48 - 20191228-29 東伊豆ツーリング

 2016年式のCBR400R(トリコロール)に乗って3年、どうもこのバイクはそこそこのロングツーリングに向いているらしいぞ、と気づき始めた。フルカウルだから風を浴びない、400あるから高速も楽、峠道ではパワー不足だけどそんなに攻める乗り方をしなければ十分。見た目に惚れて新車で購入した車両だが、そこそこのうねり道を攻めずに流すのが好きな自分の乗り方に意外と合っていた。一緒にいて初めて魅力がわかってくる、と書くとなんか人間の話みたいだ。

 というわけで、年末の休みを利用してツーリングに繰り出した。目指すは東伊豆。静岡県西部在住なので、直行すると片道3時間半ほどの行程になる。午前中に出発して数カ所寄り道して食事をして、とすると一泊二日にはちょうどいい距離だ。

 まずは新東名高速を東へひた走り、駿河湾沼津SAで休憩。知らんバイカーに話しかけられる。悪夢のパンツ目CBRがベントされた後に出てきたトリコのCBR400Rは、2年くらいでラインナップから消え、今の400Rは250RRから始まった系統にデザインが刷新された。珍しいためか旅先ではこういうことがよくある。

 そこから箱根峠を経由して、伊豆スカイラインに乗った。途中、悪名(?)高い箱根ターンパイクの入り口を通り過ぎる。もうちょっとパワーのあるバイクに乗り換えたら走ってみたい道だ。

 伊豆スカイラインを走るのは初めてだった。パラグライダーに興じる人々を眺めつつのんびり走る。有料なだけあって途中に公園やレストハウスが整備され、何度か走ったことのある西伊豆スカイラインADCの悲劇:アクサダイレクトコーナーで立ち止まっていたら立ちゴケしてシフトペダルが完全に曲がり、エンジンはかかるもののシフトチェンジ不能になってアクサダイレクトコーナーで誰かー!する羽目になった事件。思い出したくない。)より路面状態もよかった。途中落書きだらけの廃墟があった。あれは一体なんだったのだろう。

 亀石峠ICで伊豆スカイラインを降り、隘路を抜けて伊東の市街地へ。古来の温泉街がユニクロしまむら、ガスト、TSUTAYA、ゲオ、はま寿司などの地方都市の幹線道路沿いフルセットへと置き換えられて、地方の原風景がまさに今上書きされている状態が垣間見えた。

 昼食のため伊豆高原ビール本店に立ち寄った。

 駐車場に車が多数停まっており、経験的に、ツーリング先で出会うそういう店は飯がうまい。しかしここは普通に人気店らしく、家族連れや若者のグループが多く、あまり快適ではなかった。もうちょっとローカル感がある方が好きなんだよな。

 

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 若い人が多いのはこういうSNS映えするものを出すからだと思う。(食べればうまい)

 その後、少し道を戻って今回の目的地その1へ向かった。

 

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 まぼろし博覧会。以前何かで見てからずっと行きたいと思っていた。うん、好きなんだ、おサブにカルなやつ……。

 入って5分で若干来たことを後悔するサブカル具合だった。好きな人はこういうの好きだよね。

 

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 お察しの通り、私も好きです。

 実際に足を運んでみると、半分は本当に気が触れてしまった人の仕業という感じ(地方にまれによくある正体不明の廃墟を娯楽化しているような雰囲気)だが、もう半分はこの手の作品を作る現代美術家や、サブカルをこじらせてSNSで発信したり同人誌を作ったりする人の作品展示場だった。ストリップ研究のパネルの横にツイッターのIDが書いてあったりする。幻想生物や宇宙人の標本なんかも結構あった。月間ムー、エログロナンセンス大正ロマン、昭和レトロ、ホラー、そういった観念のごったまぜ。そういうのを彼らはニューカルチャーと呼んでいるらしい。

 

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 SAN値削れるというか、ゴーストがささやくというか……。

 驚いたのは、少し前に行き先がないと話題になった、東京藝大生が学祭で作った馬頭観音の山車が移設されていたこと。

 

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 保管どころか鑑賞の機会まで与えられるのは作品にとって最も幸福なことだし、とても喜ばしい。一方でここに展示されるとはすなわち無価値の証明のようで、それはそれで考えてしまうが。

 ウーンと悩みつつ次の目的地へ向かう。海岸沿いに走る東伊豆道路をひたすら南下。半島の東側なので、午後になるとずっと日陰になってしまい、オーシャンビューはいまひとつ。このあたりは夕日に富士山まで見える西伊豆に軍配が上がるか。

 そしてえっちらおっちら走っていくと左手に見えるのが、体感型動物園iZooだ。

 伊豆の動物園・水族館は、地方ゆえの生き残り策なのかどこも独特の展示を行っていて、観に行くと非常に楽しい。ここはヘビ!カメ!イグアナ!で押していて、爬虫類にシンパシーを感じる両生類アイコンとしては一度訪れてみたいスポットだった。

 

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 理想の余生トカゲとかガンダムSEEDのOPみたいなトカゲたちとか。イグアナだったかもしれない。

 そして順路を進んでいるとインパクトのある表示が。

 

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 歩いている。順路を。カメが。

 

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 メッチャ触れる。

 

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 おさわりOKのカメがうじゃうじゃいる。人よりカメの方が多い。おっぱいなら全国津々浦々のおっパブに行けばいいが、カメにおさわり大回転したければiZooに行くしかないっぽい。あとウーパールーパーにも触れる。

 

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 これはスリナムメガネカイマン(カッコいい)。

 ニシキヘビと記念撮影!!!なんてスポットもあったが、やめておくことにした。自分の声が杉田智和だったらぜひ撮影したかった。

 特にトカゲが足元を歩いていることはなかったと出てきて気づく。そっちは野生か。

 ここで17時に近づいていたので宿へ向かう。今回は、下田の少し北にある白浜温泉というところの温泉民宿にした。

 

