81 - 2022年成人向けコミック雑誌(成コミ誌)サンタコス表紙絵調査 報告書【2022/12/25追記】

2022年成人向けコミック雑誌(成コミ誌)サンタコス表紙絵調査 報告書【2022/12/25追記】

 

1.概要
 日本の成人向けコミック雑誌(成コミ誌)の2022年12月号~2023年2月号を対象に、表紙イラストのサンタコス率調査を行った。結果、2022年のサンタコス率は、8.42 %だった。

 一方、過去の調査との整合を目的に調査対象を紙媒体に限った場合のサンタコス表紙絵率は、21.7%だった。これは、前回2019年調査時よりも上昇しているが、2013年からの長期トレンドは減少傾向にある。

 

2.背景
 2022年も成コミ界は激動の連続だった。老舗成コミレビューブログ『ヘドバンしながらエロ漫画!』の休止や、『COMIC 艶姫』の創刊と休刊、FANZADMM.com)のMasterCard決済終了、コミックとらのあな 秋葉原店Aの閉店等のニュースが飛び交い、東京五輪によるアダルトコンテンツ粛正の嵐が過ぎ去っても、成コミ界に安息の時は訪れていない。殊に、 FANZADMM.com)のMasterCard決済終了については、欧米を中心としたESG投資の流れが、極めて個人的な行為であるセルフプレジャーにまで及んだとも考えられる。世界からの栄光ある孤立すら許されない性器たちの悲哀がインターネットに木霊したのである。
 しかしながら、成コミ誌は絶えることなく発刊され続けている。
 サンタコスの美少女キャラクターたちは、今年も読者に艶めかしい姿を晒している。
 成コミ誌におけるサンタコス表紙とは、矛盾を孕んだ存在である。かつて、成コミ誌の主な読者層であるオタクたちは、メディアを憎み、メディアが推奨する消費を憎み、クリスマスを憎んでいた。2006年に結成された“恋愛資本主義”の打倒を掲げる団体『革命的非モテ同盟』は、休止を挟みつつも今日に至るまで『クリスマス粉砕デモ』を継続している。しかし彼らに代表されるようなオタクも、憎むはずの文化が紙面の上で展開されているにも関わらず、サンタコスの美少女キャラクターが表紙を飾った成コミ誌を読むのである。サブカルチャー信奉者による、メディア主導消費カルチャーへの愛憎の止揚がサンタコス表紙なのだ。
 しかし、このような文脈が、現代においても共通していると考えることは難しい。象徴的といえるのは、最大手にして成コミ誌の標準である、『COMIC快楽天』である。2014年1月号の、鳴子ハナハル先生によるサンタコス絵以降、『COMIC快楽天』の表紙をサンタコスが飾ったことはないのである。なお、これは2019年のコンビニ売り終了に先行している。
 この現象を理解するには、『COMIC快楽天』は標準であり、最大多数の欲望を反映していることを考慮すべきである。すなわち、成コミ消費者の最大多数に対し、『サブカルチャー信奉者による、メディア主導消費カルチャーへの愛憎の止揚』という文脈が通用しなくなっている、換言するならば『ダサい』と受け止められていると考えられるのだ。
 時代は移ろい、世代は入れ替わる。ここに、成コミ誌サンタコス表紙絵率を調査する意義が生じる。成コミ誌サンタコス表紙絵率は、成コミ読者と、消費喚起のためにメディアが主導するカルチャーとの距離感の反映であると考えられる。特異的にサンタコス表紙絵率が高い成コミ誌は、読者層の入れ替わりが起こっていないことが示唆され、また、電子専売・低価格で読者層の入れ替わりを狙った雑誌の表紙にサンタコス絵があれば、時代がさらに移ろいサンタコスが再発見されている現代を反映しているとも考えられる。
 以上のような背景から、今回、成コミ誌サンタコス表紙絵調査を実施した。なお、本調査は、例年林Project(株)により実施されていたが、今年については同社の製造部門立ち上げと年末の展示即売会対応により調査の実施が困難になり、当社が業務を受託した。

 

3.調査方法
 22社39誌の成コミ誌のうち、2022年12月号、2023年1月号、2023年2月号を調査対象とした。Vol.表記等の場合は発売日を確認し、2022年10月発売を2022年12月号、2022年11月発売を2023年1月号、2022年12月発売を2023年2月号とみなした。
 雑誌には一部電子専売のものが含まれる。また、既発表作を再録したアンソロジー誌については原則割愛した。なお、調査対象に含めるか否かは、最終的には雑誌の性格等を勘案し個別に判断している。
 上記3号の選定は、クリスマスをイメージさせる12月号と、12月に発売される2月号にサンタコス表紙絵が掲載される傾向にあることによる。
 調査については、出版社公式WebサイトまたはFANZA等の電子版販売サイトの目視確認により行った。
 表紙絵をサンタコスであるか否か判定するにあたり、一見してサンタコスであると認識できないが、サンタコスでないと断定することも難しいものについては、外部の成コミ有識者集団に依頼し多数決により決定した。『Web配信 月刊 隣の気になる奥さん vol.067』『comicクリベロン DUMA Vol.43』『Comic Trigger Vol.15』が該当する。

 一方、2013年、2016年、2019年に、林Project(株)により実施された調査では、調査対象を紙媒体の成コミ誌に限定し、雑誌タイトル数を分母、調査対象期間内に1冊以上のサンタコス表紙絵号が存在したタイトル数を分子として集計していた。サンタコス表紙絵の長期トレンドを確認するため、今回調査についても、同様の基準で別途集計を行い、過去の結果との比較調査を試みた。

