずらっと眺めても、心底可愛いと思える女の子はそうそういない。だが前田敦子はキリストを超えたから、姫を演じることくらい余裕綽々だ。絵に描いた餅でも、上手に描けば芳ばしい香りを感じられるのだ。あっちゃん最高!

 車も音楽もファッションも、時代の要素たる記号たちがみな虚飾として演出されているから、素直なノスタルジーなどありはしない。貫かれているから、結末を知っていると全てがジョークになる。音楽がいちいち笑いを誘い、久しぶりに映画館で腹を抱えて笑ってしまった。正直、原作を忘れ、素直な気持ちで前田敦子との甘い時間を楽しもうと思って劇場へ足を運んだのだが、雑なCGで前田敦子のまわりに花が舞ったとき、もうこらえきれずに吹き出してしまった。あっちゃん最高!(このくらいのネタバレは許してほしい)

 最後の1カットにおける前田敦子の表情がよかった。あの顔のお陰で、繭子の、ひいては前田敦子の格を落とすことなく物語が閉じた。ああ、もうアイドルとか関係ないのにアイドルとしての神秘性まで守られたような気分だった。あっちゃん最高!

 

 前田敦子の主演作をいくつか拝見するに、なんだか日本映画界総出で前田敦子の上手い使い方合戦をしているかのような空気まで感じられる。人の心をつかむ美人はそれだけで物語なんだ。アニメはキャラデザ、映画は女優だ!あっちゃん最高!

 前田敦子とイニシエーションしたいばかりの人生だった。私からは以上です。


*1:おれはそのころ可能性にあふれた23対の染色体だった。なぜこうなってしまったのだろう。