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 夕食と朝食。アジがうまい。もうアジしか見えない。釜飯の中身はサザエだった。伊豆の温泉宿、シジミか何かのようなノリでサザエが出てくる。

 朝食の方の、マヨネーズがかかっている謎の根菜のようなものは、ヒジキだった。こういうヒジキを食べるのは生涯で2回目。メッチャおいしい。もうヒジキしか見えない。

 

 2日目。2019年に数々の非礼を働いてしまった和尚(解脱)(無惨!恥垢浪士☆涙のおまんこ団体交渉)(家族でワクワク☆志摩スペルマ村の聖なる水)(高速金玉増殖炉☆とろとろミルクこくまろ号)(婚姻届とペアリングの写真を上げて結婚報告するのをやめろ)さんに詫びを入れる約束があり、沼津を目指して出発する。

 天城峠あたりを抜けて下田街道を北上して走る。

 

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 大事なことですが、かの名曲「天城越え」は寝取られの歌です。

 下田街道から修善寺道路に入り、少し時間に余裕もあったので途中で降りて三津・内浦方面へ向かう。

 目的地はあわしまマリンパーク

 カエルアイコンなのでカエル館が見たかった。それと、以前にこのあたりを訪れた時はまだラブライブ!サンシャイン!!を未視聴だったので、見えるものが変わるかと思っての訪問だった。

 結果としては、変わるどころかあわしまマリンパークに一歩足を踏み入れれば、チケット売り場から船からなんもかんもラブライブ!サンシャイン!!だった。

 

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 渡辺曜ちゃんはかわいい。

 水族館としては非常に小規模だが、凝ったパネルとラブライブ!で保たせているという印象だった。チケット売り場では無限にラブライブ!サンシャイン!!の歌が流れており、居合わせたキッズが「うるさい!!!」とキレていた。そのまま健やかに、オタクにならずに育ってほしい。

 

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 ペンギンはかわいい。

 

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 これは次のアイコン候補の、いい感じにたそがれたベルツノガエル。

 

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www.at-s.com 

 シャイニー(破産)!

 

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  わざわざキャラクターの誕生日のナンバーを取ったマイクロバスが味わい深かった。

 あわしまマリンパークから市街地を抜け、沼津港へ向かう。

 

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 ゴーバスターズ。

 

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 アジフライ定食にした。写真を取る前にちょっと食べてしまった……。

 和尚(解脱)(無惨!恥垢浪士☆涙のおまんこ団体交渉)(家族でワクワク☆志摩スペルマ村の聖なる水)(高速金玉増殖炉☆とろとろミルクこくまろ号)(婚姻届とペアリングの写真を上げて結婚報告するのをやめろ)さんはバイク帰省の途中で、ちょうどこちらの旅程と重なりそうだったのでお声がけして来ていただいた。20年もののSR400に革ジャンで乗っている姿はまさに男の世界だった。確かにSRには機能性の高いジャケットやブーツが似合わない。しかしチョークを引いてキックでスタートするバイクを横目に一発セルスタートするバイクに乗る、この優越感と敗北感が一緒になったような感情は一体なんなのだろう。さておきツイッターに婚姻届とペアリングの写真を上げて結婚報告した野郎だけは絶対に許さないという認識を共有し、共同声明を発表して別れた。旧年中の数々の非礼を改めてお詫び申し上げます。

 東名高速に乗って帰宅。非常に疲れたがいい旅だった。

 

 しかし、下道やある程度のワインディングを走る限りはCBR400R is 最高という感じでも、峠道になるとパワー不足を実感する。ツーリング寄りのカウル車もいいけど、もう少しパワーのあるネイキッドで峠を攻めてみたくもある。快適性や下道走りの世界観とパワーアップを両立するならXSR700ないし900に風防を着けるのが最適解だが、いっそCB650Rとかでも乗ってみれば楽しい気もする。

47 - ある日の隼坂翠の愚痴 あるいは湊小春の私服について


○隼坂翠 月宿町某所 


「ごめんね。こんなところで呼び止めて。でもこんな話をできるのは、キミくらいしかいないからな~。

 そう。小春のこと。

 わたしがいた釣りサークル。ついに解散だって。男の子は誰も言わないけど、女の子はみんな言ってる。あれ、小春のせいなんだよね。

 最初に小春を誘ったのはわたしだった。だからちょっと責任を感じもしてるんだ。

 いやー、でも、あそこまでとは思わなかったな。

 学部の同期と付き合い始めたって聞いた時、正直ちょっと意外だったんだよね。

 小春ってかわいいしけど引っ込み思案なところあるし。ああいう、いかにも異性慣れしてないような男の子に行くのが、意外だったっていうか。もうちょっと、引っ張ってくれるような男の子の方が、小春とはうまくいくんじゃないかなって思ってた。

 でもさー……

 簡単に言うとさ、その童貞クンは、小春の踏み台だったわけ。

 なんか変だな~、とは思ってたんだよ。すんごい男ウケ狙ったような、フレアフレアしたAラインのスカートとか、リボンチョーカーみたいなのとか。いやそれなに巻いてんのキミ、って言いたくなっちゃうような、こう……すんごいアニメっぽい女の子服を、急に着るようになったんだよね。

 で、なんかデカいの。胸が。

 ただでさえデカいのに、うお~、お前どんだけ寄せて上げるんだ~、って感じで、しかも胸元開き気味で、ちょっと屈んだら鎖骨から谷間にかけて見えるな~、ってのを、着るわけ。