 

4.結果
 表1に結果を一覧する。

 サンタコス率は8.42%となった。

 次に、表1に示した調査対象から紙媒体のみを抽出し、タイトル数を分母、期間内に少なくとも1号のサンタコス表紙がみられたタイトル数を分子として集計したもの(サンタコス採用率とした)を表2に示す。

 

 サンタコス採用率は21.7%となった。
 次に、表2のように得られた今回のサンタコス採用率を、同様の基準で集計された過去の調査結果と比較したものを、図1に示す。

 

 直近の調査である2019年の結果と比較するとサンタコス採用率は上昇している(+3.5%)が、2013年からは大幅に低下しており(-20.7%)、全体としては減少トレンドにある。


5.考察
・成コミリベラル
 まず、『ワニマガジン社』『コアマガジン』の二大巨頭にサンタコス表紙絵がないこと、これに『文苑堂』と『ジーオーティー』を加えてメジャー4社としても、『COMICアンスリウム』以外にサンタコス表紙が存在しないことが特筆に値する。『COMICアンスリウム』のサンタコスも相当な変化球であり、読者が多く、また多くの読者に受け入れられる作風の雑誌が、現代においてはサンタコスを定番とはみなさず、避けているといえる。成コミリベラルである。

 

・成コミ保守
 また、『コミックマショウ』『COMIC阿吽』のような、老舗かつ表紙イラストレーターが固定(『コミックマショウ』はうるし原智志先生、『COMIC阿吽』は深崎暮人先生)である雑誌がサンタコス表紙を採用していることも特徴的である。メジャー4社とは作風が異なる雑誌であり、読者層も固定されており保守的であると考えられる。あるいは、イラストレーターが冬のサンタコスに特別なこだわりを持っている可能性もある。成コミ保守である。
 
・成コミ第3極
 一方、電子専売の『comic Trigger』、東京五輪に伴うアダルトコンテンツ粛正の嵐の中で産声を上げた紙媒体の『COMIC リブート』が共にサンタコス表紙を採用していることも興味深い。定番に対する回帰であるとも考えられ、これらの雑誌の動向が今後の読者におけるサンタコス表紙絵の受容を示唆しているともいえる。成コミ第3極である。

 

・過去の調査結果との比較について
 2019年まで一貫していた減少傾向が踊り場を迎えている。これは、上記のような成コミ誌の党派性が明らかになり、保守的で入れ替わりの少ない読者層の一貫した需要に応えてサンタコス表紙を堅持する雑誌が選別された結果であると考えられる。
 一方、サンタコスの減少トレンドは明らかである。ここで、成コミ誌がポルノコンテンツであり、性行為の代替とみなされ、また性的パートナーを持たない人々に愛好される傾向があることから、その対極にあたる、性的パートナーを持つ人々の性行為の結果である、出生数との比較を行う。なお、図中の値は国立社会保障・人口問題研究所による人口統計資料集( https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2022.asp?chap=0 )から引用し、2022年の出生数については日本総研による推計( https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=103846 )から77万人とした。
 結果を図2に示す。

 

 相関係数rは0.7<r<1.0であり、強い正の相関があるといえる。
 当然ながらこれは疑似相関であり、「成コミ誌のサンタコス表紙絵が増えれば、日本の出生数は改善する」ことを示すものではない。しかしながら、この二つの数値が、同一の要因との因果関係を持つことを示唆しているといえる。
 完結出生児数は、緩やかに減少トレンドにあるもののほぼ2.0で変化していないことから、急速な少子化進行の原因は産み控えではなく子を産む母親の数の減少である。また、日本においては婚外子数が極めて少ないことから、母親の数は婚姻数に強く影響される。
 ここで、成コミ誌の最大手にして標準である快楽天がサンタコス表紙絵を採用せず、また昨今は内容についても女性側の心理描写が巧みになり、端的に言うならばファンタジー度が年々低下していることを重要視したい。すなわち、ポルノのリアル化が男性を恋愛・婚姻から遠ざけているのではないか。そのリアル化のバロメータがサンタコス表紙絵率なのである。サンタコスのようなファンタジー度が高く、『ダサい』表紙絵によりポルノと現実を明確に区切ることが難しくなり、『オシャレ』に変化していくことがどのような影響を社会に及ぼすのか、今後も注視していきたい。

 

・その他
 サンタコス表紙は少数派である。しかし、多くの読者を抱えている雑誌(成コミリベラル)がサンタコス表紙を採用しないことと、その他多くの、少数の読者に先鋭的な作品を提供する雑誌がサンタコス表紙を採用しないことでは、その背景が異なっていることに留意すべきである。

 

6.総括
 2022年の成コミ誌サンタコス表紙絵率は、8.42%だった。サンタコスを採用した雑誌についてもその特性の違いがみられたが、サンタコスは圧倒的少数派であった。また、調査対象を紙媒体に限った場合のサンタコス採用率は21.7%であり、2013年からの継続的な減少トレンドが確認できた。

 

7.謝辞
 本調査は林Project(株)に多大な支援を頂いた。また、調査にあたっては、多くの成コミ有識者に助言・助力を頂いた。この場を借りて御礼申し上げる。

 

以上

 

本調査結果(Rev.1、最新版)のPDFはこちら (pass:1234)

2022/12/24版調査結果のPDFはこちら (pass:1234)