 いや、べつにダサいとは言わないけどさ。

 清楚、って言葉のイメージってさ、結構男女で違いあるじゃん。

 小春の格好は、もう完全に、男から見た清楚だったんだよね。

 悪いとは言わないよ? 言わないけどさ。

 なんかさー……

 わたしと小春、高校から一緒でね。同じ制服着て、同じ教室通ってたの。

 高校までの小春は、彼氏とかできたことなかった。わたしが保証する。同じクラスの男子でも、ちょっと話すとすぐ挙動不審になるような子だったし。

 それがさー……

 で、同期でオタクの童貞クンをコロっとオトして。

 それから、喋り方とかも変わったんだよな~。

 合コンさしすせそって知ってる? 「さすが」「知らなかった」「すごい」「センスいいね」「そうなんですか」の略ね。

 小春、ホントにそういう言葉を使いまくるわけ。で、そんな子が、女子に好かれるわけないじゃん? 異性慣れしてる男子も、ちょっとああいうのは、あざといな~とか言うようになって。

 で、学部で完全に孤立しちゃったんだよね。

 こりゃまずいぜ、とわたしは思ったのだよ。

 で、わたしのいた釣りサーに誘った。

 まー、それが間違いだったのだよなあ……

 小春は、ますますヤバくなっていった。

 いや、よく考えれば当たり前なんだよね。釣りサーなんて趣味人の集まりで、女子なんてわたしみたいなはぐれ者か、ガチのガチガチで釣りを極めてオンナを捨ててるような人しかいないし。あ、その人は普通に彼氏いたんだけどね。

 で、そんなアウトドアしか興味ない、おれたち男と名誉男、やっていくぜー! って集団に、小春が入ってくる。

 マジで目をきらきらさせながらルアーのコレクションを見せてもらって、生餌を見ればきゃあきゃあ言って抱きついて、キャンプ道具を見ればお料理したいなー、バイクで渓流攻めてる人がいれば一緒に乗りたーいとか言うわけ。あんまぁ~い香水の匂いをばらまきながらさ。

 投げ釣りが得意な人がいれば、胸元あたりの筋肉をさ、うわー硬いですねーとか言いつつ、ボディタッチするわけ。相変わらず必ずリボンついてる服で、膝丈ワンピースで、だいたい襟が広めでさ。そりゃ、みんなの目が行くよね。胸に。

 わたしも、こりゃヤバいと思ってさ。ふたたびね。遠出する時なんかは、必ず車出して、小春と他のメンバーがふたりきりにならないようにしてた。ボロいジムニーだけど、無理して買ってよかったって、あの時は思ったなあ。

 で、その頃だったかな。

 わたしも後で聞いたんだけど、小春、ストーカーに遭ってるって、サークルの先輩に訴えてたみたいで。その先輩も、週末の度に海釣りに行くような人でさ。私服もユニクロとワークマン着て最近のはオシャレだぜって笑ってるような人でさ。眼鏡だし、イケメンではないけど、見た目も性格もこざっぱりしてて、いい人だったんだよね。

 それが小春のせいで、様変わりしちゃったんだよ。

 飲み会があれば、小春を絶対自分の隣に座らせるし。話の流れで小春に腕を掴まれてたメンバーを後で呼び出して、くどくど説教したりとかさ。で、そのストーカーってのが、同じ学部の、例の童貞クンだったわけ。

 要は、小春の方が二股かけてたんだよね。童貞クンとは切れてないまま先輩と付き合って、あっちの人ストーカーなんです助けてって泣きつくの。

 うわー、って思うでしょ?

 でもそれじゃ終わんなかった。

 次はサークルの部長だった。小春、最初は、眼鏡の先輩から暴力を振るわれてる、って相談したみたい。で、部長も優しいから真に受けた。夜に部長とふたりで飲みに行くことを何度か続けて、眼鏡先輩のLINEを既読無視して、そしたら眼鏡先輩も怒ったり心配になったりして電話してくる。それを部長の目の前で受けて、半べそかいて、震えながら「今晩泊めてくれませんか」って言う。イチコロだよね。

 部長もさー、結構いい人だったんだよね。親が士業かなにかでお金に困ってなかった人でさ。アウトドア用品もブランド物で揃えてた。そのくせ釣具屋でバイトして、部員が道具を買う時に社割使わせてくれるような、庶民っぽいセンスも持ってる人よ。

 ……気づいた?

 最初はオタクの童貞クン。次はオシャレユニクロの眼鏡。そんでお金持ちで庶民感覚もある部長。

 ステップアップしてんの。着実に。

 で、サークルは滅茶苦茶。

 最初の童貞クンに全然関係ないメンバーが詰め寄られたり、他のメンバーが小春のことをかわいいって言ったらオシャレユニクロが急にキレて殴りかかったり。

 最初に辞めたのは、ガチ釣り勢の女の先輩だったな。わたしが引き止めたら「なんであんなの連れてきたんだよ」ってキレられちゃったし。いやー、そんなに関係悪くないと思ってたんだけどな。あの先輩とは。

 それでも、なんとかしようとしたんだよ。

 今年の夏にね、残ってたサークルメンバー全員で、渓流沿いの温泉に行ったんだよね。風情のある温泉街で、食べるものも美味しいし、釣りもできるし……温泉にも入れる! なんたって温泉だからね!

 でもさー……

 食事も終わって、一通り散策もして、よーし明日は帰れるギリギリまで釣って釣って釣りまくるぞーって夜中にさ、小春がわたしの車に忘れ物したって言うの。

 で、キーを渡して。

 しばらく待つ。

 でも、いくら待っても帰ってこない。ロビーの方行ってみても姿が見えない。もしや、って思ったけど、ユニクロ眼鏡もモンベル部長もロビーで一緒にビール飲んでた。小春がいないところでは仲良さそうで、ちょっと安心しちゃった。

 そうなると、駐車場暗いし、怪我したか道に迷ったのかな、って思って、急に心配になってきてね。行ってみたの。車の方へ。

 そしたらさー……

 今度は別の先輩よ。

 わたしの車の後ろ開けて、先輩が荷台に腰掛けて、足元に小春が蹲って、もうじゅっぽじゅっぽよ。

 は? これ何? 人の車使って何してんの? っていうか車内灯ついてるんですけどバッテリー上がったらどうすんの? ……って言えたらよかったんだけど。

 わたしは逃げた。

 もう、小春が何考えてるのか、全然わかんなくなっちゃってさあ。

 小春のことは心配だよ? そんな付き合い方してたら、絶対いつか自分を傷つけるし。

 でも、わたし、それ以上に……

 小春が気持ち悪い。

 そういうのって、一度気づいちゃったら、もう駄目なんだよね。小春の些細な言葉とか、仕草とかに、ゾワっと怖気が立っちゃう。

 その旅行から帰ってから、わたしはあんまりサークルに顔出さなくなった。

 ……で、解散だって聞いたってわけ。

 車は売っちゃった。好きだったんだけどなー、ジムニー

 小春とも、夏休み開けてからほとんど話してない。

 あ……でもこの前街中で見かけたな。なんでかわかんないけど、ゼミの助教と一緒に。

 うーん、これもそういうことなのかのぅ。

 ね、キミはどう思う?

 わかんないか。猫ちゃんだもんね。

 難しいよね、人間って。

 聞いてくれてありがと。じゃあね。」

  



 

※本記事はフィクションです。また、㈱スクウェア・エニックスおよびゲームアプリ『スクールガールストライカーズ』とは一切関係ないファンテキストです。

46 - 町かどタンジェントと渋谷系の脈絡

 まちカドまぞくのOPテーマソング「町かどタンジェント」に完全に脳をやられたので、その脈絡について、思いつくところをまとめてみることにした。

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 まず、これはド直球の渋谷系音楽だ。力の抜けたボーカルとアコースティックなサウンド、コーラス! しかしそもそも渋谷系とは、元来、90年代に渋谷のタワーレコードHMVの試聴機や、周辺のレコード店主によってもり立てられた音楽群のことである。脱力ボーカルとアコースティックは同じでも、当時の渋谷系音楽には、ファッションの側面があったのである。

 音楽的には欧米のロックやネオアコ。サンプリング。しかし歌詞の世界観には、(主にフランスの)映画やカメラ、役者、写真などのカルチャー、そしてカルチャーの世界の中で主人公になる自分が投影されていた。ただ音楽をサンプリングするだけでなく、時代の流れの中に浮き沈みするカルチャーという曖昧模糊なものをサンプリングして取り込んでいたのである。まさに、耳で聴くファッションだ。

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恋とマシンガン(YOUNG, ALIVE, IN LOVE)- フリッパーズ・ギター(1990)

 

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Candyman - カヒミ・カリィ(1994)

 

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ハッピー・サッド - ピチカート・ファイヴ(1994)

 

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Girl Talk~Never Fall in Love Again~ - Cosa Nostra(1996)

 

 しかしこれも2000年代に入ると様相が変わってくる。渋谷系にカテゴライズされていたアーティストの影響下で出現したアーティスト群、ネオ渋谷系である。そして取り込まれるカルチャーは、海外の、ツンと澄ました映画や音楽から、東京発のものへとローカライズされていく。サウンドも当初のネオアコ志向を残しながらも不思議なことにゲーム音楽へ近接していく。今振り返りネオ渋谷系にカテゴライズされるアーティストには、当時から今まで音ゲー楽曲提供者として知られている人やその関係者も多いのだ。

 

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東京喫茶 - Capsule(2001)

 

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Magical 8bit Tour - YMCK(2004)

 

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Baby Pink - risette(2003)

 

 そして、ROUND TABLEだ!

 ピチカートやフリッパーズに影響を受け、90年代から活動していた渋谷系ネオ渋谷系の中間のような彼ら。

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Feelin' Groovy - ROUND TABLE(1998)

 

 しかし2002年頃から、ゲストボーカルを迎えてアニメソングの世界に進出する。

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 Groovin' Magic - ROUND TABLE featuring.Nino(2005)

 

 そう、同じなのだ。

 グルーヴだのマジックだのハッピーだのキャッチーだの、使うキーワードがかつてから今まで皆同じなのである。野宮真貴はハッピーでキャッチーでグルーヴィーと自己紹介し、フリッパーズの91年のシングルはGROOVE TUBEなのである。サンプリングするカルチャーが変わり、流れる媒体が変わっても、魂としてのハッピーでキャッチーでグルーヴィーが綿々と連なっているのである。そして、この手のアニメソングに進出した渋谷系音楽は、2007年ごろから「アキシブ系」と一部で呼ばれるようになる。アキバ系と合体した造語である。

 加えて、ROUND TABLEは次々と声優アーティストへの楽曲提供を行うようになる。その代表が、花澤香菜とその1stアルバム『clarie』(テーマは『渋谷』!)。好みで挙げるなら、中島愛のTVアニメ『たまゆら』EDテーマだ。

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メロディ - 中島愛(2010)

 

 花澤香菜中島愛への楽曲提供者を見ると、かつて渋谷系で一世を風靡した名が次から次へと現れて驚かされる。宮川弾ラヴ・タンバリンズカヒミと並ぶ渋谷系の歌姫・ELLIEを擁したバンドだ)で、中塚武土岐麻子野宮真貴に縁深い。花澤はシングル「恋する惑星」(2013)リリース時のインタビューで北川勝利のファンであることを公言もしている。

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恋する惑星 - 花澤香菜(2013)

 

 もちろん、ROUND TABLE以外の渋谷系ネオ渋谷系アキシブ系アーティストも黙ってはいない。元Cymbalsの沖井礼二は竹達彩奈に楽曲提供(Sinfonia! Sinfonia!!!/2012年)しているし、アニメ・ゲームの中間領域からは石濱翔アイカツ!に爆弾を投げ込んでいる。

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fashion check! - 作編曲:石濱翔(MONACA/2013)

 

 いやあ、fashion check!は本当に衝撃だった…なんてったって、女児向けゲームという題材を使って、原始の渋谷系が思考していたファッションとしての音楽への回帰を果たしていたのだから。あるいは、ファッションと音楽を繋げられるテーマとして、渋谷系を選択した結果の曲なのかもしれない。

 さて、時代を30年ばかり駆け足で舐めた後にもう一度聴く「町かどタンジェント」はどうだろう。

 気怠げなボーカルとアコースティックなサウンドをアニメ声でパッケージングし、そこに少しのオシャレを内包したサウンド。そしてハッピーでキャッチーでグルーヴィー。なにせOP映像では謎の生物が音楽に合わせてゆるく踊るし、ぱやぱやとコーラスするし、謎の西洋風の街並みまで出てくる。おっ、これは恋とマシンガンのPVで見たね?そう、見たんだ。これは渋谷系の最新の子孫なんだ!俺は間違っていない!(壁に激しく頭を打ち付ける)

 特に画期的だと思ったのが、(半分を映像に依存した)オシャレへの回帰だ。渋谷系は時代とともに変質するにつれ、取り込み先を貪欲に広げ続けた。その結果、原始の渋谷系が持っていた、ツンと澄ましたカルチャーへの無限大の憧れのようなものが薄れていた。一方で、カルチャーへの無限大の憧れという精神性がオタクのそれと近く、それゆえにアキシブ系が発生したという分析も成り立つのだが。

 しかし町かどタンジェントの最後の歌詞はどうだ。「お楽しみはこれから」。意図したものかはわからないが、これは1927年の世界初のトーキー映画『ジャズ・シンガー』において、世界で初めて音声で発せられた映画の台詞と共通している。You ain't heard nothing yet!!!(※諸説ございます。)

 まるで原始の渋谷系への先祖返りか、隔世遺伝のようだ。そう、まさに、シャミ子の角&尻尾と同じなのだ! ああ、これが言いたかった。これが言いたいがために、死んだブログを引っ張り出したのだ。まちカドまぞく、いいアニメ。町かどタンジェント、いい曲。それだけでいい。おのれ魔法少女、これで勝ったと思うなよ。

 

(追記)

 後で気づいたのだが町かどタンジェントの作詞作曲編曲を務めた辻林美穂はTWEEDEESと一緒に仕事をしている。

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  2017年にMV出演。その後アルバム『DELICIOUS.』収録の数曲で編曲や演奏。TWEEDEESが元Cymbalsの沖井礼二が若いオンナを誑かして好き勝手やっているバンド(※諸説ございます)であることを鑑みるに、町かどタンジェント渋谷系サウンドが生まれた背景には沖井礼二の影響があるのではなかろうか。

45 - ガルラジ各キャラクターのBase Ball Bearイメージソング集

 これが俺の恥だ。対戦よろしくお願いします。

 参照:https://garuradi.jp/

 あとは「ガルラジ イメージソング」とかで検索すれば今が何年なのかわからない悲しい人たちのブログが次々とヒットすると思う。世はガルラジじゃ!!

 


チーム岡崎


・二兎春花

PERFECT BLUEPERFECT BLUE

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 普通の女の子としての春花っち、夢に迷う思春期としての春花っち、無限大の可能性からの不安を感じている春花っち。いつも応援されているからこそ、春花っちを応援する曲にしたかった。鉄塔と煙突のある風景に形のない不安を抱く注ぎたてのサイダー、二兎春花。二十九歳版もいいけどやっぱりEP版だよね。

 

・萬歳智加

レインメーカー(C2)

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 頭でっかちな智加ちゃんはたぶん周りがバカに見えることと、自分の未熟の間に葛藤しているのだと思う。目標があることと不安がないことはイコールじゃない。自分が決めた道と家業を継ぐ、支える道の選択に迷い続けているだろう智加ちゃんらしい曲だと思った。C2は好きな曲しかない。

 

・桜泉真維

BREEEEZE GIRL((WHAT IS THE)LOVE & POP?)

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 真維さんは海になりたいpart.2とかなり迷ってこっち。自分らしさに迷わない時の真維さんの暴風のような勢いにはこの曲しかない。こうあるべきという自分に自分を当てはめていく楽しさと、その中にある一抹の不安。それを吹き飛ばす自分らしさという風になっていってほしい。女の子の最高傑作、桜泉真維。

 


チーム富士川


・年魚市すず

Typical Girl(PERFECT BLUE

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 PERFECT BLUEのEPに収録されている関根さんボーカル曲。遠くで目一杯輝いている友達への憧憬と、ヘッドホンを着けてひとりノートに歌詞を書き付けていそうな世界観がすずっぽいなと思って選んだ。ちなみにこの曲にもベボベ頻出モチーフのサイダーが出てくる。当然ながら春花に選んだ曲とセットだ。君への思い、飲み干したい。年魚市すず。

 すずはFunny Bunnyもいいなと思う。

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・白糸結

恋する感覚(THE CUT)

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 かわいいね。何がきゅるりだ。白糸結。恋してしまうぜ……

 花澤香菜歌唱曲ではこれと恋する惑星がツートップで好きです。

 

・金明凪紗

school zone(新呼吸)

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 おれがベボベで一番ヘビロテしてるアルバムとして知られる新呼吸から。アホとバカでもきらきらしているすずと結を眩しそうに眺めている凪紗さんの姿(ラジオなのでそんなものはない)が、曲の世界観にマッチしていると思って選んだ。

 


チーム双葉


・玉笹彩美

美しいのさ(C2)

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 自堕落で、語る夢ばかり大きくて、バカでまぬけで自分だけでは何もできなくて、でも憎めない彩美のための歌。これも関根さんボーカル。たぶん彩乃はこういう気持ちで彩美のことを毎日見ているのだと思う。しょっちゅうソファで熟睡してそう、玉笹彩美。

 

・玉笹彩乃

海になりたい - part.2((WHAT IS THE)LOVE & POP?)

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 なんだかんだで現実を見てる。でも夢見るような日々を送る彩美のことも見てる。そして自分が現実を見たために失くしたものを彩美の中に見てる。だから彩美が泣くとき一番そばにいるのは彩乃に違いない。海なし県のど真ん中で、溺れる彩美も笑う彩美も包み込む海みたいな女の子、玉笹彩乃。

 

・玉笹花菜

YOU'RE MY SUNSHINEのすべて(C)

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 三姉妹の太陽だから。迷える双子にとって、まだ何者でもない花菜はただ可愛いだけではなく、希望であり願いなのだ。花菜に、彩乃は彩美のようになってほしいと、彩美は彩乃のようになってほしいと思っているんじゃないか。でもその間で、なんか素晴らしいものを手に入れそうな女の子、玉笹花菜。

 


チーム徳光


手取川海瑠

GHOST TOWN(二十九歳)

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 この街を早く逃げ出そうぜ!という連呼。これが手取川海瑠の歌でなくてなんだというのか。田舎の街に引きずり込まれて自分が自分でなくなる前に、本当の自分らしくなれる東京に逃げ出したいという田舎の思春期青少年の心情、つまり手取川の心そのものがある歌だ。

 

・吉田文音

そんなに好きじゃなかった(二十九歳)

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 これは白山に帰る吉田さんに呆気なく振られた東京の男の歌です。という冗談はさておき、吉田さんはどんなものにもそんなに好きじゃなかったと言って、自分が傷つくことを避けるような人だと思う。2ndシーズンでは地元愛を語る彼女も、きっと東京では東京愛を語るに違いない。お前の口から、あっけらかんとは口にできない「好きだよ」を聴きたい。吉田文音

 吉田さんは東京(DETECTIVE BOYS)と迷った。

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チーム御在所


・神楽菜月

ストレンジダンサー(THE CUT)

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 石油の匂いがして人口密度の低い街に不思議って本当にあるんだろうか。だからネットの向こうにそれを探すんじゃないだろうか。1stでは東京の話をしていた。宇宙に引かれるのは、すぐそこに宇宙よりも神秘的なものがないから。だから仲間と一緒にそれを探すんじゃないだろうか。ずっと内面を見せないかぐりんには何か大きなものが隠れているような気がして選んだ曲だ。ストレンジダンサー、神楽菜月。

 

・穂波明莉

WINK SNIPER(十七歳)

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 誰もがひと目で恋に落ちるような女の子が見つめているのは女子小学生。明莉ちゃんの倒錯は一体どこから来るのかさっぱりわからない。そのわからなさがいいのだ。潤わしいその目がお麗しいピンクフラワー、穂波明莉ですわ。

 

・徳若実希

ぼくらのfrai awei

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 おバカで小学生と高校生に手玉に取られる子供お姉さんにぴったりの情けない曲を選んだ。とくちゃん絶対同窓会に呼ばれなかったことをネットで知ってどんよりしてかぐりんと明莉に慰められてると思う。心のウエストポーチは外さないでほしい、徳若実希。

 

 

2019年だぞ…

 

 

以上

44 - 旧遊郭・島原を訪ねる 20190811

 京都アニメーションへの献花目的で京都へ行ったので、ついでに島原へ行くことにした。

 東の吉原、西の島原。いい響きだよな。島原というと、幕末・新選組もののフィクションによく出てくる印象がある。しかし現在は衰退に衰退を重ね、往時の姿を残す建物は数軒しかない。その第一の原因は格式が高すぎたことで、第二は、1851年の大火なのだという。島原のほとんどの建物はこの時に焼失。多くの店は祇園で仮営業したが、そのまま戻ってくることはなかった。

 明治になると公家や武家が大枚はたくこともなくなり、古来の芸姑はどんどん数を減らし、娼姑メインの街に。だがそれも昭和33年の売春防止法で止めを刺される。現在、古来の格式高いお茶屋として営業しているのは、「輪違屋」という一軒のみである。

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 エリアとしてはこんな感じ。最寄りとしてはJR嵯峨野線丹波口駅となる。直前に梅小路公園京都鉄道博物館京都水族館を見物していたため、南側から細い路地を抜けて歩いた。

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 周辺には古めかしい木造建物がちらほら残っている。

 

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 それでも基本的には住宅街で、かつての花街の空気は感じられない。

 しかし近づいていくと、外からの目線を拒むような道の入り組み方が、完全に遊郭だ。

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 東の入り口に、今も「島原大門」が往時のままの姿で残されている。

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 門、そして見返り柳。うう~ん遊郭。これですよこれ。

 この門は1867年、慶応3年に建てられたもの。実に築152年である。江戸時代来ちゃったよ。

 門を潜ればすぐ、ちょっと小洒落た住宅街だ。「花屋町通り」といい、石畳が敷かれている。かつての建物を再利用したようなカフェや、性的サービスがない純粋な銭湯があったりする。

 

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 民泊かゲストハウスのようなものにリノベーションされた建物もある。調べてみると、1泊5000円を切る格安で、京町家に泊まれる!と宣伝されていた。

 

 そして通りを一本折れると、いかにも往時のままの建物があった。

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 この「輪違屋」が現在島原で唯一営業している置屋。マジで現役のなんとか太夫がいるらしい。江戸時代かよ。

 出入口のところには「観覧謝絶」という張り紙があった。見学はお断りという意味かな、と思うじゃないですか。これが京都の言葉では、一見さんお断りっていう意味になる。これが京都である。

 なるほど…と実感しつつ、”小洒落た住宅街”を見てみると、路地の角のところの住宅にあるわあるわ、例のアレ。いけず石です。これが京都である。

 当時のままの建築がもうひとつだけ残されている。

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 このものすごい格子の建物が、現存する日本唯一の揚屋造りである「角屋」。現在は「角屋もてなしの文化美術館」として一般公開している、はずだが、訪れた時は改修中だった。内部には新選組の残した刀傷もあるらしい。

 そして当時のままと思われる遺構がもうひとつ。

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 島原住吉神社。この神社の前だけは舗装も何もされずに砂利道になっている。何やら揉め事の気配がする。

 

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 裏手は駐車場になっているが、その角に神社の飛び地のような敷地が残されている。弁財天が祀られた巨大な銀杏の木は樹齢300年なのだという。これを切れなかったのだろうなあ。

 

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 うろうろしている間にも、年季の入った建物が取り壊されている現場に遭遇した。角屋、輪違屋、大門が残っているだけいいと考えなければならないのかもしれない。

 

以上

43 - 旧赤線・五条楽園を訪ねる 20190812

 物心ついた時から風俗が好きだ。特に遊郭、花街、赤線といった熟語を見ると興奮のあまり脳が沸騰して細胞がどんどん死んでしまう。文化と享楽、合法と非合法の狭間に身を置くのが心地いいのだ。働く人がいなくなった遺構なら最高だ。これぞサブカルという感じがする。

 というわけで、京都アニメーションへの献花のため京都へ行ったついで(?)に、旧赤線・五条楽園を訪ねた。

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 エリアとしてはだいたいこのあたり。鴨川と高瀬川の中洲を中心にかつては100店舗以上のお茶屋や旅館、置屋が軒を連ねていたのだという。いわゆる文化的なお茶屋は一見さんお断りだが、ここは違う。芸姑たちがお稽古に励む場はあったが、実態としては飛田新地に近い形態だったと伝えられている。というのも、2010年に官憲の手が入り、経営者らがお縄に。お茶屋組合も解散し、現在は風俗街としては完全に壊滅状態なのだ。

 かつては芸姑と娼姑の花街(京都人は「遊郭」という言葉を使われることを嫌うのだそうだ)。昭和33年の売春防止法施行後はいわゆる赤線。そして今は、兵どもが夢の跡である。

 西側の河原町通から一本折れると、いかにも新地らしい車が対面通行するのも難しいほど路地になる。表通りからの見通しの悪さも、いかにも、である。

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 本家三友の跡地。立派な唐破風を持つ色気と風情ある建物である。唐破風のてっぺんをよーく見ると「樓友三」と書かれている。これを見られただけでも来た甲斐があったというもの。今も高級ソープレポなどを見ると「登楼」という表現を使う人がいるじゃない。

 界隈を歩き回ると、多くの建物が現代的な建築に置き換わっていることに気づく。戦前に建てられたと思しき遊郭建築は1/3ほどか。赤線時代の建物が1/3で、残り1/3がごくありふれた住宅になってしまっている。

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 往時を偲ぶような町並みは刻一刻と姿を消している様子。まさに消えていく過程が今だ。

 

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 いかにーも赤線時代に旅館業に転業した感じの建物。味のある建築だが、もはや廃墟。自転車があるということは人が住んでいるのだろうか。ちなみにこのすぐそばに怖い人たちの事務所がある。思わず足早になってしまう。今はこうして観光もできるし写真も撮れるが、ほんの10年前なら、同じことをしたら鴨川の鮎のエサになっていたかもしれない。

 

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 小洒落たタイル張り。今の利用状況は通りすがりにはわかりかねた。

 一方で、当時の陰陽から建物のよさという陽だけを切り取って保存するような、リノベーション済みの旅館、飲食店も点在する。旅館については格安のゲストハウスのようなものが中心で、客の多くは外国人と思われる。

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いっぺん泊まってみたいリノベーション済み旅館と、鴨川沿いの小綺麗な店舗群。

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 こちらは高瀬川沿いのバー。ここまできれいにされると風情がないな、と思わないでもない。
 屋号っぽいものを探す。

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  二枚目は驚くべきことに住人がいる。最高気温が38℃に達する酷暑だったが、表の扉を半ば開き、高瀬川からの涼風を室内に取り込んでいた。

 

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 これは築102年(大正6年!)、かつては芸姑さんらが稽古に励んだという歌舞練場「五條會舘」。オーラがすごい。取り壊しが決まっているとのことで、いつまで見物できるかも定かでない。

 

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 エリアの外れにあるアパート。住人がいる気配はなく、ほぼ廃墟である。街のバックボーンを思うと、かつての住人についてもなんとなく想像がつく。

 

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 のどかに流れる高瀬川

 お茶屋の跡、お茶屋が転業したらしい寂れた旅館かアパートのようなもの、そしてわずかにリノベーションされた観光客向けの店舗。だが今の主役は住民のようだ。

 見物しに行ったその日にも、相当な築年数と思われる木造家屋が取り壊されている現場に遭遇した。タイル張りのカフェー建築の方はもうしばらく生き延びてくれそうだが、本家三友にしてもいつまで残っているかわからない。歓楽街としての死から観光地としての生まれ変わりが遅々として進んでいない様子なのは、訪れる者としては幸いかもしれない。気力を吸い取られるような寂れた空気が嫌でも印象に残るのだ。

 

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 エリアの端にはこんな祠のようなものが点在している。花街の区切り?

 考えようによっては、今も事務所を構える怖い人たちのおかげで、かつての雰囲気が生き延びていられるのかもしれない。なんとか折り合いをつけて花街から赤線への時代の流れを保存できないものか。完全に消える前にもう一度くらいは訪れてみたいと思った。

 

以上

42 - ガルラジをゆく 富士川から双葉

 ガルラジにドハマリしている。

 浜松在住なので、最寄りは岡崎だが県民意識のため推しは富士川。そして土地柄、新東名に乗って西進すれば岡崎、その先にいくつか高速道路を乗り継げば御在所、そして東名を上れば年魚市に会える。すずすず。スナック感覚ですずすずできる土地で本当に良かった。

ゆるキャラグランプリみちまるくんに投票する。うなもなど知るか。

 問題は、双葉と徳光だ。徳光は、まあどうしようもないので別の機会を伺うとする。しかし双葉は、そんなに遠くなさそうなので、行ってみることにした。

 

 まずは浜松から東名を走り、EXPASA富士川上りへ。2回目の訪問で、カード配布が始まってからは初めてだった。

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 せっかくなので、富士宮やきそばも食べた。番組で紹介してた「うるおいてい」のやつ。

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 しかしキービジュアルで白糸が食べているのは透明パックなので、どちらかというと富士川楽座の「どんぐり」の方じゃないかと思う。

 さて、問題はここから。

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 東海圏から山梨は結構行きにくく、どうしても途中峠道を抜けることになる。さもなくば富士の東を回るしかない。中央道直結な分だけ、東京圏からの方がアクセスがいいのだ。

 西へ帰る都合上、Googleがサジェストしたうち、行きは真ん中、帰りは左で走ることにした。

 まずはEXPASA富士川から更に東へ上り、富士ICを降りる。国道139号、西富士道路である。走り始めてすぐ、足であるNCロードスターの走りに若干違和感があった。それもそのはず、ICを降りてすぐの土地でも、平地のように見えて若干北が高くなる方に傾斜している上り坂だった。富士の裾野を実感させられた。

 そのまましばらく北上すると、次第に天候が悪化し、32℃あった外気温が22℃まで低下する。見えてきたのはゆるキャンの聖地でもある、朝霧高原である。右手に道の駅朝霧高原、左手に本栖湖。さすがにツーリング目的のライダーも多かった。天気がいい時を見計らって、今度は二輪で来たい。

 更に北上し、精進湖のところで左折する。道の名前が国道358号・精進ブルーライン(旧・甲府精進湖有料道路。1994年に無料化)に変わる。入り口には有料道路時代の電光板があった。

 距離は短いが精進湖の湖畔を走る。あまりきれいな湖ではなかった。ちっさいしな。なんてったってこっちには浜名湖があるからな。富士五湖だかなんだか知らないがザコ、ザコです。

 曲がりくねった峠道国道を抜けると、初めて訪れるはずなのによく知った地名に行き当たる。

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 旧上九一色村である。

 通り過ぎてきた精進・本栖のあたりは富士河口湖町、地図で示したあたりは甲府市編入されたらしい。

 上九一色という地名は2006年で消えている。オウム事件で知れ渡った名前を消してしまいたいという思いがあったのかもしれない。それでも駐在所や市役所の出張所の名前としては残っている。正直、これらがなかったら、"あの"上九一色村にいるとは気づけなかった。

 更に進むと寂れた田舎道がずっと続く。ハッピードリンクショップがあり、ハッピードリンクショップがあり、ハッピードリンクショップがある。道沿いに児童福祉施設も見つけた。人里離れた土地にひっそりと、人目を避けるように佇む児童福祉施設に、思うところがないでもない。この世はみんな普通だから普通でないものがあるはずがない、という無邪気な差別が、彼らを目に見えない場所へと追いやったのだろう。

 そうして走り続けること1時間と少しで、中央道甲府南ICである。

 高速に乗ると、陰鬱な気分を吹き飛ばすような夏の青空と白い雲、そして南アルプスの威容が広がる。今行くぜ令和最初のスーパーセクシーアイドル。甲府南から双葉SAまではほんの10kmほどである。

 到着である。

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富士山カレーはキービジュアルに従い青いやつにした。聞きしに勝る衝撃的なビジュアル。

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 我らがチーム富士川がインチキで不正解になったやつによく似ているのもあった。ソフトはアイスに入るだろ、許せねえ…。

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  帰り道は、中部横断自動車道を通ってみたかったこともあり、以下のルートを選択した。

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開通済み区間はこんな感じ。

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 2020年内にはこの区間も繋がるらしい。繋がりさえすれば双葉-富士川間も富士の西側で高速に乗ってるだけで行き来できるようになる。岡崎、御在所からのアクセスもよくなる。そのころガルラジは何ndシーズンになっているだろう。そもそも3rdはあるのか?

 ちなみに中部横断自動車道には全長約5kmのクソ長いトンネルがある。樽峠トンネルといい、ここが山梨・静岡の県境になっている。危険物を積んだトラックが走れるトンネルとしては日本最長らしい。参考までに、約5kmとは正確には4999m、そして法律上、危険物を積んだトラックが走れるトンネルの長さは5000m以下と決まっている。ズルである。

 もっとも、高速道路といっても大半は対面通行で70km/h制限の、バイパスに毛が生えたようなもの。事件事故が起こった際にパトカーや救急車が通れるかも怪しい。

暫定2車線は世界の非常識 日本の高速道路、その課題 | 乗りものニュース

 でも開通してくれると温泉行く時に便利なんだよなあ。三遠南信自動車道ともども。

 帰りにNEOPASA静岡に寄り、TEAM FUJIKAWA RADIOの今週の無茶振りで白糸が紹介していたみかんサイダーを買う。

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 やっぱりチーム富士川は負けてないと思う。すずすず。

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以上